経営学とりわけ組織行動・人事管理の研究群を,エビデンスの観点から振り返ることを通じて,2000年以降に経営学の中に登場したエビデンス・ベースド・マネジメント(evidence-based management:EBMgt)を,経営学説の中に位置づけることが本稿の目的である.科学的管理,人間関係論,新人間関係論といった研究群を,それぞれエビデンスというものをどのように捉えていたのかという観点から整理することで, EBMgtの議論を相対化することを目指す.
本研究では,日本における実践家のしろうと理論と科学的エビデンスの一致/不一致について,Rynes et al.(2002)の研究を参照しつつ,経験的に検討する.具体的には,230名の日本人人事プロフェッショナル,314名の人事職能以外の日本人ビジネスパーソン,124名の日本人大学生に対するサーベイリサーチによって得られたデータと,Rynes et al.(2002)の結果の比較検討を通じて,この問題を検討する.
本研究では,人事管理領域の研究から生まれた学術的概念,そして必ずしも学術的な出自を持たないビジネス用語を,人事プロフェッショナルたちがどの程度認知しており,またそれを実践において活用しているのか,ということを経験的に検討する.加えて,それらの概念がどのようなルートを通じて獲得されているのか,しろうと理論と科学的エビデンスとの一致数は,どのようなルートと強く関連しているのか,ということを検討する.
管理会計領域における「エビデンス」の役割を概説することが本論文の目的である.具体的には,日本管理会計学会が刊行する『管理会計学』に掲載された特集「エビデンス・ベーストな管理会計研究を目指して」の内容を紹介することで,経営学全体へのインプリケーションの導出を目指す.結論として,①経営学分野での経済的帰結を意図した研究の必要性を示し,②エビデンス・ベーストな研究が「研究成果の提供」と「方法論の提供」の2つのルートで実務に資することを主張する.
プラットフォーム(PF)ビジネスの競争力を説明する上での伝統的な理解の多くは,ネットワーク効果がその中心に置かれていたように思われる.しかし,近年では,いかにして補完者からのエンゲージメントを引き出し,自社PFに動員し定着させ続けるかという議論に注目が集まっている.本稿では,この補完者エンゲージメントに着目し,PF境界資源を活用した補完者エンゲージメントのマネジメントを議論する.
本稿では,ジェンダーとそれに伴う権力関係の観点から,実践共同体における参加者の個別性に応じた学習を検討した.大手部品メーカーが工場内に設置した育児中女性専用の生産工程における女性作業員の学習プロセスの事例分析を行い,参加のあり方の相対化,権力関係に根ざした有能さの構築,社会物質的な排除による包摂,という3つの理論的含意を明らかにした.
被買収企業の従業員による革新的行動は,買収の成功に欠かせない要素である.先行研究は,買収後の業務統合と公正性が従業員の革新的行動に影響を与える可能性を示唆している.しかし,具体的な影響や時間の経過による変化のパターンは明らかになっていない.本研究は,622人の買収経験者を対象に した質問票調査から,これらの課題を検証した.