本稿は,日本に研究拠点を置く我々が,日本企業の研究を通じて世界の学界へいかに貢献できるのか,あるいは貢献すべきなのか,その戦略的方向性を明示する試みである.かつて日本企業研究が世界へ残した貢献を振り返るとともに,日本企業への関心が減退した2000年以降から現在まで,日本企業を対象としたトップジャーナル論文をレビューする.これらを踏まえ,世界の学界への貢献に資する日本企業研究の3つの戦略的方向性を提示する.
日本の経営学者や経営学界は,米国発のグローバル経営学プラットフォームや論文点数主義にどう向き合うか.私見を述べる.⑴一経営学者の存在理由は「良いメッセージの発信」であり,海外ジャーナルからの発信はその重要な一部だがすべてではない.⑵日本の経営学界は,一方的なローカル路線でもグローバル標準化でもない,グローバル・ローカル混合式へ進み,その一部が有力ジャーナル経由のグローバル発信を目指せばよい.⑶有力ジャーナル挑戦はいわば高峰登頂なので,アタック隊・サポート隊・ベースキャンプなど学界も関与する組織的な仕掛けが必要.また言語の壁,方法論の壁,ローカルデータの壁などに対する周到な対策も大事である.
日本企業を中心とした海外調査からの知見を元に,「日本企業研究の面白さ」を論じる.筆者の考える面白さとは,調査研究で発見した,通説とは異なる事象である.なぜそうした事象が観察されるのかを考察することで,若い研究者諸氏が日本企業研究の意義を見出す手がかりにして頂きたい.本稿では,「本社と海外子会社の集権と分権」,「経営者の現地化と人材育成」,「日本方式は制度と文化の壁を乗り越えられるか」を軸として論じる.
日本の経営学者たちは,いま様々な分断のただ中にある.学会を挙げて進める「組織調査」プロジェクトを推進する中では,それらの分断の輪郭が明瞭に浮かび上がってくるとともに,プロジェクトの意義がまさにその分断を繋ぎ合わせることにあることが見えてきた.プロジェクトリーダーによる内部アクションリサーチの成果という形で,その分断のあらましと,我々がいかにそれを解決しようとしているのかを議論する.
本稿は,コーポレートガバナンスの仕組みが,企業組織のヒエラルキーの最上位にいる経営者による不正を防ぐことができるのかを検証した.2006年から2015年の日本の上場企業の不正会計を対象とした実証分析の結果,コーポレートガバナンスの仕組みは,経営者以外による不正会計を減少させるが,組織階層の最上位にいる経営者による不正会計を防ぐことは困難であることが示された.資本アプローチによるガバナンスに新たな視点を示す.
組織の正統性の修復戦略に関する既存研究は,経営者が発する言語メッセージの内容に焦点を当ててきたが,本稿では経営者の「表情」という非言語的要素が戦略の帰結に大きな影響を及ぼすことを指摘する.同じ危機に直面して正統性の修復戦略を実行し,その成否が分かれた2つの企業(マクドナルドとファミリーマート)の事例を取りあげ,経営者の言語と表情を比較分析することにより,本稿の主張を裏付ける.