境界とメンバーシップが明確なコミュニティーの営為を分析する概念として,多義的なソーシャル・キャピタルでは不十分である.本稿は,繁栄する温州人企業家やトヨタサプライチェーンの事例から,より限定的な中位の概念として「コミュニティー・キャピタル」を提唱する.機能するコミュニティーでは,成員への成功体験の「刷り込み」によって「同一尺度の信頼」が派生し,面識のない成員でさえ協力しあう「準紐帯」が醸成される.
企業とNPOの協働は,協働設定・経過・結果という時間経過をたどる.本稿では,共同開発という深い協働を展開している事例で,その協働設定と協働経過が高く評価されているにもかかわらず,数年後に協働結果に差が出る現象に着目し,その要因として,協働設定時の協働目的と自己利益の関係性に着目した.それを目的近似性と手段必要性の2つに分解することで,協働設定時に協働結果をある程度展望できる可能性を示した.
メインバンクは融資先の業績が悪化すると,役員派遣をはじめとするシステマティックな介入を行うことが既存研究で示されてきた.しかし,財務的に健全な企業やメインバンクを持たない企業の中にも,銀行から役員を招聘する企業は少なくない.この要因を明らかにするため本稿は,メインバンク研究と資源依存論を組み合わせ,資金の提供者が特定の相手に限定されているほど,パワー不均衡に陥り,役員招聘が行われることを議論する.
競争優位構築のため,自社新製品への競合他社の同質化を遅らせることは企業戦略上,重要な課題である.本研究では日本のビール業界のデータを用いて,自社新製品と競合他社の既存製品の類似度と,競合他社の同質化までの時間の関係を分析した.類似度が高い場合は,カニバリゼーションを原因として同質化が遅れることが分かった.また,カニバリゼーションの可能性が高い場合は,同質化時間のばらつきが大きくなることも分かった.
本稿では,警察庁が自治体警察と分業することで生じる情報の非対称性問題をインセンティブの観点から考察した.分析の結果,警察官僚が自治体警察の最高幹部に就任することで,自治体警察内の人事権を掌握し,人事情報の非対称性問題を緩和する.その一方で,警察庁は,自治体警察で早く昇進した者に人事業務の責任を負わせ,その代わりに将来の昇進可能性をインセンティブにすることを通じて,間接的に自治体警察を管理統制するシステムを構築していた.
本研究では,フレーミング効果および互酬性効果が交渉者の態度に与える影響を明らかにするため,企業内の予算交渉過程を描いた場面想定法実験を行った.実験から明らかになった知見は次の2つである.第1に,利得フレーミングの交渉者は,交渉相手からの譲歩を受けると,返報として自らも譲歩的な態度をとりやすい.第2に,損失フレーミングの交渉者は,相手からの譲歩の有無にかかわらず,強硬な態度を保つ傾向がある.
本稿は,人事異動の経験が従業員の組織的同一化に与える影響について明らかにする.人事異動を連続・非連続に分け,そして回数・頻度がどのように組織的同一化に関わるのかを仮説として導出し,生活協同組合への質問紙調査と人事データを組み合わせ分析した.その結果,昇進・昇格を介して異動経験が同一化に影響を与えること,あまりに頻繁かつ多くの異動経験は同一化に負の影響を与えることを明らかにした.