本稿はM. ウェーバー社会学における感情要因の位置づけを明らかにするという狙いの下に、とりわけ彼の名誉感情の位置づけに焦点を合わせるものである。
ウェーバーは特に〈自尊感情(Würdegefühl)〉というタームを用いて名誉感情を分析している。ウェーバーの〈自尊感情〉とは普遍的に抱かれる名誉感情を全般的に指示したものである。と同時にウェーバーは、自尊感情の具体的なあり方が当事者の置かれた身分状況に依存し、また様々な名誉観念に媒介されることによって多様な姿をとることを分析している。
さらにウェーバーは、マクロな社会構造の各局面で自尊感情が重要な要因として働いていることを分析している。例えば彼は支配構造を分析する際、行政幹部が行政活動に名誉を見出し、これを動機として行政活動をしていることに着目する。特に名望家支配と封建制においては、行政幹部が自尊感情を動機として行政活動をしていることが、支配関係の維持において不可欠の要素になっているのである。またウェーバーは宗教分析においても、宗教内容の規定因として、また宗教が特権層よりも被抑圧層に受容されやすいことの要因として被抑圧層の自尊感情を重視している。
最後に、ウェーバーが〈身分〉概念を〈階級〉概念から区別して定礎したことから、彼が名誉感情を全社会分析の基礎視角として方法論的にも位置づけていることがわかる。ウェーバーは名誉を経済的利害と並ぶ行為の二大動機として重視するとともに、両者が勢力を分配し社会を構成する二大構成要素だと考えたのである。
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