社会情報学
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3 巻, 3 号
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特集:災害と社会情報
  • 岡本 正
    2015 年 3 巻 3 号 p. 1-14
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    1.2013年の改正災害対策基本法により」自治体は, 避難行動要支援者名簿作成を義務付けられたが, 平常時からの避難行動要支援者名簿(個人情報)の第三者提供(共有)のためには, 自治体が独自に新規条例策定や個人情報保護審議会を利用する必要がある。

    2.2014年の改正消費者安全法により, 自治体の任意で, 高齢者及び障害者など「消費生活上特に配慮を要する消費者」を見守るため, 「消費者安全確保地域協議会」の設置が認められ, 協議会において平常時から個人情報を共有することが許容された。

    3.改正災害対策基本法と改正消費者安全法が予定する支援対象の住民の多くは重なることが予想されるため, 両法律を相互補完適用することで, 平常時からの災害対策を含む総合的な見守り政策を構築できる可能性がある。

    4.各自治体において個人情報の利活用政策を推進するためには, 個人情報の保護と共有に関する政策担当者側のリーガル・リテラシーの取得が不可欠である。一方で, 個人情報を現場で利用する側の官民組織においても, 個人情報分野のリーガル・リテラシー習得が求められる。

    5.リテラシー向上に対する国家レベルの取り組みとして, 消費者庁による「個人情報保護法に関する説明会」がある。また, 各地でのアドホックな勉強会の例が散見される。最も効果的な教育研修の手法は, 実際の過去の災害の事例を学ぶ研修の実施であると考えられる。

  • 桶田 敦
    2015 年 3 巻 3 号 p. 15-38
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    本研究は, 東京電力福島第一原発事故における, 地元放送局であるテレビユー福島(以下, TUFと略記)のニュース生産過程を災害エスノグラフィーの方法を用いて記述し, 原発事故報道とその報道過程から, どんな「暗黙知」と「形式知」があったのかを抽出したものである。

    また, TUFスタッフに対するアンケート調査を行い, 災害報道過程において, 組織としてのTUFやそのスタッフにどのようなストレーンとストレスが生じたのかを明らかにした。

    研究の結果, 組織ジャーナリズムとして, 所属するスタッフの安全を第一に考えることは当然である一方で, 過去の原子力災害取材の教訓から, 「事故を起こした原発には近づかない」という「暗黙知」が存在し, 当初, 第一原発事故によって取り残された被災住民の取材ができなかったことが改めて確認できた。一方で, キー局であるTBSとTUFの間で, 原発事故取材における被ばくリスクのトレードオフが行われ, リスクマネージメントが有効に機能したことがわかった。

    また, アンケート結果から放射線による被ばくリスクが, TUFスタッフのストレスとなって, 原発事故報道そのものに大きく影響を与えていたことが明らかとなった。

    2011年3月12日, 1号機の水素爆発を契機に, ほぼ全てのマスメディアは, 第一原発周辺住民の取材を中断した。このことは, 結果的に, 地域住民に生命の危機が迫る可能性があったことを伝えなかったことにほかならず, TUFを始めとするテレビ局は, 「防災機関」の一員として地域住民の暮らしと安全を守る役割があるにも関わらず, これを放棄したと見なされてもやむを得ない結果を招いた。

    メディアとしては「ジャーナリズムの第一の忠誠の対象は市民である」と説いたコヴァッチ(2002)のジャーナリズムの原則をも忘れ去ったと言わざるを得ない原子力災害報道となった。

  • 廣井 悠
    2015 年 3 巻 3 号 p. 39-60
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    本研究は, 東日本大震災時に首都圏で発生した帰宅困難現象について, 問題の所在を明らかにしたうえで, 今後の対策方針を探るものである。ここでは筆者らが行った社会調査のデータを分析することにより, 東日本大震災時の帰宅判断や求められた情報を知るとともに, 災害情報の視点から今後の対策方針を明らかにした。その結果, 基礎資料としての意義はもとより, 本稿で示した分析のみに限っても様々な実態が明らかとなっている。ここでは特に首都圏の外出者を対象とした回答者の19.9%が当日自宅に帰ることができず, 特に東京では32.2%が帰宅できていないということも判明し, 被害想定において東京都の外出者が約1100万人と想定されている事を考えると, 多くの帰宅困難者が発生したことが改めて示唆される結果となった。また本稿より, 大多数の人たちの情報入手手段はテレビが多かったものの, 徒歩帰宅を試みている回答者は携帯電話による情報入手のニーズが極めて大きかったこと, また家族の安否のみならず, 自分の住んでいる地域の情報を必要とし帰宅意思の原因となっている人が多いことがわかった。本稿の最後では, 東日本大震災時における首都圏の移動に関するトリップデータを用いて非集計分析を試み, 帰宅意思モデルを作成した。これにより, 大都市災害時移動シミュレーションを構築し帰宅意思モデルをあてはめることによって, 帰宅困難者対策の政策評価を行うことができた。

シンポジウム報告
  • 一力 雅彦, 高野 明彦, 正村 俊之, 田中 淳, 吉田 寛, 橋元 良明
    2015 年 3 巻 3 号 p. 61-86
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー
  • 橋田 浩一
    2015 年 3 巻 3 号 p. 87-98
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    個人データの集中管理とは, 管理者が多数の個人のデータをまとめて管理することであり, これによって多数の個人のデータが一挙に活用されたり漏洩したりし得る。一方, 個人データの分散管理とは, 個人または代理人が本人分のデータのみを管理することであり, 一挙に利用されたり漏洩したりするデータは1人分に限られるので, セキュリティが高い。個人が本人のデータを電子的に蓄積して他者と安全に共有し活用するための仕組みをPDS (個人データ保管庫)と言う。個人はPDSによって自らの利益を高めるように自分のデータを活用することができ, こうしてB2Cサービス全体の社会的価値も向上する。 PDSにも集中型のものと分散型のものがあり, 分散PDSの方がセキュリティと利便性が高い。分散PDS にもサーバ主導のものと個人端末主導のものがあるが, PLR (個人生活録)は個人端末主導の分散PDSであり, 個人端末もサーバ側の仕組みもすでにコモディティになっているものを使うので, 導入・運用コストが非常に小さい。マーケティング, 電力小売の自由化, マイナンバー, スーパーハイビジョン放送, 医療制度改革等に伴う個人データの安全・安価な管理と活用に対するニーズの高まりがPLRのような分散PDSを普及させる契機になるものと考えられる。

  • 板倉 陽一郎
    2015 年 3 巻 3 号 p. 99-111
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    パーソナルデータの利活用に関する制度見直しは, 内閣官房IT総合戦略本部に設置された「パーソナルデータに関する検討会」において検討が進められ, 平成25年12月には「パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針」が, 平成26年6月には「パーソナルデータの制度改正大綱」が, それぞれIT総合戦略本部決定され, これを元に個人情報保護法の改正案が作成されるものと思われた。しかしながら, 平成26年12月の検討会で公表された「個人情報の保護に関する法律の一部を改正する法律案(仮称)の骨子(案)」は, 「大綱」からかけ離れた内容を含んでいる。具体的には, ①「個人情報」の定義については, 「大綱」が保護対象の見直しについては「機動的に行うことができるよう措置する」とされたものの, 政令事項となり, 更に議論しなければならない。②匿名加工情報(仮称)については, 「民間の自主規制ルール」に関する規律がほぼ無内容となった上で, 自主規制ルールではなく個人情報保護委員会規則での規律は非現実的である。③利用目的制限の緩和は, 本人の感知しないまま利用目的の変更を認めるものであり, OECDプライバシーガイドライン違反のおそれがある他, 経済界からも, 消費者の信頼を得られず, 導入できないとの声が上がっている。④外国にある第三者への提供の制限については, 一般的な第三国への移転概念と異なる日本独自の概念を創り出しており, 混乱のもとである他, 移転可能な第三国をホワイトリスト方式にすることとしており, 外交上の困難を招来するものである。

  • 吉田 寛
    2015 年 3 巻 3 号 p. 113-126
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    本稿は, ビッグデータに対する推進論や警戒論に対して, その議論の基盤となるような理論的観点を提案する。私はビッグデータを, 世界についての情報を表現した「表象」とみなし, ビッグデータ・テクノロジーを世界についての表象を取り扱う技術であると考える。表象は解釈によって意味が確定する記号や表現であり, 従ってビッグデータを扱うテクノロジーの評価とコントロールについては, こういった解釈をめぐる人文・社会学的なアプローチが必須である。

    表象について, 認知科学や心の哲学では局所表象と分散表象という区別がある。分散表象とは, 意味的な単位が分解されて, システム全体の中に分散的に存在している表象のことであり, その処理過程を意識化することは不可能である。ビッグデータがこうした分散表象として処理される場合, データの利用者にとっても処理の過程を意識化することはできない。従って, 専門職としてのデータ・サイエンティストであっても、このテクノロジーについての透明性や説明責任を保証することは難しいだろう。そこで, 分散表象的なビッグデータの社会的コントロールについては, 専門職や政府, データ利用者だけでなく, データ対象となっている市民の参加を保証した、参加ガバナンスの構築が必要であると思われる。

  • 田畑 暁生
    2015 年 3 巻 3 号 p. 127-134
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    ビッグデータは情報社会における最新の流行語の一つとなり, 日経や野村総研などが盛んに使ってそのビジネスを盛り立てているが, 他方, ビッグデータ利用がもたらすプライバシー侵害問題についても, 日立とJR東日本の事例のように注目を集めることがある。本論文では第1節でビッグデータの中身を再検討し, 第2節でビッグデータによるプライバシー侵害問題の特徴を述べ, 第3節では, いわゆる「監視社会」が, ビッグデータと人工知能技術の結びつきによって, 人間の判断が機械に肩代わりされるような社会へと向かっていく可能性および危険性を論ずる。

  • 中井 豊
    2015 年 3 巻 3 号 p. 135-140
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    BIG DATAと言えば, 個々人の行動に関する定量的なDATAに注目が集まるが, 意味を専ら取り扱う社会科学では, テキスト型のBIG DATAの利用が期待される。「生」の, 「本音」の, 「時々刻々」の声を把握できるテキスト型のBIG DATAによって, 社会の通念等を, 個人レベルの分解能で常時観測できることで, 社会調査のあり方が根本的に変わる可能性がある。また, 社会理論研究に関しては, 従来, 理論の妥当性を経験的に検証することは難しかったが, 社会シミュレーション等他の技法とともに, テキスト型BIG DATAの利用が進み, 検証過程の説得性を飛躍的に高めるであろう。一方, 膨大なデータの中から如何に意味を自動抽出するかが大きな課題である。形態素解析や共起解析などの手法が開発されているが, 自然言語処理における一層の技術開発が望まれる。

若手カンファレンス報告
  • 渡部 春佳
    2015 年 3 巻 3 号 p. 141-148
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    文化政策の現場に, 民間組織, NPO法人, 大学のような組織のみならず個人単位での参加がみられている。本研究は, 舞台芸術の創造・上演・鑑賞を目的とする公立劇場を事例に, その創造母体との関係を確認する。これまでに設立された施設の多くは, 専用ホールを持つものの明確な理念を持たないハコモノであった。しかし一部の地域においては, 国による舞台芸術の創造環境の整備のための法制化が進む2000年代以前から積極的な事業実施機能を持ち, 観客との関係を結ぶ施設がみられていた。本稿ではそのような公立劇場に対して, 地域内外のアーティストや文化・芸術団体とどのような関係を持っているのかを明らかにすることを目的とした。国内の公立劇場の事例に対して設立時および運営や事業実施に市民参加の仕組みはあるか, 特別な創造母体はあるか, 専門家はいるかという点を中心に検討を行った。そして専門家が存在しなかった場合では, 地域内外の創造母体へのアプローチが必要であったことを確認した。最終的に本稿は, 近年の動きとして, 公立劇場を拠点に個人のネットワークによって推進される演劇事業を取り上げ, それを可能にした条件等について考察した。

  • 阿由葉 大生
    2015 年 3 巻 3 号 p. 149-165
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    地域情報化施策は, 日本や北米を始めとする各国で取り組まれており, その地域社会への影響については包括的な研究もなされている。Wellman, B.とHampton, K.による研究や, SOCQUITと呼ばれるEUによる研究プロジェクトでは, 地域情報化が地域社会や住民の社会関係資本やQoLに与える影響が, 定量的あるいは定性的手法によって明らかにされている。しかしながら, そもそも地域情報化がどのように実践されているのか, 地域情報化の当事者に密着した研究は少ない。そこで本研究では, アクター・ネットワーク理論と科学技術社会学におけるユーザー論を分析枠組みとして参照しつつ, 地域SNS施策がどのように展開されたのかを定性的に明らかにする。具体的には, Latour, B, Callon, M, Akrich, Mらの議論を参照し, 地域情報化施策の一環としての地域SNSが, 総務省, 財団法人地方自治情報センター, 掛川市などの自治体によって, どのように形成され, 改良され, 実施されていったのかを当事者のおかれた文脈に定位しつつ明らかにする。この分析の結果, 地域SNS施策の実施は, そのデザインから実施にたるまで, 技術的なものと社会的なものの相互交渉過程であること明らかにした上で, こうした本研究の視座が, 文化と情報というものの見方に対するひとつの試論となることを結論として示唆する。

  • 中谷 勇哉
    2015 年 3 巻 3 号 p. 167-177
    発行日: 2015/03/31
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    本発表の目的は, 与えられたテーマ(「現代日本にある多様な文化はそれぞれ, 情報技術とどのような相互作用を持っている(あるいは持っていない)」)のであろうか)について, 知覚の変化という観点から, 現代を「メタ複製技術時代」として捉え考察することである。事例としては, 初音ミクのライブを扱う。そのなかでまず, 既存の初音ミク論について整理した後, フラッシュモブとハクティビズムという現代の文化現象が, ロックフェスティバルとハッカー文化にその原型をもっていること, そしてそれらの関連性について述べる。その後それらのことから, 複製技術時代からメタ複製技術時代への移行と音楽聴取形態の変容が関連して起きていることを示す。また, 以上の議論から, 文化領域における情報の価値についても考察を試みる。

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