社会政策
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10 巻, 1 号
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巻頭言
特集■正社員の労働時間,非正社員の労働時間
  • 田中 洋子
    2018 年 10 巻 1 号 p. 5-24
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/08/05
    ジャーナル フリー

     「働き方改革」が進行中にもかかわらず,どういう人がどのくらい長く働いているのかという最も基本的な事実は,これまでの研究で十分に明らかにされてこなかった。正社員・非正社員の労働時間は統計で一括りにされ,事業所が提供する労働時間のデータは現実と異なるなど限界がある。法律で定められた週40時間の上限と,労使の36協定による労働時間,さらに職場でのサービス残業を含む実際の労働時間は大きく異なり,その乖離がどれほどあるか,なぜあるのかについても十分には解明されていない。 ここでは労働時間を議論する前提として,正社員の労働時間の長さ,それが決まる仕組み,実際の労働時間数について,日本が労働時間短縮の目標としてきたドイツと比較しながら確認する。両国は労働時間構造の二重化や,労使自治による協定労働時間,それと異なる実際の労働時間という重要な共通点をもっている。にもかかわらず,労働時間に大きな差がついているのはなぜなのか,比較歴史分析の視点から考察する。

  • 浦川 邦夫
    2018 年 10 巻 1 号 p. 25-37
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/08/05
    ジャーナル フリー

     従来の貧困研究の多くは,所得などの経済的な指標を基準として貧困か否かの認定を行ってきた。しかし,労働時間を生活時間論の中に位置づけて展開した篭山京(1910-1990)の考察に見られるように,生計を立てるうえで必要な労働時間ならびに労働に必要な休養・余暇時間も所得と同様に欠かせない資源であり,最低限の生活を持続的に営むうえで必要な生活時間の水準が存在していると言える。欧米では,就労世代の家庭での生活時間の不足を考慮した時間貧困とその要因に関する研究が近年蓄積されており,日本でも個票データを用いた推計が行われつつある。そのため,本稿では生活時間の次元に注目した貧困研究に焦点をあて,その主な分析結果をサーベイし,特に就労世代の貧困の削減に向けた方策を検討する。 生活時間を考慮した貧困分析では,夫婦がともにフルタイム就労している世帯や就学前の子どもを持つ世帯などで時間貧困のリスクが高くなっており,家庭での十分な生活時間の確保にむけた対応が重要な政策課題として浮かび上がる。時間の次元を考慮することで,所得の貧困の削減に対してもより包括的な政策アプローチが可能になると考えられる。

  • 中村 圭介
    2018 年 10 巻 1 号 p. 38-45
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/08/05
    ジャーナル フリー

     労働基準法と労働協約・労使協定といった労働時間を定める基本的ルールは労働時間の下限と上限を決めているだけである。個々の労働者が実際に何時間,働くのかを決めるのは工場やオフィスなどの職場に課せられた事業計画と配置された要員数であると考えられる。要員数の算定方式には戦略アプローチ,財務アプローチ,業務量アプローチ,目標直間比率などいくつかのアプローチがあり,業務量アプローチ以外のアプローチによって算定された要員数は職場に課せられた事業計画を遂行するのに必要な人員数に満たないことがありうる。この場合,長時間労働が常態化するおそれがあるが,日本企業では通常,それを是正する力が働きにくいことを指摘する。その背景には日本の労働者の多くがPlan-Do-Check-Actionサイクルに巻き込まれながら働いていることがあると思われる。こうした状態から脱出するための有効な施策として,職場の労働組合による規制があるのではないかと仮説的に指摘する。

  • ―パートタイマーを中心に―
    三山 雅子
    2018 年 10 巻 1 号 p. 46-61
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/08/05
    ジャーナル フリー

     構造改革は雇用も含め様々な分野で規制緩和を進めたが,スーパーは規制緩和が典型的に実行された産業である。本稿は,スーパーを対象として労働時間規制の変化及び営業時間・出店等の雇用以外の規制緩和が,人事制度や雇用構造に与えた影響を解明した。大店法の廃止以後,スーパーは長時間営業化し,厳しい販売競争に直面した。スーパーはこの競争に,一つは雇用構造を変化させることで対応した。その結果,パートの契約労働時間は短時間化しかつ契約労働時間数は職務の難易度と結びつけられた。社保・年金が適用可能な労働時間契約は,管理的業務を担う上位等級のパートに対して提供されることとなった。一方,正社員は管理・経営業務の担い手となり,時間的・空間的制約なしに働くことが求められた。このような正社員の働き方は,労働力再生産に関わる労働者を中核的正社員から排除したが,今このような働き方は男女労働者にとって不可能なものとなっている。

  • 菅沼 隆
    2018 年 10 巻 1 号 p. 62-74
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/08/05
    ジャーナル フリー

     労使自治が強く尊重されるデンマークでは,労働時間も産業別職業別の労働協約で決定される。現行の週37時間制に移行した時期は1980年代後半であったが,賃金引き上げ率の抑制と労働時間の短縮という労使の妥協のなかで実現した。1990年代に入って,団体交渉の分権化が進展し,労働時間も職場の交渉で決定される余地が拡大した。労働組合の集団的な規制と個別労働時間の決定との関係を金属産業の労働協約をもとに明らかにした。そこでは残業回避の努力義務が明記されるとともに,残業決定の手続きが厳格に定められていること,平均労働時間を算定する期間を延長することで柔軟化していることを確認した。また,フレクシキュリティのマトリックスの「組み合わせ保障」の領域として育児休業制度および職業訓練制度を指摘した。団体交渉の内容を分析することで,育児休業制度が生成し・展開するプロセスを明らかにした。さらに,ホワイトカラーの労働時間管理について,集団的規制はほとんどないが,週37時間が参照すべき基準となっていることを明らかにした。

  • ―要員をめぐる話し合いに焦点を合わせて―
    禹 宗杬
    2018 年 10 巻 1 号 p. 75-83
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/08/05
    ジャーナル フリー

     この小論では,労働時間問題へのもう一つのアプローチとして,要員をめぐる労使の主体的な話し合いに焦点を合わせて,検討を行った。そのうえで,要員の設定あるいはそのチェックに関して,当事者の労使が,本当のことをよく知らないのではないか,という仮説を提起した。 それをふまえ,労働時間短縮に向けた実践可能な道として,次のような提案を行った。まず,労働者の希望労働時間と希望生活時間を正確に把握するとともに,企業や組織にとって長期的に必要な要員数を正しく算定すべきである。それに基づき,要員算定・運用において,①WLBに必要な余裕と,②創意工夫に必要な余裕を保てるように努力しなければならない。次に,労働時間と要員をめぐって事後に話し合う現在のやり方を改め,労使間で事前に話し合う慣行を作り上げるべきである。

小特集■現代欧州の労働組合と労使関係
  • ―小特集に寄せて―
    兵頭 淳史
    2018 年 10 巻 1 号 p. 84-86
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/08/05
    ジャーナル フリー
  • 岩佐 卓也
    2018 年 10 巻 1 号 p. 87-94
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/08/05
    ジャーナル フリー

     近年ドイツでは事業所閉鎖をめぐるストライキが頻発している。しかし意外にも,ドイツではこうしたストライキは1998年が最初である。従来から事業所閉鎖に際しては,経営組織法に基づいて,従業員代表委員会と使用者が補償金や再就職支援などについて協定する「社会計画」の仕組みが用いられてきた(労使が合意できない場合は仲裁委員会が社会計画を作成)。しかし,交渉に際して従業員代表委員会はストライキを行うことができず,限界があった。 そこで近年では,社会計画の内容を労働協約によって規定する場合がある。この労働協約を「社会協約」という。社会計画と異なり社会協約の場合は,使用者と労働組合が交渉当事者であり,労働組合はストライキの威力を用いて,社会計画では達成できない水準の補償金などを勝ち取ることができる。 本稿では,こうしたストライキの具体的な事例,および法的な限界などの諸問題について検討を行う。

  • ―「企業別組合」論への示唆―
    赤堀 正成
    2018 年 10 巻 1 号 p. 95-107
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/08/05
    ジャーナル フリー

     フランスでは1968年5月のいわゆる「五月革命」を経て,ようやく企業内における労働組合活動が法認された。とくにフランス労働総同盟(以下,CGT)は第二次世界大戦後間もなくから企業内における労働組合活動の自由を強く要求してきた経緯があり,企業別・事業所組織を単位組合(サンディカ:syndicat)として位置付け,サンディカの主体性のために「分権化」を基調としている。 このような点に注目すれば,CGTの組織は,企業別労働組合を基本単位とする日本の労働組合組織とよく似ているように見えるが,その行動様式や在り様はかなり異なり,CGTは職場と地域において戦闘的な運動を展開することでよく知られている。本稿では企業別労働組合を基本単位としながらも日仏に見られるような対照的な労働組合運動が現れる理由をCGTの組合費の分配を含む組織構造の面から考える。

投稿論文
  • ―第一次大戦前の西洋諸国を対象とする国際比較研究―
    松永 友有
    2018 年 10 巻 1 号 p. 108-121
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/08/05
    ジャーナル フリー

     本稿は,原初的福祉国家体制の草創期である第一次大戦前の時期に焦点をあて,自由貿易か保護貿易かという通商政策レジームの相違が西洋諸国各国における社会保障政策導入のあり方を重要な面で規定していたという新説を実証する。その目的のため,老齢・疾病・失業の各リスクに対応する強制加入型社会保険・年金制度,及び最低賃金制度に関する広範な各国間比較を行う。 西洋の主要工業国をことごとく射程に入れた国際比較分析の結果,次のような知見が得られた。第一の点として,各種の社会政策を導入した順序に関しては,保護貿易国が自由貿易国に先行するという明白な傾向が認められた。第二の点として,保護貿易国と比較した場合,厳しい競争圧力にさらされている自由貿易国は,重い労使負担,特に雇用主負担を避けるため,公費負担に比重を置いた社会保険・年金制度を策定する傾向が認められた。

  • ―百貨店,総合スーパーの事例を中心に―
    野村 かすみ
    2018 年 10 巻 1 号 p. 122-135
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/08/05
    ジャーナル フリー

     本研究は,小売業における企業の雇用形態別従業員編成のメカニズムを百貨店2社,総合スーパー1社の事例調査結果から考察することが目的である。考察にあたっては,まず小売業事業所の従業員構成の特性を抽出する目的で既存アンケート調査の二次分析を行い,小売業では正社員は少数精鋭に絞り,非正規従業員を基幹的な労働力として活用していることを再確認した。 その前提で,事例分析からは,既存調査の指摘の通り,小売業企業は利益と費用としての人件費の効率化の関係の下で非正規従業員の基幹化を進めていること,すなわち,従業員編成には企業内各レベルでの「経営計画」や「財務目標管理」が影響を与えていることを確認した。また,本研究では,人事管理において職能による管理か職務による管理かにより人事情報の共有のあり方が異なり,「情報の一元化」の度合いなど情報共有のあり方や経営計画の変更スパンなども従業員の非正規化に影響を与えることの考察の重要性を示唆する。

  • ―公益的活動の法制化に着目して―
    村田 文世
    2018 年 10 巻 1 号 p. 136-147
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/08/05
    ジャーナル フリー

     今般,社会福祉法人制度改革において社会福祉法人の公益的活動が法制化された。本稿はその公益的活動に関して,従来の地域福祉論とは異なる地方自治の視点から地方分権下の地域社会における意義を検討するものである。同時に実証研究のための理論仮説の生成も意図している。最初に,経営学の「事業ドメイン」の定義を援用しつつ公益的活動について理論的に整理し,次に,地方分権下の地域社会を巡る環境変化(基礎自治体の役割変化,市町村合併と行政区域の再編,求められる地域再生)を踏まえた上で,意義として,政策立案過程への寄与,分権型社会における地域協働の推進,「コミュニティ・エンパワーメント」の実現の3点を検討した。しかし,これらには社会福祉法人の組織ガバナンス改革は勿論,行政内部の連携や公私連携が不可欠であり,本改革が地方自治体にとっても地域経営のあり方が問われる改革になることを述べ,実証研究に向けた課題に言及した。

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