海外子会社の知識移転において,その促進要因として知られる海外子会社と多国籍企業のネットワークに関する変数がどのように影響するのかを,メタ分析の方法を用いて検証した.実証研究64篇と216件の効果量を用いた分析の結果にもとづき,今後の研究課題について考察した.
本研究の目的は,多国籍企業における言語戦略が知識移転に及ぼし得る影響を,既存研究のレビューより考察し,日本企業の特殊性を考慮した実証研究の方向性を検討することである.国際経営における言語戦略の必要性や重要性が広く議論される中,日本企業を対象とした実証研究は皆無に近い.欧米企業を題材とした既存研究が英語の公用語化を巡る議論を発展させていく中で,日本企業を始めとするアジア企業のコンテクストに適合した実効性のある研究が求められる.なお,異なる言語戦略がもたらすパフォーマンスの違いや,販売,生産,開発といった機能部門別の言語戦略も検討されるべきであろう.
海外子会社は,現地の国の文化と多国籍企業の組織文化という2種類の文化コンテクストのもとにある.2種の文化が接触することで,海外子会社は様々な固有のメリットを享受することもできるが,他方で固有の困難にも直面することになる.本稿では,海外子会社への組織文化移転に関する既存研究をレビューし,その概念,測定,効果および促進・阻害条件を概観し,研究の地平がどこにあるのかを明らかにしていく.
本論文では,技術が知識と情報の組み合わせによって実現するものであるというフレームワークを提示したうえで,技術移転における知識移転の役割を明らかにした.このような視点でインタビュー調査結果を眺めてみて見えてきたのは,知識移転における対面コミュニケーションの新たな有効性と,情報の間口の狭さ・断絶性による海外子会社における知識移転と関連した構造的な難しさであった.
本稿では,山田・伊藤(2008)の先駆的な研究で取りあげられた有田焼,京焼の産地と日本最大の陶磁器産地である東濃地域との比較をつうじて,それぞれの地域の産業集積に特有の事業システムの決定要因を探究する.これによって,それぞれの地域における自然的・地理的条件や質的に模倣困難で持続的な競争優位の源泉となる地域特有の資源の有無が,地域の産業集積のあり方に重要な影響をおよぼすことが示唆される.
人間は他者の持つ自身に対するポジティブなイメージを守ろうとするため,監視や評価をされている状況では,撤退を選ばない傾向にあるとエスカレーション研究は指摘してきた.本研究はその知見を応用し,外部から来た取締役が多いほど,評価や監視が厳しいため,経営者は計画通りに進捗していない案件から撤退しなくなる可能性を議論する.その上で,撤退の事例として銀行の不良債権処理を用い,この可能性を定量的に検討する.
本稿の目的は,組織論的視点から我が国の政策に係る問題を考察することにある.日本の重点政策下では,当該政策と本来関連の薄い政府事業が予算を獲得しており,予算を通じた「選択と集中」が必ずしも達成されているわけではない.こうした問題は,「便乗予算」として指摘されている.本稿では,シンボリック・マネジメントの分析枠組みを用いることで,重点政策下で便乗予算という組織病理現象が生じるメカニズムを考察する.