社会政策
Online ISSN : 2433-2984
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10 巻 , 3 号
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巻頭言
所得政策の現在
  • 駒村 康平
    2019 年 10 巻 3 号 p. 5-9
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

     本特集では,政府による賃金に関わる政策を「所得政策」として位置づけて,近年の政府による賃金決定への介入の評価を分析した久本論文,最低賃金の引き上げが母子世帯の貧困に与える影響を分析した田宮論文,短時間,低賃金労働者への厚生年金の適用拡大の課題を論考した山田論文,アメリカにおける最低賃金の引き上げ運動を紹介した髙須論文の4つの論文を掲載する。これらはいずれも最低賃金に関わる問題を取り上げている。労働組合の組織率が低下し,労働分配率が低迷するなかで,日本において行われている市場,労使交渉の外から,政府が賃金および最低賃金の引き上げに介入することの課題を問い直す特集となっている。

  • 久本 憲夫
    2019 年 10 巻 3 号 p. 10-25
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

     所得政策とは賃金をめぐる労使交渉への国家介入であり,歴史的には,インフレーション脱却のための賃金上昇を抑えようとする政策,つまり「名目所得(賃金)抑制政策」といってよい。それに対して,近年日本政府がおこなっている賃金政策は,デフレーション脱却のために賃金を引き上げようとする労使交渉への国家介入であり,「名目所得(賃金)促進政策」である。その意味で「介入的賃金引き上げ政策」,あるいは単に「逆・所得政策」と呼ぶのがふさわしい。このように歴史的に珍しい政策を政府がとる,それも保守政権がとるのはなぜなのであろうか。 本論文では,まず近年の日本の賃金動向とその原因について検討する。ついで,現代日本の賃金決定メカニズムの把握に努める。そのうえで,「逆」所得政策を(1)最低賃金引き上げ政策と(2)標準賃金引き上げ政策に分けて,その経過・意義・限界について論じる。

  • 田宮 遊子
    2019 年 10 巻 3 号 p. 26-38
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

     日本の母子世帯は就労率が高いにもかかわらず貧困率も高い就労貧困の特徴を有している。本研究では,1992年から2007年までの「就業構造基本調査」の匿名データを用い,就労形態別,世帯属性別の貧困率を推計することにより,母子世帯の就労貧困の特徴を分析した。その結果,母子世帯の就労収入のみで推計した就労貧困率は70%を超える水準であった。また,非正規雇用,労働時間が短い,教育歴が短い,末子年齢が低いことは母子世帯の就労貧困率を高める要因となっていた。 さらに,母子世帯の就労貧困に対する最低賃金引き上げの影響をみるために,地域最低賃金の上昇率と都道府県別雇用率の変化分との相関関係を分析した。その結果,シングルマザー,カップルマザーともに,最低賃金と雇用率との間に負の相関はみられず,最低賃金の引き上げが雇用の減少をもたらしていなかった。これは,近年の最低賃金の引き上げが母子世帯の就労貧困リスクを低減させる可能性を示唆している。

  • ―既存の参照基準からの逸脱と低賃金雇用者の排除―
    山田 篤裕
    2019 年 10 巻 3 号 p. 39-52
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

     2016年の厚生年金保険の短時間労働者への適用拡大では,新たな賃金要件が設けられた。本稿では,この要件に焦点を当て,これまでの参照基準との歴史的連続性,新要件導入で適用拡大から排除されてしまった人々の規模,適用拡大による年金給付水準への波及効果を検討した。 本稿の知見は主に3つある。第一に,新たな賃金要件は,参照基準の「最低賃金」から「国民年金との均衡」への変更,すなわち従来の参照基準からの「逸脱」であったと評価できる。第二に,新たな賃金要件を設けたことで,もし全事業所に適用拡大していれば得られた効果とほぼ同等の,多くの低賃金労働者を適用拡大から排除する効果があった。第三に,大幅な適用拡大は平均賃金額(標準報酬平均額)を低下させることで,年金給付水準を引き下げる可能性がある。今後,適用拡大を進めるに当たっては,政策的に世代内・世代間の給付格差を改善するよう,適用拡大を図るオプションも考えられる。

  • ―コミュニティと連携・共闘する労働運動―
    髙須 裕彦
    2019 年 10 巻 3 号 p. 53-65
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

     1980年代,新自由主義グローバリゼーションや使用者の攻撃によって,米国労働運動は組織率を激減させ,消滅の危機に直面していた。労働運動は様々な闘いや模索を経て,コミュニティと連携・共闘する「社会運動ユニオニズム」に活路を見出し,移民・低賃金労働者の組織化や生活賃金条例制定運動,地域課題への取り組みなどを通じて,コミュニティとの連携や共闘を強めていく。 2011年のウォール街占拠運動は,人々の目を格差と貧困に向けさせ,それらをどう是正するかが全米で議論となった。2012年,ファストフード労働者やウォルマート労働者たちが時給15ドルと労働組合の組織化を求めて波状的な全国ストライキを始める。これらがこれまで培われてきたコミュニティとの連携や共闘を社会的基盤に,他の低賃金労働者の運動とつながり,Fight for $15運動として拡大,各地で最低賃金の大幅な引き上げを実現していった。

雇用関係によらない働き方の実態と問題点
  • 渡邊 幸良
    2019 年 10 巻 3 号 p. 66-68
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー
  • ―面接聞き取り調査から―
    髙野 剛
    2019 年 10 巻 3 号 p. 69-81
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

     安倍政権は,「働き方改革実行計画」を発表し,請負・委託契約の在宅ワークや副業・兼業を推進することで,出産・育児や介護・障害などのライフステージに合わせて柔軟に働くことができる社会を実現するとしている。また,近年,クラウドソーシング企業が,東証マザーズで株式上場するようになっていることから,在宅ワークが「人生100年時代」に自らのライフステージにあった柔軟で新しい働き方であるかのように期待されている。 そこで,本稿では,在宅ワークで働いている母子家庭の母親や障害者への面接聞き取り調査から,在宅ワークが出産・育児や介護・障害などのライフステージに合わせて柔軟に働くことができる働き方なのかどうかを明らかにする。具体的には,在宅就業支援団体に登録している在宅就業障害者と,ひとり親家庭等の在宅就業支援事業の訓練プログラムを受講した母子家庭の母親を対象に面接聞き取り調査を実施することで,在宅ワークで働いている障害者と母子家庭の母親の実態について,明らかにする。

  • ―建設職種から考える―
    柴田 徹平
    2019 年 10 巻 3 号 p. 82-94
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

     今日,個人請負就労者は不安定就労で低所得であるにもかかわらず,労働法の適用対象から除外さている。また安倍内閣の下で,「雇用関係によらない働き方」の拡大が狙われており,個人請負就労者の労働問題への対策が喫緊の課題となっている。 現状では日本の個人請負就労者に対する保護政策は皆無であり,彼らが労働者としての保護の権利を享受するためには自らの労働者性を裁判によって認めさせることが条件となる。つまり,彼らはどんなに低収入,長時間労働であっても労働者性が認められなければ,保護を受けられない。本報告は,こうした裁判闘争というもぐら叩き的対応を乗り越える新たな保護政策のあり方の可能性を検討するものである。これにより,裁判闘争を通じて労働者性が認められる条件・要素を具体化し,その条件・要素をもつ個人請負就労者の量的把握および就業実態の分析を行うことが個人請負就労者の保護政策に新たな展開をもたらす点を明らかにする。

投稿論文
  • ―知識の剥落に抗う教育実践への考察―
    南雲 智映, 梅崎 修, 上西 充子, 後藤 嘉代
    2019 年 10 巻 3 号 p. 95-106
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,2013年に大学3・4年生を対象に行ったワークルール知識に関するアンケートの回答者に対し,2015年(社会人1・2年目時点)に同種の追跡調査を行って得られたデータを分析した。明らかになったことは以下のとおりである。 第一に,ワークルール知識得点の平均値は就職後に減少していた。また,ワークルール知識を個別にみると就職後に獲得されていたもの,剝落していたものがあった。社会人になってから,結果的に「使えない=レリバントではない知識」が「知らない」と判断された可能性がある。 第二に,職場の問題が多いほど,就職後のワークルール知識は増加していた。職場の問題を解決するため「使える=レリバントなワークルール知識」を獲得したと解釈できる。 第三に,労組ありの企業では,職場問題がワークルール知識の獲得を促すことを確認した。職場問題に直面した時,労組の存在により,ワークルール知識がレリバントだと認識されると解釈できる。

  • 北井 万裕子
    2019 年 10 巻 3 号 p. 107-118
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

     本研究は,社会関係資本と福祉国家の関係を再検討することを目的とする。先行研究では,福祉国家を社会関係資本の制度的基盤と位置付ける制度中心的仮説と,反対に福祉国家は社会関係資本を衰退させると考える社会中心的仮説の二つの観点で理解される。対立的に捉えられる両仮説を,社会関係資本に伴う特定的信頼と一般的信頼という信頼の類型概念から再検討し,次のような両立可能性を導出した。すなわち,福祉国家は特定的信頼を弱めるが,一般的信頼を高めるという論理であり,それを仮説として実証分析を行った。分析結果から,第一に,普遍主義的福祉国家という特徴をもつ北欧諸国でのみ特定的信頼と一般的信頼の両方が高いこと,第二に,福祉国家を脱商品化指標と家族関係支出で捉えると,家族関係支出のみが一般的信頼と正の関係にあることが示され,第三に,福祉国家と特定的信頼との負の関係はみられず,社会中心的仮説に沿った結果は観察されなかった。

  • 村山 佳代
    2019 年 10 巻 3 号 p. 119-129
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

     2016年の障害者差別解消法と改正障害者雇用促進法の施行により,障害者が直面する社会的障壁を除去する合理的配慮が日本に導入された。しかし合理的配慮が憲法14条の平等原則から導かれる権利かについて疑問が呈されている。アメリカでは同様の議論が長らく行われており,学説は権利性の肯定説と否定説に分かれている。本稿は合理的配慮の権利性の立証を目的として,平等権としての合理的配慮の権利性を否定する学説の論拠を①均等待遇②能力主義③資本主義の効率性に反するという3つに分類し,それぞれに対して反証をした。その結果,適用面において伝統的な差別禁止法理も均等待遇だけではなくマイノリティに対する別異取扱を行っていたこと,ADAの法文から合理的配慮は能力主義と資本主義の効率性を無視しておらず,憲法の平等観に反しないことが明らかになり,同様の平等条項を持つ日本国憲法からの合理的配慮の権利性の論拠ともなりうる。

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