本研究の目的は、自傷誘発のリスクファクターとされる生物学的基盤を持つ感受性(HSP: Highly Sensitive Person)と親から子に対して不承認的態度をとることが自傷傾向(自傷が行われる可能性の高さ)に影響を与えること、そして、そのパス経路の間には推論の誤りが媒介していることといった自傷発生の感情情報伝達過程の一端を実証的研究により検証することであった。方法として、調査は大学生314名(有効回答者数は298名)を対象に実施し、統計的解析では媒介分析を用いた。結果として、気質的な感受性であるHSPから自傷傾向の間には推論の誤りが部分的に媒介していた。そして、母親不承認を高低(平均±0.5 SD)の2群に分けて比較を行ったところ、低群では、HSPは推論の誤りを部分的に媒介していたのに対し、高群では完全に媒介していることが確認された。したがって、HSPは母親不承認が重なると、より高水準の推論の誤りを導き、その結果、自傷傾向を高めていることが示唆された。
救急医療と精神医療の連携を図るため平成28年度診療報酬改定で精神科急性期医師配置加算が新設された。有床総合病院精神科にとって大きなインセンティブとなったが、同加算の評価に関する報告は乏しい。本研究では平成28年4月から平成31年3月の間に東京大学医学部附属病院へ救急搬送後、同加算の枠組みのもとで12時間以内に精神科医が診察を行った患者を対象に診療録を用いた後方視的分析を行った。対象325例中164例に自殺企図または自傷行為が認められた。精神科受診歴がない患者30例のうち21例に自殺企図が見られ、自殺企図の症例では複数の手段を用いた事例が13.6%で見られた。精神科入院に至った患者は既報に比べ少なかった。本研究から、同加算の導入以降、未受療者や軽傷者を時間外でも速やかに精神科診察につなげられていることが示唆された。
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