社会政策
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12 巻, 3 号
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巻頭言
特集■オリンピック・パラリンピック後をみすえた社会政策の新地平
  • 岩崎 晋也
    2021 年 12 巻 3 号 p. 5-10
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     本号の特集は,本学会第140回(2020年春季)大会の共通論題での報告をもとに執筆された2本の論文を中心に構成される。本論は,この共通論題のテーマの趣旨・背景と各報告の概要を紹介するとともに,そこで提起された課題について座長の立場から考察したものである。東京大会では,「史上最もイノベーティブで,世界にポジティブな改革をもたらす大会」の実現を大会ビジョンとし,ダイバーシティ&インクルージョンを大会ビジョンの実現の原動力として掲げている。また日本国内では経済効果を中心に,オリンピック・パラリンピックの開催に期待する声が大きい。しかし,その一方で大規模な都市再開発が社会的排除を促進するという負の側面も指摘されている。そこで本共通論題では,大規模都市再開発がもたらす負の側面を検証するとともに,その一方でレガシーとして期待される障がい者の社会参加の促進,ジェンダー・SOGI政策の促進を検討した。

  • 鈴木 直文
    2021 年 12 巻 3 号 p. 11-21
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

    本稿は,2020年から2021年に開催が延期されたオリンピック・パラリンピック夏季大会が終わった後,東京に何が残されるのかを,過去の開催都市の経験をもとに検討する。スポーツメガイベントが開催された後に長期的に残される「レガシー」は,「イベント後に残存する計画的/非計画的,肯定的/否定的,有形/無形の構造」と定義され,短期的「インパクト」と区別される。まず,一般に喧伝される「経済効果」は,インパクトとしてもレガシーとしても期待できないが,このことを観光への影響を例に論証する。次に,都市開発による物理的構造変容は,経済成長を促さないにもかかわらず,都市の脆弱な生活者を疎外し,むしろ富裕層を利するため,社会的格差が拡大することを示す。最後に,J・ボイコフの祝賀資本主義論を参照し,格差を拡大しながら資本蓄積を促す権力構造こそオリンピック・パラリンピックのレガシーであることを示したうえで,同様の傾向が東京でも確実に進行していることを例証する。

  • 日比野(田中) 暢子
    2021 年 12 巻 3 号 p. 22-38
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     1964年東京,1998年長野に引き続き,2021年は東京でパラリンピック競技大会が開催される予定である。こうしたパラリンピック大会の開催は,我が国の障害者のスポーツの発展に多大なる影響を及ぼしてきただけではなく,社会政策の発展にも影響を及ぼしてきた。たとえば1964年大会は,それまで福祉施設にいた障害者が地域に生活拠点を移すきっかけになり,またそれを支えるものとして職業リハビリテーションとスポーツが結びつき,積極的に推進がなされた。1998年大会では,障害者のスポーツに新たに競技という言葉が認識されるようになり,そして2020年大会は,組織委員会が示す共生社会への貢献,障害者差別解消法の施行,バリアフリー法の改定,パラリンピック選手が政府審議会の委員として意思決定過程に参画するなど社会環境は変化しようとしている。本報告では,我が国で開催されたパラリンピック大会とそれが社会政策にもたらした歴史的意義を,社会背景も踏まえつつ議論したい。

小特集■大学教職員の不安定就業問題
  • 髙野 剛
    2021 年 12 巻 3 号 p. 39-42
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
  • ウェザーズ チャールズ
    2021 年 12 巻 3 号 p. 43-57
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     難しい政治環境及び激しいコスト削減の圧力により,アメリカの高等教育の機関の使命・任務も教員等の生活も脅かされている。40年程前から,予算削減のため,大学の低賃金・非常勤従業員への依存度がだんだん高くなってきた。教員の終身在職権・終身制の比率は1975年の45%から2015年までに30%まで落ち込んでおり,同期間に,非常勤教員の割合は55%から70%まで上がってきた。しかし,多くの非常勤教員の責任の重さは終身在職権の責任程度と全く異なっていない状態にある。さらに,不可欠な研究・教育・技術的な支援を提供している院生や職員も待遇がよくない。

     これらの問題に対応するため,組合活動及び待遇改善の運動がだんだん活発化してきた。近年の組合活動の活性化及び公教育の教員の躍進により,多くの大学及びコミュニティ・カレッジの従業員が雇用条件の改善を獲得できたし,また組合の組織拡大活動が進展してきた。ただ,アメリカの労働組合運動と同様に,高等教育の労働権利活動も重大な障害に直面する。大きな問題の一つとして,最高裁の判決などにより,教員及び職員,院生は,組合に加盟する権利が確立しにくい状態にあるということである。

     難しい政治環境を念頭に置きながら,この論文では高等教育の雇用条件及び権利闘争の状態を探る。

  • 田中 洋子
    2021 年 12 巻 3 号 p. 58-72
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     ドイツでは大学の研究職の有期雇用割合が突出して高く,最も不安定雇用が多い職種となっている。本稿では大学教職員の国際比較に向けてドイツの大学の雇用構造を解明するとともに,ベルリン・フンボルト大学を事例として研究職の仕事と生活の関係を検討する。サービス労働組合,ベルリン・フンボルト大学人事部および研究者へのインタビュー調査,また同大学人事資料の分析を通じて明らかになったのは次の点である。第一にドイツでは日本よりも学術研究職の雇用が構造的に不安定であり,終身公務員である少数の教授を除いてほぼ全員が任期付の有期雇用となっている点,第二にこれと反対に,研究支援に携わるスタッフ職に関しては近年の法改正で雇用の安定化が大きくはかられている点である。学術研究職の有期雇用は歴史的な制度であるが,現在は高給与の専門職として雇用期間以外の労働条件は悪くはなく,時短勤務により研究と生活の調整が可能であることがわかった。

  • ―大学教員の非正規化の進展とその影響―
    上林 陽治
    2021 年 12 巻 3 号 p. 73-84
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     大学の非常勤講師のみで生計を立てるいわゆる専業非常勤講師は,1995年を境に大学教員における割合を高め,1998年には4万5370人(延べ数)だったものが2016年には9万3145人(延べ数)へと倍増し大学教員の3分の1を占めるに至った。これら専業非常勤講師は,週8コマ程度を受け持たない限り,年収300万円にも届かない高学歴ワーキングプアである。

     増大の原因は,1991年から始まった大学院重点化計画による博士課程修了者の増加に見合う正規教員等の職が用意されなかったことにあるが,この問題が放置されたのは,正規「専務教員」が大学院重点化政策の過程で大学院へと移行し,少なくなった学士課程の「専務教員」の隙間を埋めるべく高学歴ワーキングプア層の専業非常勤講師が活用されていったことである。

     すなわち大学経営は1990年代以降に政策的に生み出された高学歴ワーキングプアの専業非常勤講師を活用することで成り立っているのである。

  • ―日本大学の非常勤講師5年雇い止め問題を事例に―
    今井 拓
    2021 年 12 巻 3 号 p. 85-92
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     首都圏大学非常勤講師組合は,2017年11月以降,日大本部がすすめる非常勤講師の大量雇い止め,コマ減に抵抗する活動を展開した。就業規則制定過程の瑕疵に対する刑事告発,日大ユニオンの結成,日大ユニオンの候補の経済学部労働者代表選出(2018年度),雇い止め,コマ減に対する民事裁判提訴などである。この中で,労働者代表を務めた経験は36協定の意義や効力について再検討を行う契機となった。残念ながら選出には至らなかったが,2019年度の代表選においては,非常勤講師の雇用・労働条件を確保する為に次の二つの公約を掲げた。①日大本部に追従し,経済学部長が非常勤講師の解雇,雇い止め,コマ減に踏み込んだ場合は,36協定の締結自体を拒否する。②専任教員の基準(5コマ)を上回る担当科目は36協定の対象であり,大学院の担当等やむを得ない場合にのみ360時間(通年3コマ)を上限に認める。労働者代表選を軸に,教職員組合,非常勤講師組合の連携が実現できるならば,専任教員の研究条件の確保と非専任教員の労働条件の改善の為の活動に新たな可能性が拓かれると思われる。

大会若手研究者優秀賞
  • ―日本の障害者政策への示唆―
    鈴木 知花
    2021 年 12 巻 3 号 p. 93-104
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     本論文は,公私二元論によってその社会性・政治性を否定され私的領域にのみ適用可能だとされてきたケアの倫理を,公的領域における社会福祉ひいては社会福祉政策の理念を基礎づけるものとして位置づける。代表的ケア論者たちの視点から,ケアの倫理を基盤とした社会福祉政策のあり様を理念的に探究することによって,近年の日本の障害者政策がいかにリベラリズム(正義の倫理)によって特徴づけられてきたのかを明らかにする。特に障害者自立支援法とその改正法である障害者総合支援法の根底にあるのは,リベラリズムが前提とする「強い」個人像である。

     本論文はリベラリズムに代わるオルタナティヴとしてケアの倫理の視座から社会福祉のあり様を見つめることによって,人間一般が種として脆弱性を内包し,相互依存的なケアの関係性の中で生きるものであることを基調とする社会福祉政策が要請されることを提起する。

  • 2023 年 12 巻 3 号 p. E2-
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

    『社会政策』第12巻第3号(通巻第37号)pp.93-104
    「ケアの倫理と社会政策」
    鈴木 知花

    p.93のタイトル部分およびpp.94-104の柱に記載されている賞の名称に誤りがありましたので、下記の通り訂正させていただきます。

    (誤)
    若手研究者優秀論文賞

    (正)
    大会若手研究者優秀賞

投稿論文
  • 竹田 次郎
    2021 年 12 巻 3 号 p. 105-116
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     1980年代,経営主導的・財務志向的なSHRMが米国で誕生した。HRM-P(企業業績)リンク,即ち戦略的に人的資源を獲得・活用すれば競争優位性の源泉となり業績に資するという理論である。しかし理論的に欠陥ありとして次の様な批判が英日の論者から発せられている。⑴同リンクの実証の仕方に欠陥あり。殆どの研究はHRM-Pの相関関係を見いだす計量研究に終始し,その間の仕組をブラックボックスのままとして「理論なき測定」を延々と行っている。⑵財務偏向が進んだ故,人間的要素の優れた知見が捨象され「非人間的」な議論になった。従前の人事労務管理論以来積上げてきた(主に行動科学の)知見を棄損した。また,CSRが重視される今日の時代精神にそぐわなくなってきていることも指摘し得る。

     本稿は,文献研究を通じこれらの批判の妥当性を確認かつ敷衍し,さらに実践的観点からの検証も加え今後のHRM研究に向け問題提起を試みる。

  • ―社会支出面からの分析―
    伊藤 善典
    2021 年 12 巻 3 号 p. 117-129
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,EU28か国における社会支出の変動とその要因を分析し,それを踏まえ,今後の社会支出と福祉国家の方向性を考察した。福祉国家グループの個々の社会支出は,経済社会の変動に対応する必要がある一方,価値,規範意識や制度といった各国固有の構造の下に置かれるとともに,政府債務危機後,EUにより厳しい財政規律が課されたため,それらの制約の下で,社会支出の収斂への動きは弱まり,各グループの特徴を維持又は強化する方向に進んでいる。社会支出の側面から見たEUの福祉国家の形は,当面,①新しい社会的リスクに対応して現物給付を重視する社会民主主義型,②伝統的な社会的リスクに対応する現金給付中心の保守主義型(南欧),自由主義型及び新規加盟国,③徐々に新しい社会的リスクへの対応を進めている保守主義型という3つのクラブにまとまっていくのではないかと予想される。

  • ―韓国の所得連動型返還制度(ICL制度)を事例に―
    朴 慧原
    2021 年 12 巻 3 号 p. 130-142
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     本稿は,韓国の事例に着目し,日本でも重要な問題となっている貸与型奨学金制度の利用後に生じる負担感について分析した。先行研究では,利用者の状況に応じて返還を調節できるICL制度の仕組みを理解すれば負担感は軽減されるとみなされていたが,制度の分析及び利用者へのインタビュー調査の結果,制度の仕組みよりも,「奨学金を利用して高等教育を受ける若年層を積極的に支援する」という制度の理念を内面化することが,負担感の軽減においてより重要であることが明らかになった。

     特に,利用者は「奨学金を利用する行動」を「借金」ではなく「未来への投資」として解釈していた。しかし,こうした解釈は心理的な効果はあるものの,実質的な負担の軽減までは期待できず,利用者にとっては両義的な効果をもたらすことにもなっている。

     なお,本稿では奨学金の利用前に生じる負担感については検討できず,今後の課題はICL制度の導入による負担感の軽減が,非利用者等も含め学生全体に対して与える影響の検討である。

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