社会情報学
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ISSN-L : 2432-2148
4 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
研究
  • 荻島 和真, 福安 真奈, 浦田 真由, 遠藤 守, 安田 孝美
    2016 年 4 巻 2 号 p. 1-16
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    オープンデータを推進する方法として,開発イベントやアプリコンテストが各地で開催され,一定の効果を示している。基礎自治体によるオープンデータ推進のためには,これらの取り組みを短期集中的に実施するだけでなく,自治体の受容性を考慮した上で,日常的な自治業務にオープンデータを取り入れていく必要がある。しかし,多くの自治体は,膨大な業務の中,限られた人員やコストでオープンデータを推進している。そこで,本研究では従来の自治業務におけるオープンデータ推進の確立を目的とし,自治体が主催する観光イベントを対象にオープンデータ化の試行とアプリ開発を実践した。観光イベントについて,自治体が発信しているリーフレットの情報を整理し,オープンデータ化を試行した。これを活用して,観光イベントをガイドするモバイル端末向けアプリを開発し,アプリを利用した実証実験を,名古屋市東区で行われる「第15回 歩こう!文化のみち」にて実施した。実証実験からはアプリの有用性が明らかになり,試行した観光イベント情報のオープンデータが有用であることを示すことができた。また,本研究の成果として,「第16回 歩こう!文化のみち」の観光イベント情報が名古屋市のオープンデータとして公開されることになった。以上を踏まえ,自治体の受容性を考慮した,従来の自治業務におけるオープンデータ推進について考察した。

総会シンポジウム報告
  • 新川 達郎
    2016 年 4 巻 2 号 p. 17-28
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    パブリック・ガバナンスを担う政府あるいは公共部門は, リスク・マネジメントをその責務の一つとしている。リスク・マネジメントの範囲は社会全体にわたる幅広いものであり, 同時にその義務履行については国民・住民など社会一般に対するアカウンタビリティ(説明責任)が求められている。このようなリスク・マネジメントが機能する枠組みを提供するのがリスク・ガバナンスである。リスク・ガバナンスが適切に作動するためには, リスクに係わる膨大な情報の収集・評価・分析・伝達を可能にする現代の情報技術が不可欠であり, それら情報処理の成果をガバナンスのパートナーが共通基盤とすることが必要となっている。今日の公共部門におけるリスク・ガバナンスは, 組織内コミュニケーションや組織間コミュニケーションなどリスク・コミュニケーションと, その結果得られる情報の共有と情報評価が行われることによって成立する。こうしたリスク・コミュニケーションは, また, 災害対策に関しても極めて大きな役割を果たす。リスク・コミュニケーションは, 災害に際してリスクの回避や被災の軽減などのために, リスク情報を提供しその評価を共有し, さらにはその情報の伝搬を進めることによって, 防災, 減災, 救援, 復旧そして復興など災害にかかわるあらゆる局面において, 災害対策の根幹となるのである。リスク・コミュニケーションをいかにして適切に実現していくのかは, 社会情報学が解決すべき大きな課題でもある。

  • 吉田 純
    2016 年 4 巻 2 号 p. 29-37
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は, 監視/監査という形態で実現される現代の情報社会におけるリスク制御の様相について, 再帰的近代化論およびルーマン派システム理論の視点から, 理論的に考察することである。監視/監査という2つの概念は, ともに情報社会の本質的特性であるリスク産出およびリスク制御という相互に表裏一体をなす2つの活動を記述・分析するうえで鍵となる概念である。

    再帰的近代化論は, リスク産出の拡大とリスク制御の可能性の拡大という両側面を, 現代社会の本質的な二律背反として捉える。またルーマン派システム理論は, 機能分化した複数の機能システムによって構成される近現代社会にとって, リスクの発生と増大が不可避的・必然的なものであるとみなす。とくに, 情報システムに代表される現代の技術システムは, それ自体が新たなリスクを産出すると同時に, リスク制御の可能性の条件をも産出するという両面性をもつ。監視/監査という2つの活動は, そのような情報システムの両面性と相関しつつ, システムの「相補的観察」(K.P. ヤップ)という形態で, 情報社会におけるリスク制御の可能性を具体化していると考えられる。

  • 正村 俊之
    2016 年 4 巻 2 号 p. 39-53
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    1980年代以降, 行政と企業のいずれの領域においてもガバナンス改革が進んだ。行政領域では, 80年代に「新公共管理」が導入され, 90年代に「新公共ガバナンス」が成立した。新公共管理から新公共ガバナンスへの移行は, 古い形態が新しい形態に単純に置き換わる変化ではなかった。そこには, 新公共管理からの「離反・継承・発展」という三つの位相が含まれていた。一方, 企業領域でも, 企業環境の複雑化と流動化, そして企業不祥事の続発に対処するために, ガバナンス改革が進んだ。内部統制の概念が拡大され, 内部統制を基軸にしたガバナンス構造が確立された。今日のパブリック・ガバナンスとコーポレート・ガバナンスを比較してみると, 三つの共通点がある。第1に, どちらのガバナンスも, 内部コントロールと外部コントロールを組み込み, 自律的主体を強制的に生成するような構造を形成していること。第2に, 行政組織も企業組織も, 第一次機能だけでなく, 第二次機能を果たすことが強く求められていること。そして第3に, リスク管理としての共通の情報処理様式を確立しようとしていること。以上のことから, 現代的ガバナンスの成立には①収集・蓄積問題, ②変換問題, ③評価問題, ④共有問題, ⑤設計問題という5つの情報問題が含まれていることが帰結される。社会情報学は, これらの情報問題とそこに内在する社会的仕組みを解明しなければならない。

  • 岩崎 正洋
    2016 年 4 巻 2 号 p. 55-64
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    本稿は, 学会シンポジウム「ガバナンスの社会情報学—リスク・監査・アカウンタビリティ」において, コメンテーターとして発言した内容をふまえて, まとめたものである。本稿では, 政治学の立場からガバナンスを考えるが, とりわけ, 現代の民主主義におけるガバナンスを対象としている。政治学では, 現代の民主主義において, どのようにガバナンスが機能するのかという問題が一つの論点となっている。もちろん, ガバナンスの研究が政治学の専売特許であるというつもりはないが, ガバナンスという言葉に含まれる「統治」という意味合いが政治学の主要なテーマであることを考慮すると, ガバナンスの社会情報学について考える際に, 政治学の立場から議論に加わることには意義があると思われる。本稿では, 「リスク」, 「監査」, 「アカウンタビリティ」という三つの点からガバナンスが機能しているのか否か, 機能する際に何らかの問題があるとすれば, それは何かを検討していく。それによって, ガバナンスという一つのキーワードを通して, 社会情報学と政治学との結節点がみえてくるように思われる。さらにいえば, 社会情報学から政治学への知的貢献も見出し得ると思われるし, 同様に, 政治学から社会情報学への何らかの知的貢献も見出し得ると思われる。

  • 高橋 徹
    2016 年 4 巻 2 号 p. 65-75
    発行日: 2016/02/29
    公開日: 2017/01/25
    ジャーナル フリー

    現代社会はローカルにもグローバルにも様々な問題に直面している。これらの問題に対して, 多様なスキルや専門性をもつアクターが, 多様なコミットメントの形態をとりながらボーダーレスな連携・協力関係を構築して取り組んでいる。その状況は, 官/民のような社会領域の伝統的二元図式やローカル/グローバルといった空間的図式さえも陳腐化させつつある。本稿では, そうした現代的な社会構築の営みをソサエタル・ガバナンス概念によって描き出そうとした。「ソサエタル」という形容詞が示すのは, 政治・経済・科学・法・芸術のような社会的諸領域の自律性を前提としたうえでそれを包括するような社会秩序の地平である。様々な取り組みのボーダーレス化が進む現代では, そのような社会的地平は, ローカル/グローバルのような空間的諸水準をも包括する世界社会として立ち現われる。本稿では, ソサエタル・ガバナンスの取り組みをアドヴォカシー, 資源調達, 連携促進の三側面から支援するメディアのカテゴリーとして, ソサエタル・メディア概念を提起した。このメディアは, 支援や連携を必要とするアクターたちを支援者や協力者たちと結びつけるリエゾンメディアとしての役割をもつ。それによってソサエタル・ガバナンスの取り組みが機動的に展開されるための条件が整えられる。本稿では, ガバナンスとメディアに関するこれらの概念を対概念として定式化し, それによってガバナンス論との邂逅によってもたらされる社会情報学の一つの視点を提案したい。

活動報告
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