社会政策
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11 巻, 3 号
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巻頭言
特集■「一億総活躍社会」の現実を問う
  • 仁田 道夫
    2020 年 11 巻 3 号 p. 7-13
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2022/04/04
    ジャーナル フリー

     「一億総活躍」政策は,さまざまな限界をもっているとしても,プロ・レーバーの要素をもつ「リベラル」な労働社会政策として受け止めることができる。その実際の成果がどのようなものとなるかは,今後の展開を見定める必要がある。現状では,それが日本の雇用制度や労働市場を大きく変えるという見方から,さほどの影響をもたないという見方まで,多様な評価があり,それらの根拠を明らかにしておくことが必要である。その際,大企業セクターだけでなく,日本の労働市場全体を見渡し,その全体に及ぼす影響を把握することが重要である。本報告では,上記の指摘を行った上で,「一億総活躍」政策が国の経済政策全体を牽引・主導する中核的政策たりうるかについても検討した。暫定的結論は,否定的である。公共投資分野では「旧ポピュリズム」の動きが目立ち,地域経済格差対策分野では「新ポピュリズム」と呼ぶべき動きがあらわれている。経済政策にはイデオロギー的一貫性がなく,結果的に支持率志向の「新ポピュリズム」の方向に流される傾向にあるようにみえる。

  • 禹 宗杬
    2020 年 11 巻 3 号 p. 14-28
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2022/04/04
    ジャーナル フリー

     「一億総活躍」は,諸々の社会政策を広い意味での経済政策として活用し,経済成長を推し進めようとするものである。よって,本稿においても,社会的公正という側面だけでなく,経済的効率という側面をも含めて,その可能性と限界を検討する。この際,「一億総活躍」が,日本の身分制的な雇用システムを乗り越えられるかに着目する。検討の結果は,次のとおりである。「一億総活躍」は,労働の質よりは労働の量の重視,政策による自治への介入,雇用形態より処遇の重視という特徴を有する。「一億総活躍」は現在進行中であるゆえ,その本格的な評価はできない。しかし,「分配→生産性→成長」の道筋が不分明で,雇用形態については現状維持のきらいがあり,「同一労働同一賃金」の場合も部分的な進展はあるものの明白な限界を有している。したがって,これから多数の活躍を真に促すためには,身分差を撤廃し,「シングル・ステータス」を実現する必要がある。

  • ――何が彼/彼女らの「活躍」を阻むのか?――
    鈴木 江理子
    2020 年 11 巻 3 号 p. 29-41
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2022/04/04
    ジャーナル フリー

     「外国人材の活用」という言葉は,成長戦略を掲げる第二次安倍内閣発足以降,多用され,「ニッポン一億総活躍プラン」でも取り上げられているが,「外国人の活躍」ではない。本稿は,外国人の日本社会での「活躍」を阻む制約を「不平等」の視点から考察する。その1つは,在留資格という不平等であり,在留資格によって,職種や労働時間,就労期間に制限がある「不自由」な外国人労働者が存在している。さらに,就職差別,雇用差別という実質的不平等の存在が,外国人労働者の可能性の実現を阻み,社会経済的不平等(格差)を生み出している。加えて,教育における制度的不平等や一条校における不平等によって,外国籍の子どものなかには,教育上の「失敗」を経験し,十分な資源を獲得することなく,若年で労働市場に参入する者も多い。その結果,労働市場における親世代の格差が再生産され,第二世代の「活躍」の機会が奪われている。

  • 中村 優介
    2020 年 11 巻 3 号 p. 42-56
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2022/04/04
    ジャーナル フリー

     政府が推進する「一億総活躍社会」の一つの柱として,「働き方改革」が掲げられた。その中には様々な問題点があるが,本報告では,「労働条件」,「規制緩和」という2つの側面から,タクシー労働者の就労と現在置かれている問題点について,報告をする。タクシー労働者を含む自動車運転業務就労者には,新しい時間外労働等の上限規制が及ばない。また,タクシー労働者の労働条件をめぐっては,賃金規程を含めて様々な裁判が提起されてきたのであり,現在も問題は山積している。また,タクシー事業は様々な規制の対象となっているのであるが,1990年代以降の規制緩和政策の中で,タクシー業界は過剰な競争にさらされ,運転手の収入は減少してきた。そして現在,ここに「ライドシェア」というさらなる規制緩和に類似した波が押し寄せてきている。本報告では,タクシー労働者をとりまく労働環境がどのように変わってきて,現在何が問題となっているか,そして「一億総活躍社会」の中で,今後どのように変わる可能性があるかについて検討し,報告する。

  • 浅見 和彦
    2020 年 11 巻 3 号 p. 57-72
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2022/04/04
    ジャーナル フリー

     安倍政権の「一億総活躍社会」政策では,労働者の代表としての労働組合の役割について触れられることがない。また,研究者のあいだでも,長期にわたって後退する日本の労働組合の問題への関心は乏しいものである。

     そこで,この論文は,日本の労働組合の組織と活動の変貌と現況について,主要なセクターごとに――すなわち,民間大企業の中核労働者,中小企業の労働者,国家・地方公務員,専門職・技能職,そして非正規労働者にわけて――分析し,要約する。

     そして,後半では,それぞれのセクターの労働組合が直面している構造的・長期的な問題と改革のための主要な課題を議論する。また,職場・産業・地域の視点から見て,雇用関係を規制するために相応しい方策を示唆する。 最後に,さまざまな階層の労働者のあいだにおける「有機的連帯」を確立する必要性を主張する。

小特集■生活保護における「自立論」
  • 大塩 まゆみ
    2020 年 11 巻 3 号 p. 73-76
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2022/04/04
    ジャーナル フリー
  • 戸田 典樹
    2020 年 11 巻 3 号 p. 77-90
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2022/04/04
    ジャーナル フリー

     本研究は,生活保護における自立論について歴史的,社会的な分析を行うことを目的にしている。なぜならば,生活保護における自立論はその時代の貧困観や社会福祉政策を反映する論点となっており,現代社会の課題を明らかにできると考えるからである。まず,生活保護行政の自立「支援」論は自助を掲げ,歴史的に実施体制整備,特別事業の実施,ボーダーライン対策創設など申請を抑制するための,いわゆる「適正化」政策として進められてきたといえるであろう。その一方で,生活保護現場実践における自立(自律)論は,「適正化」政策に対抗して,最低生活保障(経済給付)を最大限に使いながら利用者の思いに寄り添い,暮らしを豊かなものにしていこうとした。例えば,中学3年の子どもたちを会議室に呼び,高校進学に向けて努力する機会を提供した「江戸川中3勉強会」である。このように生活保護行政と現場実践の自立論は,自助に対して自立(自律)という相反する目的と方向を持ちながら支援を展開してきた。これらの歩みを分析,考察することで,利用者を中心とした視点から,自立論の課題を明らかにしたいと考えている。

  • 桜井 啓太
    2020 年 11 巻 3 号 p. 91-101
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2022/04/04
    ジャーナル フリー

     2005年度より全国の福祉事務所で生活保護自立支援プログラムが実施されており,背景には,社会保障審議会(生活保護の在り方に関する専門委員会)で提案された「三つの自立論」と,それに基づく自立支援(就労自立支援/日常生活自立支援/社会生活自立支援)の誕生がある。「三つの自立論」は,従来の「自立=保護廃止」が支配的であった生活保護行政,生活保護ケースワークに大きなインパクトをもたらしたと言われている。

     本稿では,生活保護の「三つの自立論」を,障害学の知見から批判的に再検討し,その自立論の問題点を明らかにする。次に,専門委員会以前から独自の自立論を展開してきた三人の論者を紹介し,社会福祉における「自立の拡大傾向」を確認し,その問題点と他の可能性について検討する。

  • ――生活保護母子世帯と非生活保護母子世帯の子育てと就労に着目して――
    田中 聡子
    2020 年 11 巻 3 号 p. 102-112
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2022/04/04
    ジャーナル フリー

     本報告は,低所得母子世帯の自立支援について検討する。そこで,生活保護世帯と非生活保護世帯の就労と子育ての状況に着目する。就労や子育てについてそれぞれの母子世帯に固有の課題があるのか,あればどんなことかを明示したい。結果,自立支援の4本柱は相互に関係し,特に就労するための基盤となる子育て・生活支援が重要になる。就労支援が機能するには,子育て負担の軽減と母親のケアが前提である。生活基盤が整備し,子育てが安定すると次のステップはキャリアアップのための資格取得支援となる。また,母と子の個別ニーズの状況により,スモールステップによって生活課題を解決していかないと,長期的な展望を持つことは難しい。世帯のニーズに寄り添うような相談機能を持った自立支援が必要だと言える。

本文
  • ――近江絹糸人権争議後の交渉を対象に――
    梅崎 修, 南雲 智映, 島西 智輝, 下久保 恵子
    2020 年 11 巻 3 号 p. 113-125
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2022/04/04
    ジャーナル フリー

     本稿では,1950年代の日本を代表する争議である近江絹糸人権争議直後の賃金体系をめぐる議論を分析した。歴史資料や関係者へのオーラルヒストリーを使って,議論の経緯を分析した結果,労働組合は近代的性別役割分業構造を前提として,ジェンダーバイアスのある「家族賃金」を提案していることが確認された。具体的には,生活給の決定において男女差を付ける案が提案されていた。ただし,この提案は,労働組合内における激しい議論を生み,最終的には男女差を付けない賃金体系に決まった。人権争議に勝利した労働組合において男女差をめぐる意見対立が生まれたのは,田舎に戻り農家で共働きしなければならないという現実と,恋愛結婚による一人稼ぎ専業主婦という憧れ(ロマンティック・ラブ・イデオロギー)の間の葛藤があったからと解釈できる。

  • ――高齢者の位置付けの変化に着目して――
    遠藤 知子
    2020 年 11 巻 3 号 p. 126-138
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2022/04/04
    ジャーナル フリー

     政策事業の効果を機能主義的に検討する先行研究に対し,本稿では社会福祉政策を支配的な社会規範の「象徴」として捉える視点から,これまで就労支援の対象として考えられてこなかった高齢者の位置付けの変化に着目し,生活困窮者自立支援制度の導入と展開が象徴する労働と福祉に対する規範を浮かび上がらせることを目的とする。社会的なつながりを通じて自立への意欲を育成することを目指す生活困窮者支援は,「雇用を通じた福祉」と「家族を通じた福祉」が縮小した中,社会一般の新しい規範として,社会関係の中で主体性を身につけ,生涯を通じて職場や地域で活躍し続ける個人を支持していることを明らかにする。本稿では,社会福祉政策が表向きの目標を達成することを目指すだけでなく,その背後にある価値が社会を方向付けることを示し,現在の生活困窮者自立支援制度が反映する価値選択の帰結として二つの方向性を提示する。

  • ――広さ・家賃負担・その他の支出のせめぎあいの実証分析――
    小田川 華子
    2020 年 11 巻 3 号 p. 139-150
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2022/04/04
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,低所得世帯において家賃負担が子どもの生活にどう影響しているかを明らかにし,子どもの相対的貧困対策について示唆を得ることである。分析対象は東京都「子供の生活実態調査」(小5,中2,16~17歳親子,2016年)の回答者のうち家賃を支払う世帯(n=1435)で,所得・家賃負担率・住宅の広さの組み合わせで11群を生成し,生活に現れる困難の程度の違いについて回帰分析を行った。分析の結果,年収214~359万円で狭小住宅に住む高家賃負担の世帯では,衣食住,その他の子どものための支出や学習環境などにしわ寄せがいっていること,年収359万円未満層のうち非狭小住宅で高家賃負担の世帯は「見えない貧困」層の傾向があること,年収359万円未満層の低家賃負担世帯は家賃減免等を受けてもなお子どもの生活が圧迫されていることが明らかになった。家賃補助,その他の給付等の充実,子育て世帯向けの低家賃住宅の供給が求められる。

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