日本での規制改革をめぐる動きは,労働市場の流動性を高める労働市場改革にまで及んできた。それは合衆国の要求によるところが大きく,議論も新古典派経済学をベースにしている点で,合衆国を参照国とするものであるが,個別の論点で参照されているのは,オランダのパートタイム労働,デンマークのフレクシキュリティ,ドイツのハルツ改革などヨーロッパ諸国の経験である。本論文ではまず,近年のヨーロッパでは,国際競争力の強化の観点から社会政策や労働政策が再編されていること,就業者,失業者,生活保護受給者といった従来の区分が弱められるとともに,政府が失業者などの就労を強力に促すといったシステムが登場していることを確認する。次に,日本の規制改革の議論を取り上げて,そこでも国際競争力強化が大きな目的であること,雇用のあり方や解雇規制のあり方の議論においては,労使関係的な視角を欠落させて労働規制をおもに法的な規制の観点から論じたために現実から遊離した議論となっていることを指摘する。
抄録全体を表示