【目的】本研究では,先行研究から抽出された課題を基に,実験1として長座位体前屈の基本姿勢について再検討し,基本姿勢(3群)の違いによる骨盤角変化値および前屈時骨盤角を比較・検討した。更に,実験2としてハムストリングスへの直接的介入(持続的筋伸張法)前後での比較・検討をし,長座位体前屈時の骨盤角測定の有用性に関して検討を行った。【対象】[実験1]健常男性で基本Ⅰ群26名(年齢19~29歳)・基本Ⅱ群11名(年齢19~26歳)・基本Ⅲ群10名(年齢18~29歳)の3群に分類した。[実験2]健常男性でコントロール群7名(年齢19~26歳)・ストレッチ群7名(年齢18~23歳)の2群の分類した。【方法】[実験1]両側の膝伸展可動範囲を測定後,長座位にて各群の基本姿勢を設定した上で,傾斜角度計を用いて静止時骨盤角を測定した。そして,長座位体前屈と同時に前屈時骨盤角を測定した。統計処理は,各群における同一検者間の級内相関係数(ICC)を算出した。また,3群間の(1)静止時骨盤角・(2)骨盤角変化値・(3)前屈時骨盤角,を比較・検討し,Spearmanの順位相関係数を用いて統計的有意性の有無も検討した。[実験2]各群ともに安静後(T1),長座位にて基本姿勢(基本Ⅲ群の方法)を設定した上で静止時骨盤角を測定した。そして,長座位体前屈と同時に前屈時骨盤角を測定した。その後,コントロール群では更に安静後(T2)に,ストレッチ群では持続的筋伸張法実施後(T2)に,静止時骨盤角,長座位体前屈,前屈時骨盤角をそれぞれ測定した。統計処理は,各群の(1)長座位体前屈・(2)骨盤角変化値,を比較・検討した(T1・T2時点)。また,各群の(1)長座位体前屈・(2)骨盤角変化値,のΔ1(Δ1=T2-T1)を比較・検討した。【結果・考察】[実験1]各群においてICC(1,1)=0.8,ICC(1,3)=0.9以上と高い信頼性を示し,傾斜角度計を用いた骨盤角測定は検者内信頼性が高く有用であることが推察された。また,基本Ⅰ群と基本Ⅱ・Ⅲ群間において,静止時骨盤角,骨盤角変化値ともに統計的有意性を示した(p<0.05)。そして,基本Ⅱ・Ⅲ群ともに骨盤角変化値と膝伸展可動範囲間では有意な関連性を示した(基本Ⅱ群:p<0.05,基本Ⅲ群:p<0.01)。以上より,基本Ⅱ・Ⅲ群においては,基本Ⅰ群に比べハムストリングス筋長を個別的に測定できたと思われる。[実験2]T1・T2間における比較では,長座位体前屈・骨盤角変化値ともにストレッチ群において統計的有意性を示した(p<0.05)ものの,各測定値間における比較では,長座位体前屈・骨盤角変化値ともに2群間において有意差は認められなかった。以上より,ハムストリングスが長座位体前屈に影響を及ぼす1要因であることは推察でき,長座位体前屈時での骨盤角測定においては,ハムストリングスの柔軟性検査法として有用となる可能性が示唆された。
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