本稿では,組織の中に蓄積された暗黙知の明示化,公共化に関わる困難を認知科学的に分析する.その困難は,意識化すら不可能な知識が存在すること,言語が断片的であるがゆえに状況の復元に十分なパワーを持っていないことに由来する.こうした困難を克服するためには,知識を,場の中でマルチモーダルシミュレーションによって生み出され,改変され続けるものとして捉えることが必要とされる.また状況や身体の情報を豊かに伝える象徴的言語の利用も知識の伝達には有効である.
近年増加するワークショップ型会議は,その効用が認められつつも,従来型会議と比較して信用性が低いとする意見が多い.現代企業組織においては,論理的な意思決定のみが意図せずコミュニケーションのルールになっており,人の自然な意思決定方法と乖離しているのではないかという仮説が立てられた.そこで一般生活者1,017名に対して,ワークショップ型会議で多発する二段推論型意思決定を再現する実験を実施し,仮説検証を試みた.
本研究の質問紙調査により,オープン化・メガフロア化の進展したオフィスでは,既存研究では指摘されてこなかった多様性(画一性)・整然性(雑然性)がオフィス環境の満足要因となることが示された.さらに,コンピューター・シミュレーションを用いた思考実験により,人間の認知的限界がその背景にあることが示唆された.
この論文は,人工知能(AI)が,組織とコミュニケーションへ持つ影響を論じる.非言語の要因を含め,コミュニケーションのあるべき姿は,状況(仕事,人,ビジネス環境)に強く依存し,普遍的な法則性はない.この複雑な問題に対し,AIはデータからシステマティックに組織や人にカスタマイズされた答えを提供する.我々は,従業員の集団的な幸福感が,ウエアラブルセンサからの身体運動のシグナルから定量化できることを発見した.しかも,この幸福感は生産性に相関することを明らかにした.これを用いることで,その組織の幸福と生産性に最適なコミュニケーションを明らかにすることができる.本論文では,最先端のAI技術を紹介するとともに,組織の活性化やコミュニケーションへのインパクトを論じる.
先行研究は,組織外部に存在する知識ソースからの知識の獲得に影響を与える要因として,ネットワークのポジションと組織内部の知識という2つの先行要因を提示してきた.本稿では,この2つの先行要因にライフサイクルの進行という視点を加え,抗体医薬品のライセンス提携のパネルデータを用いた検証を行う.そして,その結果を通じて企業の長期的な知識獲得のマネジメントについて議論する.
企業組織と混成的組織(hybrid organization)の選択については,明快で説得力のある実証分析は少ない.本論文は,取引費用理論と知識ベース理論をもとに,リスク知覚を考慮することによって,企業の境界の決定要因を明らかにした.それによると,(1)知識移転の容易さがフランチャイズの利用の前提となる,(2)取引費用がフランチャイズ利用に影響を与える,(3)フランチャイズ利用はリスク知覚とその制御による影響を受ける,ということが判明した.