社会政策
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9 巻, 3 号
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巻頭言
特集■福祉の市場化を問う
  • 大塩 まゆみ, 平岡 公一
    2018 年 9 巻 3 号 p. 5-15
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2020/05/15
    ジャーナル フリー

     本号の特集「福祉の市場化を問う」は,本学会第134回(2017年度春季)大会の共通論題での報告をもとにして執筆された4本の論文を中心に構成される。本稿は,この共通論題の企画の趣旨・背景と報告の概要を紹介するとともに,そこで提起された政策展開および研究に関わる課題と展望について座長の立場からの考察を行ったものである。政策上の課題については,市場化に伴う公的責任の後退のなかで,サービス利用機会の格差,消費者被害等の利用者側に生じた問題,および,福祉・介護分野の雇用の不安定化や低賃金,人手不足等の事業所・労働者側に生じた問題を指摘し,賃金引き上げ・労働条件の改善,介護職等の専門性の向上等の課題を提起した。研究上の課題と展望については,市場化改革の多様性と文脈の理解,サードセクター・非営利セクターの多様性と変化の検討,新たな福祉文化への着目,福祉の市場化のなかでの労働の変化の検討等の論点について検討した。

  • ―介護保険制度の根本的課題―
    森 詩恵
    2018 年 9 巻 3 号 p. 16-28
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2020/05/15
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,「福祉の市場化」という視点から,わが国の高齢者福祉政策の変遷を再検討し,介護保険制度の現状と根本的課題を提起することである。本稿の結論は以下の4点である。第一は,高齢者福祉政策における「福祉の市場化」は1980年代半ばからのシルバービジネスの登場と措置制度下での民間事業者への委託実施,2000年からの介護保険制度導入という二段階で実施された。第二に,介護保険制度導入により介護サービス事業者だけでなく,ケアプラン作成機関,訪問調査等にも民間事業者が参入し,これまで行政が担ってきた「相談業務」など介護サービス供給における基盤部分でも「福祉の市場化」が進んでいる。第三に,介護保険制度の根本的問題は,公的責任のもとでの利用者の生活保障がなされていない点である。第四は,2014年改正では地域や民間事業者の活用と高齢者の社会参加が求められ,地域包括ケアシステムという名のもとで「日本型福祉社会」論の再来の危険をはらんでいることが懸念される点である。

  • 清水 俊朗
    2018 年 9 巻 3 号 p. 29-43
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2020/05/15
    ジャーナル フリー

     「すべての子ども・子育て家庭を対象に,幼児教育,保育,地域の子ども・子育て支援の質・量の拡充を図る」ことを目的に,2015年に子ども子育て支援制度がスタートした。しかし,2016年に「保育園落ちた日本死ね」のブログが話題になったように,その後も保育所の待機児童問題は解決せず,保育士不足も未だに深刻である。 福祉の市場化との関わりで言えば,子ども子育て支援制度は,児童福祉法第24条第1項に規定された「市町村の保育実施責任」を撤廃し,園と利用者(親)による直接契約制度に移行させることで,保育における公的責任を後退させ,企業参入など市場化を目指すことが真の目的であった。 本稿では,そのなかでも保育士不足の問題に焦点をあて,全国福祉保育労働組合が実施したアンケート調査を基に保育士の労働実態を明らかにするとともに,政府が保育士確保対策として進めている労働施策について言及し,問題提起をしていきたい。

  • ―イギリスにおける保育政策の展開とジェンダー―
    原 伸子
    2018 年 9 巻 3 号 p. 44-61
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2020/05/15
    ジャーナル フリー

     本稿の課題は,イギリスにおける「第三の道」以降の「福祉の契約主義」に焦点をあてて保育の市場化をジェンダーの視点で考察することである。それは,主として家庭で女性が担ってきた保育(ケア)の社会化が市場化によって推進されることによって,構造的にいかなる問題が生じているかを明らかにすることである。以下,まずジュリアン・ルグランによって提唱された「準市場」の理論的性格を明らかにする。次に1997年以降のニューレイバーのもとで保育政策が子どもの貧困対策として推進されたことを考察する。それは社会的投資アプローチとワークフェアを二つの柱として,市場化によって推進された。2010年以降の緊縮財政下においても同様であり,Open Public Services White Paper (2011)に見られるように,保育の市場化はより急速に進展した。最後に,ケアの市場化がジェンダー不平等を深化させたことを明らかにする。

  • ―社会サービス供給組織への新しい見方―
    米澤 旦
    2018 年 9 巻 3 号 p. 62-73
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2020/05/15
    ジャーナル フリー

     本報告では,福祉の市場化(民営化)に関して,サードセクターの研究蓄積を土台としながら,労働統合型社会的企業を焦点にして三つの主張を展開する。第一に,社会政策分野では現物給付割合の高まりを背景として,国家と個人を媒介する諸組織の多様性を分析することの重要性が高まっており,そのためには,セクター単位での研究(セクター本質主義)は問題を抱えているということである。第二の主張は,「セクター本質主義」的な考え方に代わって,新しい枠組みとして,「制度ロジック・モデル」という,欧米などで蓄積のある新制度派社会学の概念をもとにした枠組みが有効である可能性があるということである。第三に,「制度ロジック・モデル」を用い,労働統合型社会的企業を分析するならば,少なくとも二つの形で制度ロジックの組み合わせによる組織形態を峻別でき,それらを区別することに一定の理論的・政策的意義が認められるということである。

小特集■今日の労使関係の動向と課題
  • 木下 武男
    2018 年 9 巻 3 号 p. 74-76
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2020/05/15
    ジャーナル フリー
  • ―紛争の様態と組織化の戦略との連関から―
    今野 晴貴
    2018 年 9 巻 3 号 p. 77-88
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2020/05/15
    ジャーナル フリー

     本稿は,2000年代に急速に広がりを見せ,「偽装請負」や「派遣村」などの問題によって大きな社会的注目を浴びた製造業派遣・請負労働を対象としてその労使関係を検討する。製造業派遣・請負労働に対する労働運動が社会に与えた影響の大きさに比して,その実態はあまり解明されていない。本稿が焦点を当てるのは,個別紛争を通じた労働者の組織化過程である。 上記の課題を検討するために本稿が注目した点は,第一に,企業外的な組織化戦略と企業内的な組織化戦略の間の葛藤であり,第二に,法的な権利構造が与えた組織化戦略への影響である。製造業派遣・請負労働の組織戦略は多様でありながら,法的な権利構造に制約され,リーマンショックを機に直接雇用・金銭解決を求める裁判闘争に収斂することとなった。

  • 三家本 里実
    2018 年 9 巻 3 号 p. 89-101
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2020/05/15
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,裁量労働制の導入・運用に,労働組合がどのように関与しているのかを明らかにすることで,労使関係による労働時間規制の実態,および可能性を探ることにある。 裁量労働制については,各種調査によって,当該制度の導入が労働時間の延長をもたらしていることが指摘されている。だが,その運用にあたって,労働組合がどれほど関与し,規制力を発揮しているのかについては,これまでほとんど解明されていない。 本稿では,当該制度を導入している企業の労働組合を対象としたインタビュー調査を通じて,長時間労働の実態が確認された場合に,制度適用の可否を判断するという運用がなされていることが明らかとなった。より具体的には,制度適用を受ける対象者の選定や適否に労働組合が関与しており,制度導入後,労使協定で定めたみなし時間と実労働時間との間に大幅な乖離が見られる場合には,当該労働者を制度適用から除外する手続きがなされていた。

  • 青木 耕太郎
    2018 年 9 巻 3 号 p. 102-115
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2020/05/15
    ジャーナル フリー

     近年,新興のサービス産業を中心に,周辺的正社員(その使用者はブラック企業などと呼称される)をはじめとする新たな労働者類型が登場してきた。彼らの雇用は不安定且つ低処遇であり,社会問題として指摘されている。だが,従来型の企業別労働組合は当該企業の社員以外を組織対象としないため,こうした問題に対応できない。 一方,2010年代には,ブラック企業で働く若者を組織するための個人加盟ユニオンを結成する動きが現れた。このブラック企業対抗ユニオンは,業種・職種という結集軸を重視する点で,これまでの個人加盟ユニオンとは区別される。 本報告では,こうした新たなタイプの個人加盟ユニオンが,どのような要因や経緯で結成されたのかを明らかにし,その組織形態や組合機能における特徴を提示する。これによって,周辺的正社員という新たな労働者類型に対応した労働組合の組織形態や組合機能について考察することができると考える。

投稿論文
  • 福田 順
    2018 年 9 巻 3 号 p. 116-127
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2020/05/15
    ジャーナル フリー

     本稿では,1959年に設立された農林年金が1970年代にどのような変化が生じたのかを,農業協同組合の労働生産性,賃金,事業構造や厚生年金,国家公務員共済組合との関係から検討するのが目的である。以下に主要な知見を述べる。第1に,労働者1人当たりの付加価値で計測された労働生産性に対しては信用事業の比重は正の影響を与えていたものの,農協の合併や共済事業の比重の拡大の効果は確認できなかった。第2に,農林年金は当初より掛金率が高かったこと,および積立方式が維持されたことから掛金率の引き上げはあまり行われることなかった。第3に,農林年金は農協労働者の賃金を踏まえれば高水準の年金給付を実現したことが分かった。最後に,厚生年金や国家公務員共済組合に準じた改定率や制度が農林年金に適用されたことから,分立的な公的年金制度が年金間の制度間競争をもたらし,年金給付を改善したことも分かった。

  • ―戦時期における女性労働者の階層性をめぐる一考察―
    堀川 祐里
    2018 年 9 巻 3 号 p. 128-140
    発行日: 2018/03/30
    公開日: 2020/05/15
    ジャーナル フリー

     本稿では戦時期に経済的な必要から労働せざるを得なかった既婚女性労働者が,動員政策の中でいかに位置づけられ,子育てにおいて,労働現場において,いかなる問題を抱え,その問題はいかに扱われたのかについて考察する。 戦時期に政府は,経済的理由により動員政策以前から賃金労働をしていた既婚女性を,あえて法律や勅令に明記せずとも働く労働力として意識していた。戦局が悪化する中で,本来は働く必要のない階層の未婚女性を動員するために政府は特別な配慮をした。そのために職場で女子挺身隊と一般女子工員との軋轢が生じると,軋轢を解消するために両者の待遇の差の是正が行われ,未婚女性同士の労働条件は均衡した可能性がある。しかし政府は経済的理由から働く既婚女性に対しては,特別な配慮をしなくても働くものと期待し,既婚女性の就業継続のための労働環境の改善を行うことはなかった。

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