本研究では,危機状態と危機寸前状態の組織パフォーマンスへの影響要因の違いを分析するに,定量分析と定性分析を主とした事例分析という二段階手法を用いた.定量分析においては,リーダー変更・危機疲れが悪影響を与えるが,その度合いは状態に依存することを示した.事例分析においては,危機疲れがあるなかでのリーダー変更が好影響を与えるには,危機状態では新リーダーの特性が,危機寸前状態では迅速なリーダー変更が重要であることを示した.
本論文の目的は,安全管理研究のルールマネジメントに関する議論を批判的に検討し,アジェンダを再考することである.先行研究は,状況論や組織ルーティン研究,ルールの解釈的アプローチの知見を踏まえて,ルールと行為の関係を捉え直し,厳密なルールから柔軟なルールによるマネジメントへの転換を主張した.本論文では,この論理展開の理論的・方法論的問題を指摘した上で,代替となるアジェンダを提示する.
本研究は,着メロから着うた・着うたフルへと日本の有料音楽配信サービス市場が転換する局面に着目し,ネオ制度派組織論を起点とするメガマーケティング概念を活用して,組織フィールドにおける多主体の制度的実践について分析を行った.定性分析からは,複数の制度的実践による揺さぶりが明らかになり,得られた分析結果をもとに,定量分析によって市場の断絶と創造における制度的実践の成果について検証を行った.
本稿の目的は,組込み機器領域において近年問題視されているソフトウェア危機について,開発組織の面からその対応策を探ることにある.従来から,ソフトウェアの大規模化への対策としては,開発対象のモジュラー化を進め,個別開発タスクの独立性を高めることが有効であると論じられてきた.しかし,要求機能の高度化が著しい場合には,モジュラー化という設計努力に加え,成員間でシステム知識を共有する体制の構築が必要となる.
本研究では,第一次世界大戦期における国際的二重課税問題と帝国内所得税重複抗議協会を事例に,企業の危機マネジメント研究の新領域を指摘した.具体的には,危機への対応策を政府に実行させることも危機マネジメントの形態の一つであると論じ,この種のマネジメントには,非市場戦略論,企業による政治的活動研究の知見を用いることができるとした.また,政治的活動を行う際に,集合的に活動することの効用についても論じた.
組織行動論はこれまで,個人の能力獲得を規定する要因として個人要因と集団要因を考慮してきたが,小売業の店頭従業員においては所属する店舗の市場環境が影響を与える可能性が高い.そこで,本論文では個人の能力獲得に影響を与える要因として,個人・集団要因に加えて市場要因を考慮した分析枠組みを構築して実証分析を行った.その結果,個人の能力獲得には市場要因が直接的・間接的に影響を与えていることが明らかになった.
営業担当者は,顧客志向やコンサルティング志向を背景に,異部門メンバーと協力し成果を高める.その過程で生じる部門間タスク・コンフリクトは,営業担当者の志向と成果の関係を媒介する.本研究では,営業担当者の顧客志向が部門間タスク・コンフリクトを通じて個人成果を下げるものの,コンサルティング志向はタスク・コンフリクトを高め,個人成果に貢献することを定量的に検証した.
本稿は,創業経営者による使用理論の省察と経営理念の制作に着目し,創業期のベンチャーにおける企業家学習の過程と成果をアクション・リサーチによって得られた経験的データに基づく事例分析で解明する.分析の結果,創業経営者は,自らの使用理論を省察することで,自己と従業員たちとの差異を認識し,経営理念を断続的に制作する中で,自らの使用理論とベンチャーの経営理念とを選り分けることが明らかになった.