ソシオロジ
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62 巻, 1 号
通巻 189号
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論文
  • ――アロイス・ハーンの「戦略としての了解」論を手がかりに――
    井口 暁
    原稿種別: 研究論文
    2017 年 62 巻 1 号 p. 3-21
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2021/06/04
    ジャーナル フリー

    本稿では、ユルゲン・ハーバーマスの「理性的合意論」に対する批判的オルタナティヴとして提起されたアロイス・ハーンの「戦略的了解論」に注目し、前者に還元されない後者の固有の洞察と意義を検討する。そしてそれを通じて、異質な人々が(無理に)一致を目指すのではなく異質なままで共存し協同する可能性とその条件について検討する。 ハーバーマスは、現代社会における協同形式として理性的討議を通じた合意形成の重要性を説いた。異質な人びとがお互いのパースペクティヴを理解し合いながら自己中心的な考え方を乗り越え意見を一致させていくという「了解 Verständigung」のアイディアだ。しかしそれは、「非理性的」とされる異質な他者を排除し多様性を切り詰めるので はないかという批判や、現実の対話において不合意が残る場合にどうするのかという疑問も招いてきた。 こうした中、ハーンは「戦略としての了解」(1989)において、他者との全面的な理解と合意の不可能性から出発するコミュニケーション論の立場から、従来とは異なるハーバーマス批判を展開した。そして、理性的な合意が困難な場合に人びとが異質性を残したままで社会的に折り合うための現実的な枠組みとして、ハーバーマスとは異なる意味合いで、「了解」を概念化した。 そこで本稿ではハーンのハーバーマス批判の着眼点を整理するとともに、了解の様態及び条件に関わる四つの論点を検討する。その論点とは、第一に了解の戦略的基盤、第二に「かのように」を通じた「合意フィクション」としての性格、第三に合意追求の断念という前提の必要性、第四に了解の非対称性と暫定性、である。以上の検討を通じて、「差異を含みこんだ一致」に関する目下の社会学的・政治学的な探求に対するハーンの議論の重要性を示したい。

  • ――当事者Aさんの事例から――
    梅川 由紀
    原稿種別: 研究論文
    2017 年 62 巻 1 号 p. 23-40
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2021/06/04
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、「ごみ屋敷」の当事者が溜め続けるモノの意味を明らかにし、人間にとってのごみやモノの概念を再考することである。これまで当事者は、社会的孤立/断絶状態にあるとみなされてきた。しかし本稿では、毎日スーパーに出かけ、多くの他者とコミュニケーションを図りながらごみ屋敷で暮らす、当事者Aさんを取り上げる。分析においてはモーリス・アルヴァックスの「モノと記憶」に関する議論に着目した。調査は、当事者Aさんへのインタビューと、片づけ作業およびその後の生活状況に関してフィールドワークを行った。 調査の結果、大きく二つの指摘を行った。第一に、モノを溜め込むことで構築されるアイデンティティを明らかにした。Aさんは他者と良好なコミュニケーションを図ることを「望ましい自己」の姿と捉えていた。そして家に溜め込むモノは「望ましい自己」を達成した「証」として理解されていた。ゆえにAさんがモノを溜め込む理由は、望ましい自己を実現した記憶を、モノという形ある対象に具現化し、記憶を保管するためであることを明らかにした。そして、ごみ屋敷に溜め込まれるモノには、「心情的価値」と名付けられる価値が存在する様子を示した。第二に、モノを捨てることで構築されるアイデンティティを明らかにした。Aさんはモノを捨てることでジレンマを解消でき、新たに望ましい自己の証を手に入れられる場合、モノをごみと捉え、捨てていた。「必要な存在」としてのごみの側面を明らかにした。 ごみ屋敷とは、単なるトラブルという側面を超えて、人間とごみ・モノとの関係性を私たちに問いかける事象であることを明らかにした。

  • ――文化的豊かさに注目して――
    猿渡 壮
    原稿種別: 研究論文
    2017 年 62 巻 1 号 p. 41-59
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2021/06/04
    ジャーナル フリー

    これまで、ボランティア参加と社会階層の関係に関してなされた多くの研究において、高階層の人ほどボランティア活動への参加に積極的であることが明らかにされてきた。そこでは、収入や財産が多いこと、学歴が高いこと、専門職や管理職に就いていること、自分を上層だと認識していることなど、階層の高さに関わる種々の要因がボランティア参加と関連することが示されてきた。しかし、階層に関わるどの要因が強く参加に影響しているのかという点について、日本の諸研究の見解は必ずしも一致しているわけではない。そのこともあり、既存の諸研究は参加の背後に何らかの“豊かさ”が存在することを示しつつも、どのような豊かさの違いが参加に影響しているのかという点について、あまり明確な回答を提示していない。 そこで本研究では、「ボランティア参加には階層差があるのか」という従来検討されてきた問題に加えて、「どのような豊かさの違いが参加に影響しているのか」という問題について検討を行う。分析に用いるのは「二〇〇五年SSM日本調査」から得られたデータである。このデータをもとに、現在および出身家庭の経済的豊かさや文化的豊かさに関する指標が作成され、それらの変数がボランティア参加に与える影響について検討がなされる。 分析から示されたのは、(一)経済的な意味での豊かさよりも文化的な豊かさが参加に強く影響していること、(二)出身家庭の文化的豊かさや現在の経済的豊かさが、現在の文化的豊かさを介して参加に影響していることである。以上の分析結果を踏まえ、幅広い層からの参加によって成りたつ市民社会にとって、文化的再分配を目指す施策が重要な意味をもつことが議論される。

  • ――一世世代に着目して――
    瀬戸 徐 映里奈
    原稿種別: 研究論文
    2017 年 62 巻 1 号 p. 61-78
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2021/06/04
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、異文化社会で新たな生活基盤を築くことになった在日ベトナム人が、故郷の「食」を再現する際にどのような社会関係を利用するのかを明らかにすることである。そのために、食べ慣れた故郷の料理に必要な食材を調達する行為を食の調達実践とよび、貨幣を用いる市場交換・採集や栽培などの自給・人間関係を介する互酬という三つの実践に区分した。 エスニック・ビジネスが発達していない一九八〇年代の日本の地方都市に暮らす在日ベトナム人の生活状況は、日本の市場状況の変化、ベトナム本国の政策転換、日本で新たに繫がったエスニック・ネットワークの発達状況および地域社会との繫がりに基づくと、①一九七〇年代末―八〇年代、②九〇年代―二〇〇〇年代前半、③二〇〇〇年代後半―二〇一〇年代半ばという三つの時期区分に大きく分けられる。この時期ごとに、先述した三つの実践がどのように編み出され、変容したのかを分析することで、食の調達実践を介して浮かび上がる社会関係を明らかにした。 その結果、類似した食文化をもつ他のエスニック・ビジネスの利用や、地域独自の小さな市場へのアクセスなどの市場交換に加え、自然環境を活かした採集や栽培による自給、また国内外のエスニック・ネットワークや就労現場などで出会った人びとの間で互酬が実施されていることがわかった。エスニック・ビジネスに現れるような「食」の提供者、または消費者という関係性に留まらない在日ベトナム人の生活者としての姿を描くことができ、自文化を維持する私的な生活領域から、在日ベトナム人が形成してきた社会関係の様相を捉えることができた。

  • ――政治委任意識と格差肯定意識に注目して――
    狭間 諒多朗
    原稿種別: 研究論文
    2017 年 62 巻 1 号 p. 79-96
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2021/06/04
    ジャーナル フリー

    今の若年層は将来に希望が持てず、それゆえに現在志向が強いのではないかという議論がある。ところが一方で、将来が見えづらいからこそ今の楽しみよりも将来のための努力を優先している若年層を想定することもできる。先行研究では、若年層において学歴が低いほど現在志向が強く、反対に学歴が高いほど現在志向が弱いという学歴差がこの二〇年の間に発生したことが明らかにされている。そこで、本稿では若年層における現在志向の学歴差がどのような問題を引き起こすのかを明らかにする。 本稿で着目するのは「おとなしい若年層」という問題である。社会構造的な問題によって若年層が社会的弱者に転落したにもかかわらず、社会に対して異議申し立てを行う若年層は少ない。その理由として現在志向が政治や格差といった大きな問題に対して受け身にさせているということが指摘されている。 本稿では、政治委任意識と格差肯定意識に注目し、現在志向、およびその学歴差との関連を分析する。 分析の結果、若年層において、現在志向が強いほど政治委任意識、格差肯定意識が強いこと、低学歴の若年層が現在志向を通して政治委任意識、格差肯定意識を強めていることが分かった。 低学歴の若年層ほど困難な状況に置かれている。本来なら政治に訴えかけ、格差縮小を求めるべきかれらの意識を現在志向が屈折させ、自らの利益と相反する方向へ導いてしまっていることがわかった。また、この関連は現在の若年層における学歴と現在志向の結びつきの強さに起因している。現在志向を弱めるために、低学歴の若年層が、今努力すればよりよい将来が得られるという見通しを持てる社会を作ることが重要である。

  • 郭 雲蔚
    原稿種別: 研究論文
    2017 年 62 巻 1 号 p. 97-113
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2021/06/04
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は職場における非正規労働者の割合が同じところで働く正規労働者の雇用安定満足度にどのような影響を及ぼすかを解明することである。 非正規労働者は欧米のみならず、日本においても特に一九八〇年代以降、絶えず増加している。非正規労働者の増加は季節的に変化する労働需要を満足してきたものの、非正規労働者自身に不安定・低賃金・社会保障の不備といった一連のリスクをもたらしている。しかし、同じ職場で働く正規労働者の視点からどのように非正規労働者の存在をとらえるかという問題が日本における先行研究では十分に検討されてこなかった。果たして正規労働者は非正規労働者の存在を自らの仕事の地位の脅威として認知し、雇用安定満足度を低く見積もる傾向があるだろうか。こうした傾向に関して異なる従業形態の非正規労働者の間に異同が存在するのか。こうした問いを解明するために、本稿では「多様な就業形態に関する実態調査」のデータを用い、非正規雇用をパート・有期社員・嘱託社員といった三つの類型に区分し、それぞれ正規労働者の雇用安定満度に及ぼす影響について計量分析した。 分析の結果から、非正規労働者の三類型ごとに正規労働者の雇用安定満足度に与える影響が大幅に異なっていることが明らかになった。第一に、パートのいる職場で働く女性の正規労働者は雇用に関する不安が高い傾向が示された。第二に、有期社員の多い職場で働く男性の正規労働者は雇用に関する不安が高いという傾向が観察された。第三に、嘱託労働者の雇用は、男女ともに雇用安定満足度の低下を生じさせないことが示された。

研究ノート
  • ――「更生」における自己責任の内面化――
    相良 翔
    原稿種別: 研究ノート
    2017 年 62 巻 1 号 p. 115-131
    発行日: 2017/06/01
    公開日: 2021/06/04
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、更生保護施設在所者の「更生」について、就労を焦点にして考察することにある。本稿での「更生」とは犯罪を起こした後に犯罪をすることなく生活を続けていくプロセスを意味する。 近年、我が国において元犯罪者の「更生」が専門家によってテーマ化され議論されるようになってきた。そのような状況下において社会内処遇の専門施設である更生保護施設への着目も高まっている。更生保護施設における処遇の中心は就労支援に置かれている。また様々な先行研究においても就労が元犯罪者の「更生」において重要な要因となっていることを指摘している。 そのような前提を置き、更生保護施設Xでのフィールドワークを通じて得られたデータに基づいてX在所者の「更生」について浮き彫りにした。その結果、①X在所者が不安定就労ではあるが速やかに就労する仕組みがあったこと、②X在所者は他者から承認を得るための「就労規範」と他者から距離を置くための「就労規範」の遵守をもって、不安定就労を維持していたこと、③ある元X在所者が退所後において病気からの回復・今後の生活設計・再犯に対する不安を伴いながら、自身の「更生」について語ったことの三点を描き出した。 記述の結果から、X在所者の「更生」は「自立」と同一視されていることがうかがえた。本稿における事例では、自らの貧困状態を犯罪歴と共に「犯罪」に含めて語っていた点が特徴的である。それは「更生」に対する自己責任の内面化を強めていく可能性がある。それにより元犯罪者の「更生」という文脈において、貧困を初めとした諸問題における社会の責任が後景化する可能性を持つことを指摘した。

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