社会政策
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11 巻, 2 号
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巻頭言
小特集1■多様化する介護サービス提供者のゆくえ
  • 田中 聡子
    2019 年 11 巻 2 号 p. 5-14
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー
  • ―事業規模と事業範囲の拡大を中心に―
    金谷 信子
    2019 年 11 巻 2 号 p. 15-25
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー

    市場化された介護保険サービスにおいて,規模の経済や範囲の経済の効果を期待する行動をとる事業者が増えている。規模の経済とは,生産量の増加に伴い平均費用が低下し収益性が向上することであり,範囲の経済とは複数の財・サービスをまとめて生産することで費用を節減し収益性が向上することである。介護保険事業の場合には,同一経営法人が,同種のサービス事業所を複数経営すること,また多種のサービス事業を経営することが相当する。ただ公共サービスの場合,経営面での効率性の追求と,公共サービスとしての質の確保の間には基本的に二律背反関係がある。このため本論では,介護保険サービス事業者が規模の経済と範囲の経済を志向することが,事業者と利用者に与える影響を分析した。その結果,介護保険サービスには規模の経済と範囲の経済が部分的に存在すること,またこうした行動がサービスの質を犠牲にする可能性が否定できないことを明らかにした。

  • ―介護保険制度の導入を戦略的に考える―
    史 邁
    2019 年 11 巻 2 号 p. 26-38
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー

     本研究では,取引コスト理論の「ガバナンス機構」という概念を用いて,①中国が現在実施している介護保険制度導入の戦略的な意義と,②保険制度導入以降の政策の方向性という2点の課題について理論的な考察を行った。結論として,第一に,介護保険制度の導入は,従来の供給構造に対する「戦略的な軌道修正」として位置付けられ,現在の介護供給に生じているさまざまな現実課題の解決,ガバナンスコストの節約,また今後のサービス供給の増大などに対して積極的な意義を有する。第二に,少子高齢化がますます深刻化していく中国は,介護保険制度を導入するとしても資産特殊性の上昇問題に直面せざるを得ない。そこで,より良い介護サービスの供給構造を実現し,ガバナンスコストをより低い水準に維持するためには,「利用条件の厳格化」と「供給量の大幅増加」という二つの政策における選択肢があることが明らかになった。

  • ―10年の成果と今後に向けて―
    崔 銀珠
    2019 年 11 巻 2 号 p. 39-53
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー

     韓国社会保障制度の特徴は,「低負担・低給付」「国の負担の最少化」「公共より民間供給者の活用」であろう。2008年に導入された老人長期療養保険制度も例外ではない。導入から10年目を迎えている老人長期療養保険制度は,選別主義福祉政策から普遍主義福祉政策への転換のきっかけになったと言えよう。施設と在宅インフラの増加,雇用創出効果,介護認定者の数の増加など一定の成果が表れている。しかし,社会的入院の増加,介護人材の需要と供給のミスマッチ,地方公共団体の担うべき役割のあり方等,様々な課題も抱えている。それは,老人長期療養保険制度の制度設計内容に起因しているのは言うまでもない。

     そこで,本稿では,老人長期療養保険制度の10年間の成果に焦点を当て,長期療養サービス提供者へのヒアリング調査結果をもとに,老人長期療養保険制度の現状と今後の課題を検討する。

小特集2■地域や社会的居場所を活用した生活困窮者支援
  • 福原 宏幸
    2019 年 11 巻 2 号 p. 54-57
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー
  • 簗瀬 健二
    2019 年 11 巻 2 号 p. 58-71
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー

     わが国の若者支援政策は,支援現場で見える若者の実像とそこで実践されている有効な支援スキームに,必ずしも調和していない。実践から得た有効な取り組みを政策に反映していくには,これらの事例の積み上げが必要である。そこで,本稿は,大阪府箕面市北芝地区の実践を分析し報告する。

     北芝地区は,住民自らが地域に必要な活動をつくり出すスタイルを構築し,「コレクティブタウン」と評されている。近年は,それを基盤に困窮者支援及び若者支援が実践され,若者は,一方的に支援を受けるばかりではなく,自ら居場所や仕事づくり,社会発信に挑戦し,様々なかたちで社会に戻っていっている。

     結論として,若者の自立に有効と考えられる点として,3つが確認された。若者がコミュニティの中でサポートされていること,社会関係資本を段階的に獲得する場があること,この地区が若者の就労自立だけではなく包摂型の地域社会の形成を目指していることである。

  • ―参与観察と研究サーベイを踏まえた問題提起―
    森 瑞季
    2019 年 11 巻 2 号 p. 72-84
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー

     本稿の目的の第一は,社会的居場所に集う当事者たちがどのようにして個々人の尊厳と社会への参加の意欲を形成することになるのかを明らかにすること,第二に,社会的居場所を通して社会へと(再)参入を果たすのは,支援に関わる諸々の人々にも当てはまることを明らかにすることである。一言で言えば,これらは,社会的居場所における承認の調査・研究であり,これをX事業所とγカフェでの参与観察とインタビューの分析と,文献研究から行った。

     結論として,2点が明らかとなった。社会的居場所は,社会的課題をかかえた人々がそこでの対等な関係や果たすべき役割の授受,すなわちケアの循環を通して相互に承認される関係をつくり出し,自己実現に向けた第一歩を記す場となっていたことがわかった。また,この社会的居場所に関わった支援者や地域の住民なども対等な関係の生成にともなってエンパワメントされ,ケアの循環がもたらされていたこともわかった。

小特集3■個的社会における労働の諸相
  • 高田 一夫
    2019 年 11 巻 2 号 p. 85-86
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー
  • 高田 一夫
    2019 年 11 巻 2 号 p. 87-96
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー

     本論文は個的社会における労働市場の構造を明らかにし,その円滑な調整のためには再分配制度が不可欠であること,また再分配に当たっては「非能力主義的平等主義」の原理が必要であることを主張したものである。個的社会とは,ほぼ1990年代に成立した市民社会の新たな段階であり,そこでは社会政策において貢献を前提としない再分配が行われるようになった。労働市場は能力主義的平等主義を原理として運営されてきたが,流動化の進行につれ矛盾が深化している。筆者は,流動化が個的社会では必然の動きであり,連帯原理による支援を構築する必要があると主張した。連帯とは自己決定を拡大するために共同することである。政策の実際も,そうした方向に進んでいると考える。この方向がさらに進展するには,非能力主義的平等主義が社会的に確立されなければいけない。

  • ―Travelerの場合を中心に―
    早川 佐知子
    2019 年 11 巻 2 号 p. 97-108
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー

     本論文では,アメリカの人材派遣業の通史をもとに,専門職派遣業,とりわけ,看護師の人材派遣業の特殊性と,それらが成長した背景を分析する。このことで,たとえ非正規雇用であっても生計を維持することができ,かつ,自らのキャリア形成においてもプラスにしてゆけるような働き方の可能性を検討したい。現在,日本の派遣労働者の平均時給はわずか1363円であり,正規雇用労働者との格差が著しい。同一価値労働同一賃金原則に基づき,雇用形態による格差を縮める方向へ動きつつある今,派遣労働の意義も見直すべき時に来ていると考える。

     職務の内容ではなく,雇用形態で大きな処遇の格差が生まれる日本の制度の中にあっては,生計のために正規雇用を選択し,結果として長時間労働や遠方への転勤を甘受せざるを得ない労働者も多いであろう。だが,本来であれば,本人が「どのような雇用形態で働くことができるか」ということよりも,「どのような職務を行うのか」ということが優先されるべきである。自らが望む職務を積極的に自己決定できる社会を創るためには,雇用形態がハンディにならないようなシステムが必要になるであろう。

  • ―サントリーグループにおける取り組み事例からの一考察―
    渡部 あさみ
    2019 年 11 巻 2 号 p. 109-119
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー

     2000年代以降,ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ・マネジメントといった「働きやすい職場」づくりへ向けた取り組みが見られるようになった。「企業」にとって「働かせやすい職場」ではなく,「労働者」にとって「働きやすい職場」づくりにするためには労働側の介入が求められよう。

     「労働者」にとって「働きやすい職場」づくりをするために,労働側にはいかなる介入が求められるのだろうか。本論文では,労使共同で「働きやすい職場」づくりへ向けた取り組みを行っているサントリーグループの事例を通じ,取り組み過程におけるサントリー労働組合の役割を明らかにする。サントリーグループでは,取り組みにより,労働時間短縮が実現した。その背景には,継続的な組合員アンケート調査による取り組みの効果や現場の実態把握を通じ,「働きやすい職場づくり」へ向けた取り組みへの積極的な介入を行い,職場の声を経営側に届けるサントリー労働組合の存在がある。

投稿論文
  • 小笠原 信実
    2019 年 11 巻 2 号 p. 120-132
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー

     本論文は韓国における混合診療の実態を明らかにし,これを考察することにより日本における混合診療の是非をめぐる議論に貢献することを目的とする。韓国では1977年に公的医療保険が始まった時より混合診療が容認され,これは保険非給付診療を広げる結果をもたらしてきた。保険非給付診療の拡大は実損型医療保険の市場を拡大させ,2014年には韓国における実損型医療保険の加入率は66.3%に達した。混合診療の容認は韓国に次のような結果をもたらした。第一に,若年型甲状腺癌などの過剰診療をうながすインセンティブを生み,過剰診療が促進された。第二に,民間保険会社や医療機関は収益を増大させたが,逆に国民の医療における社会的厚生は悪化した。第三に,公的医療保険から民間医療保険への代替が所得,慢性疾患の有無,年齢などによる医療アクセスへの不平等を生んだ。第四に,医療が医学的な判断よりも利潤の確保を目的に行われる傾向が生じる医療の営利化を促進した。

  • ―鳥取県内6町の事例から―
    安藤 加菜子
    2019 年 11 巻 2 号 p. 133-144
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー

     在宅育児手当は,保育所を利用せず乳幼児を在宅で育児することに対し現金を給付する政策であり,近年いくつかの自治体で導入が進む。

     そもそも親自らが子どもを育てることを支援する政策としては,育児休業や育児休業給付があるが,この支援は対象外となる親も多い。在宅育児手当にはこの限定性を補うことが期待されうるが,課題もある。その課題とは,あらゆる親の在宅育児を支援することに対する正当性の確保が難しいことと,こうした支援が母親の就労を阻害することへのリスクである。

     本論文では,在宅育児手当政策を先進的に導入した鳥取県内の6つの町の事例に注目し,同地域の在宅育児手当の意義を検討した。検討の結果,同地域の在宅育児手当は,上に挙げた2点の課題をクリアし,従来型の育児支援政策の利用限定性を補完しながら,地域で働き次世代を育てる人々を支援する政策であることが示された。

  • ―一般市民の意識調査を用いた実証分析―
    阿部 彩, 東 悠介, 梶原 豪人, 石井 東太, 谷川 文菜, 松村 智史
    2019 年 11 巻 2 号 p. 145-158
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2021/12/02
    ジャーナル フリー

     本稿は,2016年に筆者らが行ったインターネット調査のデータを用いて,一般市民が生活保護制度の厳格化を支持する決定要因を分析した。具体的には,貧困の要因に関する自己責任論と,貧困の解決に関する自己責任論に着目し,その二つを峻別した上でそれらが人々の生活保護制度の厳格化に対する意見に影響するかを検証した。

     本稿の分析から,まず,従来指摘されてきたようなワーキングプアが生活保護受給者を非難する対立構造についてはそれを裏付ける結果は得られなかった。次に,自己責任論については,貧困者当人に対して要因責任を求めるものと,解決責任を求めるものの二つが混在しており,両者は必ずしも一致しないことがわかった。生活保護制度の厳格化支持に対しては,両者ともに影響力を持っているものの,解決の自己責任論の方が要因の自己責任論よりもその影響力が大きいことがわかった。

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