本稿の目的は,企業現場で急速に発展している組織・消費者間コミュニケーションについて,近年の学術研究ではどのようなデータが収集・分析されているのか紹介することである.分析を①テキスト分析,②行動データ分析,③アンケート調査分析の3つに整理したうえで,それぞれの分析における「具体的なデータ収集・分析方法」「分析で明らかにできること」「適しているテーマ」を述べる.
理論を構成する抽象概念の変数化は,実証を行う上で重要な作業である.経営学者はアンケート調査を活用して概念の抽出を行ってきたが,データの大規模化や時系列での取得が困難であるため,一部の理論の検証が難しい.このデータに関する問題を解消するために,自然な人の行動の記録であるログデータの活用方法を模索する必要がある.そのため,本稿では自然言語処理と機械学習を応用したログデータの活用方法を検討する.
イノベーション研究の定量研究は,そのデータ源が多様化しつつある.本稿は,イノベーションの計測,イノベーションをめぐるアクター間の関係性の操作化の新潮流を,2010年以降に行われた国内外のイノベーション研究のレビューから描き出した.とくに,イノベーションの計測におけるテキスト情報の利用,そして,ユーザーの手によるデータの利用,また,アクター間の関係性を計測可能なデータの利用が,イノベーション研究の展開を豊かにしている傾向がうかがわれた.
本稿では経営学の研究手法としての実験を取り上げる.因果関係の検証に優れた強みを持つ実験は,他の研究手法と補完的に組み合わせたり,新たな情報通信技術を取り入れたりすることで,今なお経営学のツールキットにおける重要な一角を占めている.しかし他方で,再現可能性問題の表面化により,そのあり方について根本的な再考が求められてもいる.本稿はこれらの現状を概観したうえで,経営学における実験研究の展望を論じる.
障害者の職場定着を促すうえで,障害者の特別な人事管理の要否に関する先行研究の見解は一致していない.本稿は,社会的アイデンティティの考慮の有無に注目したアイデンティティ・コンシャス人事管理とアイデンティティ・ブラインド人事管理の枠組みからその境界条件を検討した.事例研究により,職場で共有されている障害者の能力観と障害者活用におけるライン管理者の裁量が境界条件として機能することを例証した.