社会情報学
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ISSN-L : 2432-2148
8 巻, 1 号
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特集「ネオ・サイバネティクス」・論文
  • 河島 茂生
    2019 年 8 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/10
    ジャーナル フリー

    本論文は,AIやロボットが社会に普及している状況下において,また複数のAIが通信ネットワークにおいて接続していく状況下において,いかに倫理的責任の帰属を位置づけるかを検討している。ネオ・サイバネティクスの理論に依拠しつつ,EU議会における電子人間の提言への懸念を示し,AIネットワーク環境下の集合的責任ともいうべき考え方を支持した。電子人間確立の提案は,オートポイエティック・システムでないものに人格という位置を与えることであり,それは,実情に合わないのに加えて倫理的問題を引き起こしかねない。電子人間を制度的に確立しなくとも,集合的責任の制度構築により補償は可能である。近年のコンピュータ技術の動向を鑑みるに,特定の人や組織に責任を帰属できない場合が想定される。その場合は,被害者を救済し,開発者・利用者の萎縮を引き起こさないために集合的責任の導入が求められる。ただしAIネットワーク状況下における責任のありようは,集合的責任のみだけは不足である。特定の人や組織の瑕疵が明確である場合は,そこに責任を帰属させることが望まれる。これは近代以降の慣習になっており容易に変えることが難しいうえ,開発者・利用者の故意の過失もしくは怠慢,責任感の減退を防ぐためには,また技術を改善する動機の維持のためには必要であると考えられる。

  • 中村 肇
    2019 年 8 巻 1 号 p. 15-30
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/10
    ジャーナル フリー

    メディアが透明な媒介としてわれわれの生活世界を侵食する際に立ち現れる身体性の剥奪という問題は如何にして記述できるのだろうか。本論考は,その些か巨大すぎる問いに,ネオ・サイバネティクスと総称される思想的潮流の一端を担う「基礎情報学」の観点から,社会美学における「共通美」の概念を手がかりに考察する。より具体的には,昨今のSNS文化における加工写真=〈新しいテクノ画像〉が,被写体の身体性が剥奪されているにもかからず広く受容されている状況に対して,基礎情報学の心的システムの議論やヴィレム・フルッサーのメディア理論,さらにはマイケル・ポラニーの暗黙知などの諸概念に依拠しつつ,理論的な検討を加える。主観的な知から出発したわれわれの心的システムが,二人称的な対話を通じて共振しながらコミュニケーションの発展過程として描出されていく一方で,それが社会システムへと転化し,安定状態へと達した結果,逆に個人の美的価値から身体性=視覚ディスプレイ上から立ちのぼるある種の生々しさを剥奪させていく様態を,階層的自律コミュニケーション・システムHACS(Hierarchical Autonomous Communication System)モデルから捉え直す。

  • 原島 大輔
    2019 年 8 巻 1 号 p. 31-47
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/10
    ジャーナル フリー

    情動は,生命システムの作動プロセスの活性度にほかならない。これは,観察記述するシステムの視点によって,次の三種類に分類される。すなわち,機械的情動,生命的情動,そしてそれらの両義的な情動(社会的情動)である。機械的情動は,ある種の自動操縦プログラムであり,他律系の行動を誘発する。この自動的行動は,社会システムの道徳的規範とある程度一致したものになる。なぜなら,メディアの機能によって社会システムが制約した拘束としての現実が,可能な行動の選択肢を有限な範囲にあらかじめ限定しており,機械的情動が誘発しうるのはこの範囲内で選択された行動だからである。これは,基礎情報学のHACS(階層的自律コミュニケーション・システム)モデルでいうと,上位システムの視点からみた下位システムの行動として観察記述される。生命的情動は,自律系が固有の意味と価値を自己形成する自己産出の行為である。これは無限の偶然性から有限の可能性を自己限定する。これが,システムに,規範主義的な道徳性ではない,倫理的な責任をもたらすのである。これは下位システムの視点からみた下位システム自身の作動プロセスとして観察記述される。そして,これらの情動の両義性の感情が,社会的生物としてのシステムの自己感覚を実感させる。これはHACSの社会的自律性の活性度を自己観察記述する方法のひとつである。

  • 大井 奈美
    2019 年 8 巻 1 号 p. 49-64
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/10
    ジャーナル フリー

    本研究の課題は,喪失体験における意味の回復プロセスを明らかにすることである。フロイトによれば,喪失体験の本質は意味の喪失である。意味が回復されてはじめて喪失とともに生きられるようになり,喪失がその後の人生の礎になりうる。

    本研究の方法として,構成主義の立場から心を一種の自律的なシステムと理解する「心的システム論」を参照する。心的システム論は,主にオートポイエティック・システム論に基づく,心をめぐる様々な研究を含む。社会情報学はそれらを理論的に参照してきた。心的システム論は,いかなる内的な意味や価値の実現に向けて心的システムが「作動する」のかに注目する。この分析観点は,喪失体験をめぐる苦しみの原因と癒しについて考察するために有益と思われる。

    本研究は,喪失の意味が回復または再構成される過程を「4モードモデル」として提案する。そこでは,心的システムが意味を創出する基準(「成果メディア」)を4つの段階に類型化した。システム進化の観点から4モードモデルを心的システムの発達モデルとして理解することで,従来の心的システム論の展開を試みた。

    結論として,心的システムが意味構成体としての自律性・閉鎖性を発現させ,個別的な理想性を克服する普遍的な自己超越を志向することが,喪失の意味回復を可能にする。最終的に,同様に苦しむ他者の内的観点に立って他者を理解する「内部観察者」へと心的システムは進化しうる。このとき喪失の絶望から「愛」が生じる価値の反転が起こる。

原著論文
  • 横尾 俊成
    2019 年 8 巻 1 号 p. 65-79
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/10
    ジャーナル フリー

    本稿は,渋谷区の「同性パートナーシップ条例」から波及した札幌市の「札幌市パートナーシップ宣誓制度」を事例に,その導入過程における「フレーム伝播」と呼ぶべき現象を捉え,現代の日本において,地方自治体の新政策の波及にSNSを用いた社会運動がどのような影響を持ち得るのかを実証的に分析するものである。札幌市の制度の特徴は,首長からの発案ではなく,社会運動からの提案の結果つくられた点にある。

    札幌市でみられた社会運動は,組織による資源動員,さらにSNSを活用した「フレーム増幅」と「フレームブリッジ」の組み合わせからなる「フレーム伝播」を経て,市長や職員,議員の判断に影響を与えた。また,世田谷区での運動のキーパーソンは,制度の波及を意識した区議会議員,札幌市のキーパーソンは,渋谷区や世田谷区の事例に学び,行政にアプローチしたLGBT当事者であり,どちらもSNSの影響力を意識していた。新政策の波及に住民による運動が影響を与えた背景には,SNSやそれが生み出すネットワークによって,住民が多くの人の共感を生み出す発信力と受信力を持ったことが大きい。人々は,投稿によって社会的な認知をつくり出し,行政などに対して多数の賛同者の姿を見せられるようになったのである。

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