社会情報学
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7 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著論文
  • 正木 誠子
    2019 年 7 巻 3 号 p. 1-16
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/09
    ジャーナル フリー

    本稿では,視聴者によるテレビに対するネガティブな反応全般を「テレビ批判」と定義し,その規定因を検討する。テレビ批判の規定因として「他者がテレビから影響を受ける程度の見積り」と「第三者効果」に注目し,仮説1「テレビが他者に与える影響を高く見積る傾向にある人は,テレビを批判する」,仮説2「他者への見積りが高く,さらに『自分も影響を受けない』と見積る人(=第三者効果傾向の人)は,テレビを批判する」を設定した。20~60代の男女520名を対象にオンライン調査を実施した。

    分析の結果,因子分析によってテレビに対する批判態度を「危険・下品描写への批判」「報道への批判」「犯罪助長・過激表現への批判」「ドラマへの批判」に分類した。さらに仮説の検証のために相関分析,重回帰分析を行った。結果,他者への見積はすべてのテレビ批判に効果が認められ,仮説1は支持することができる。一方,第三者効果は報道のみに効果が認められたが他の3つの批判との関連は確認できなかったため,仮説2は一部支持という結果になった。しかし,犯罪助長・過激表現への批判には第三者効果と逆の概念であるFirst-person effectが認められた。

  • 松原 妙華
    2019 年 7 巻 3 号 p. 17-34
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/09
    ジャーナル フリー

    内部告発報道は市民の知る権利に応えるものとして評価される一方で,情報源である告発者は組織から不利益取扱いを受ける場合がある。日本では,告発者を組織の不利益取扱いから保護するため,2004年に公益通報者保護法が制定され,メディアへの通報は法3条3号で保護されることとなった。しかし,その保護要件の厳しさは法案作成時から指摘されており,3号通報保護要件の見直しは,2018年に法改正に向けて再開した公益通報者保護専門調査会の論点のひとつとなったが,告発経験者や報道関係者の声が法改正に反映されるのか不安な状況がある。

    そこで本稿は,メディアを告発先とした告発経験者を対象にインタビュー調査を行い,3号通報保護要件の緩和について検討する。まず,立法及び法改正に向けた議論での3号通報保護要件に関する論点を明らかにし(2章),その論点ごとに,内部告発の正当性に関する先行研究や裁判例を整理した上で(3章),告発者へのインタビュー調査結果を提示する(4章)。そして,それをもとに具体的方策(通報対象者の範囲の拡大,主観的要件の維持,通報対象事実の拡大,切迫性の削除,真実相当性の緩和,特定事由の緩和,不利益取扱い等からの保護,証拠の収集・持出行為の免責,公益性による要件緩和)について考察を加え(5章),最後に,告発者の表現の自由と市民の知る権利を含む内部告発報道の公益性を守る3号通報の重要性を指摘する。

研究
  • 小田 光康, Wilaiwan Petsophonsakl, Yada Aronthippaitoon, Piya Na Bangchang ...
    2019 年 7 巻 3 号 p. 35-51
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/09
    ジャーナル フリー

    タイ・チェンマイ県では狂犬病予防対策がなされてきたが,いまだその根絶には至らない。その専門性などから子供らへの伝達が十分とは言えない。本研究では現地状況を踏まえた狂犬病予防のメディア教育開発プロジェクト研究の予備調査として,タイ国内のメディア環境と教育環境の概要を同定すると共に,同県の4校における児童・生徒のメディア環境と情報行動を調査した。回答者は男性が48.6%,女性が51.4%で,母語はタイ語方言が45.6%,少数民族言語が31.2%,タイ語が22.2%であった。「1日のメディア利用時間」は1時間から3時間までの合計で全体の3分の二を占めた。「最もよく利用するメディア」はスマートフォンが最も多く57.4%,続いてテレビが32.4%だった。「最もよく利用するコンテンツ」ではSNSが39.4%,ゲームが33.0%,動画が20.0%と続いた。「ニュースの入手先」のうち,テレビが46.6%,次いでスマートフォンを利用したSNSが27.5%,パソコンを利用したポータルサイトなどが17.1%であった。移動体通信網等や初等中等教育の普及の程度や生活環境を背景に,地域,性別,年齢層,母語によって有意に異なるメディア環境や情報行動が存在することが確認された。タイ語リテラシーの低い児童を最優先すると,動画やゲームを利用した非言語的な狂犬病予防のメディア教材が有効であろう。一方でテレビなど従来のマスメディアを介した広報や啓蒙も継続する必要がある。

  • 衛藤 彬史
    2019 年 7 巻 3 号 p. 53-62
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/09
    ジャーナル フリー

    多くの中山間地域では,生活する上で自家用車が必要不可欠であり,自身で車を運転することが難しく,身近に同乗を依頼できる相手がいない場合,移動に多大な困難を伴う。地方行政の財源が限られている中,十分な交通手段を地域で確保するためには地域独自の交通サービスを構築する必要がある。住民がドライバーを担い,需要に応じて利用者を送迎する仕組みの導入を模索する地域が増えつつある中,配車の手配や運行管理といった業務を省力化するツールとしてICTの活用に期待が高まっているが,実践例は少ない。

    本稿では,ICTを活用した地域独自の交通サービスを構築し,交通空白地問題を解消ないし軽減している先進的な事例地において,調整役を果たした実務者を対象に聞き取り調査を実施し,どのようにサービスの導入を進めてきたのか,導入過程における技術利用上の課題は何かを明らかにした。導入当初,高齢者を中心としたサービスの利用者にとって(1)決済システムがクレジットカードのみであること,(2)インターネットやアプリの使用が前提となっていることが利用拡大を阻む主な課題としてあったが,システム上の変更に加え,各ドライバーが車内での現金収受に対応することや,近隣住民らが機器を代理で操作する等の協力体制を地域で構築することで克服していることが分かった。

  • 小寺 敦之
    2019 年 7 巻 3 号 p. 63-76
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/09
    ジャーナル フリー

    シニア層のメディア利用についての研究の多くが,社会や他者とつながろうとする動機が彼らのメディア利用を促進していると主張し,メディア利用と「幸福な老い」にはポジティブな関係があることを示唆してきた。本研究は,「利用と満足研究」の視点と方法に基づき,シニア層のメディア効用と「幸福な老い」との関係を明らかにするものである。

    東京近郊で実施した調査(n=1,644)の結果,ほとんどのメディア効用はモラールに寄与しておらず,とりわけテレビの消費的効用とモラールは一貫してネガティブな関係にあることが示された。つまり,モラールの低い人ほどテレビの消費的効用を高く認識しているということであり,シニア層のテレビ利用に対する従来の見方が過度に楽観的であったことを示唆するものとなった。

    また,「利用と満足研究」は,社会との関わりの減少が機能的代替としてのメディア利用を促進するとの仮説を有しているが,リタイア者のメディア効用が「幸福な老い」に大きく寄与している証拠も見出せなかった。これはリタイアによって失われた社会活動をメディアが補完するという従来の考え方に異議を唱えるものである。

    メディア利用に関する調査研究では,老年期の社会適応について活動理論を支持するものが多いが,本研究はこれに否定的な見解を示すものとなっている。

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