資源依存パースペクティヴは,組織における権力現象と環境適応を関連づけ,説得的な理論的枠組みを提供したが,「組織にとって重要な資源や問題は何か」という組織的認識の形成をめぐる権力現象については十分に論じてこなかった.本研究は「批判的」権力研究の蓄積に依拠しながら,資源依存パースペクティヴの批判的検討を通じて,組織論で展開される今後の権力研究においては,「組織にとって何が重要な資源依存関係であるか」という社会的現実について支配的な解釈と認識を形成するプロセスこそ今後の分析課題とされるべきであるという論点を提示し,研究の方向性を展望する.
本研究の目的は,同じ職能部門内のメンバー間におけるコンフリクトが他の職能部門のメンバーとのコミュニケーションに影響を与えるコンフリクトのトランスファー現象を定量的に検証することである.既存のコンフリクト研究では,この関係が十分議論されなかったが,本研究では,職能部門内メンバー間の資源や役割の配分に関するプロセスコンフリクトが他の職能部門メンバーとのコミュニケーションを促進することが明らかになった.
本研究は,日産自動車株式会社における研究開発拠点の分離と集約を事例に,物理的近接性(コロケーション)の逆機能が発生するメカニズムついて考察するものである.考察の結果として,「物理的な近接性がある場合,部門間パワーの格差があればあるほど,また,部門間に信頼がないほど,コロケーションによる部門間の連携よりも,パワー優位部門の業務が優先されてしまうコロケーションの逆機能」が発生する論理を提示する.
本稿の目的は,若年就業者の組織適応課題とされるリアリティ・ショック(reality shock)に焦点を当て,それが若年就業者の組織コミットメントや組織社会化,離職意思にどのような影響を与えているのかを理解することにある.本稿では,若年ホワイトカラーと若年看護師を対象として得られた質的/量的データを用いて比較分析を行った.分析の結果,組織コミットメントや組織社会化,離職意思に影響を与えているリアリティ・ショックは,それぞれ異なることが示された.
近年の日本企業で普及しつつある社員格付原理としての役割主義について理論的に定式化し,その機能要件を明らかにした.統計的分析の結果によると,能力主義と職務主義の性質を併せ持つ役割主義が業績に負の影響を与える傾向は,人事権が人事部に集中するほど弱くなる.また,対正規従業員比でスタッフ数が少ない,少数精鋭的でありうる人事部ほど,「役割主義×人事部集権」の機能性の向上に貢献できることが示された.
人事システムがある方針を反映する際の首尾一貫性の程度が組織パフォーマンスに及ぼす影響について,統計的に解明した.人事施策の充実度における正規従業員と非正規従業員の間での均等度に着目し,その程度における「基本システム」と「個別の管理分野」のマッチングが中程度の時に組織パフォーマンスが最大化する,という傾向が見いだされた.人事システムにおける首尾一貫性の追求に際しては,機能と逆機能が同時に現われる.
自らが競争する領域(ドメイン)を決めることは経営戦略の重要な構成要素である.これまで様々な研究者がドメインの領域あるいは範囲を問題としてきたのに対して,本稿ではドメインが階層性をもち,たとえ同じ領域を選んだとしてもその階層性に対する認識は組織間で異なることを主張する.この分析視角の有効性を示すために,ここでは液晶テレビ分野におけるシャープとサムスン電子のドメインの階層性を比較分析する.