聖マリアンナ医科大学雑誌
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45 巻, 3 号
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原著
  • 敦賀 智子, 熊井 俊夫, 岡田 麻衣子
    2017 年 45 巻 3 号 p. 149-159
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/04
    ジャーナル フリー

    生体内の恒常性維持には細胞内のタンパク質量の適切な制御が必須である。ユビキチン-プロテアソーム系によるユビキチン化タンパク質の標的特異的な分解機構は,主要な機構の一つである。一方で,プロテアソーム機能の異常亢進はがん細胞の増殖や生存と密接に関連するため,その制御機構の解明はプロテアソーム阻害剤を用いたがん治療の基盤として重要である。そこで我々は,プロテアソーム制御因子UBE3C,およびUBE3Cと相同性の高いUBE3Bに着目した。両因子はプロテアソーム制御による細胞増殖への関与が予測されるが,その全貌は不明であった。本研究によりUBE3Bが細胞増殖に必須であることが示唆された。UBE3Bの細胞内機能はこれまで未知であったが,UBE3Bによるプロテアソーム構成因子との共局在やユビキチンの異常蓄積・凝集の抑制が示され,UBE3Bによる適切なプロテアソーム制御が細胞増殖に関与することが示唆された。また,UEB3BとUBE3Cは共局在しており,UBE3Bの発現低下による増殖低下がUBE3Cの発現低下によりわずかに改善されることが示された。以上から,UBE3Bの細胞増殖能がUBE3Cによる制御を受ける可能性が示唆された。
    今後,両因子群の発現パターンとプロテアソーム機能との関連を明確にすることで,プロテアソーム阻害剤感受性における両因子群のバイオマーカーとしての役割が期待される。

  • 北 翔太, 千葉 清, 杵渕 聡志, 鈴木 寛俊, 桜井 祐加, 盧 大潤, 永田 徳一郎, 小野 裕國, 大野 真, 近田 正英, 西巻 ...
    2017 年 45 巻 3 号 p. 161-166
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/04
    ジャーナル フリー

    胸部大動脈瘤に対する治療の第一選択は人工血管置換術とされているが,近年Total debranchingを含むハイブリッド手術も行われるようになってきた。そこで胸部大動脈瘤に対する治療として人工血管置換術とステントグラフトを用いたハイブリッド手術の成績を比較検討した。当院における2009年7月から2014年10月までの真性瘤と慢性解離の広範囲胸部大動脈瘤の48症例を対象として早期治療成績の比較を行った。人工血管置換術群(T群)は38症例,ハイブリッド手術群(H群)は10症例であった。術前のリスク評価として算出したJapan Scoreでは30日死亡率+合併症率は,H群で有意に高値であった(p<0.01)。結果は,両群間に手術死亡率,入院死亡率に有意差を認めなかった。H群はT群よりも手術時間およびICU滞在期間が有意に短かった(p<.001, p=0.0162)が,人工呼吸器装着時間,術後入院期間に有意差を認めなかった。術後合併症としては低拍出量症候群と脊髄梗塞をT群では認めなかったのに対して,H群ではそれぞれ1例ずつ認め,有意に高率であった(p<0.05)。H群は,T群に比べてより高齢で術前リスクスコアが高い症例が多かったが,術後の手術死亡率,入院死亡率に有意差を認めず,有効な治療法と考えられる。今後,手術適応を厳密に行い,手術手技の安全性を高めることにより,胸部大動脈瘤に対するステントグラフトを用いたハイブリッド手術が有効な治療法として確立される可能性が示唆された。

  • 藤井 厚司, 松下 和彦, 笹生 豊, 鳥居 良昭, 石森 光一, 小野瀬 善道, 赤澤 努, 仁木 久照
    2017 年 45 巻 3 号 p. 167-171
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/04
    ジャーナル フリー

    脊髄硬膜外膿瘍(SEA)は経過観察中に麻痺症状を呈することが知られている。SEAと脊髄硬膜外血種(SEH)は同じ硬膜外病変であるが,SEAの方が麻痺の改善が悪いとする報告がある。今回我々は,SEAにおける原因菌の種類と神経症状の有無との関連を検討したので報告する。
    症例は急性期のSEAと診断した症例のうち,原因菌が判明した20例である。治療経過中に明らかな筋力低下や膀胱直腸障害を呈した症例を麻痺群,神経障害を認めなかった症例を麻痺なし群とした。原因菌は,黄色ブドウ球菌が20例中13例(65%)と最も多く,黄色ブドウ球菌の割合は麻痺群では12例中11例(92%)であった。一方,麻痺なし群では8例中2例(25%)であり,黄色ブドウ球菌の割合は麻痺群で有意に高値であった(P=0.004)。椎間板炎,椎体炎の合併がないSEA単独発症例の3例は全例麻痺群で,黄色ブドウ球菌によるものであった。
    黄色ブドウ球菌によるSEAでは膿瘍による神経組織の直接の圧迫のほかに,細菌による神経組織の阻血性変化や組織障害が加わるため,SEHより麻痺の改善が悪いと考えられる,また,黄色ブドウ球菌によるSEAは他の細菌によるSEAより神経障害を生じやすいものと考えられる。さらに,SEA単独発生例の3例は全例が黄色ブドウ球菌によるもので,急速に発症して麻痺症状を呈し手術治療を要していた。麻痺が出現したら早期に手術療法を選択することが重要であるが,黄色ブドウ球菌の場合は麻痺が出現する確率が高い。このため硬膜外膿瘍の診断時は,筋力低下や歩行障害などの麻痺症状などの臨床症状を注意深く観察することが重要である。

  • 遠藤 拓, Muhammad Baghdadi, 石川 浩三, 江澤 永倫子, 梅山 悠伊, 和田 はるか, 鈴木 直, 清野 研一郎
    2017 年 45 巻 3 号 p. 173-183
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/04
    ジャーナル フリー

    放射線療法は手術療法,化学療法と並び,三大がん治療法に挙げられているが,一方で腫瘍再発の起点となる放射線耐性が課題として残されている。がん細胞の薬剤耐性獲得機序には,がん細胞側の内因性機序と腫瘍微小環境(TME)内の骨髄系細胞との外因性機序とが説明されている。近年発見されたInterleukin 34(IL-34)は,マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)と受容体を共有し同様の生理活性を示すが,腫瘍を含む様々な病態への独自の関与が報告されている。最近我々は,肺癌細胞の抗がん剤耐性化にIL-34が上記の内因性,外因性機序の両者に関与することを示した。本研究では,その先行研究を基に,放射線治療適応である前立腺癌および直腸癌細胞株を用いて,放射線の単回および反復照射下にIL-34およびM-CSFの発現変動を調べた。その結果,放射線単回照射では両者の発現誘導が認められたのに対し,反復照射ではIL-34のみが時間経過に伴い顕著な発現誘導を認めた。さらにその機序は抗がん剤刺激と同様にNF-kBを介した経路であることが阻害剤を用いて示された。このことから,長期の放射線ストレスにIL-34が誘導され放射線治療耐性へ関与する可能性が示唆される。今後はさらに放射線暴露によるIL-34のTMEへの作用を精査するとともに,放射線療法との併用としてIL-34標的治療の可能性について探索してゆく。

  • 品川 文乃, 皆川 貴美乃, 西川 裕之, 油井 直子, 大沼 繁子, 佐々木 千鶴子, 高木 正之, 山本 仁, 熊井 俊夫
    2017 年 45 巻 3 号 p. 185-198
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/04
    ジャーナル フリー

    キノロン系抗菌薬は,幼若動物において関節障害を引き起こすことが報告されており,小児に対する使用は制限されている。しかしその発症機序については未解明な部分が多い。本研究では,第二世代キノロン系抗菌薬であるシプロフロキサシンによる関節障害メカニズムの解明を目的とした。1200 mg/kgシプロフロキサシンを1日1回10日間経口投与することで関節障害を引き起こした幼若ラットの膝関節軟骨細胞では,小胞体の変性像が観察された。また軟骨細胞におけるショットガンプロテオミクス解析により,小胞体ストレス関連タンパク質である78 kD glucose-regulated protein (GRP78)が同定された。これらのことから,シプロフロキサシンによる関節障害と小胞体ストレスの関連性を検討するために,GRP78と小胞体ストレス誘導性アポトーシスに関わる転写因子のC/EBP homologous protein (CHOP)についてタンパク質発現解析を行った。その結果,シプロフロキサシン投与後の幼若ラットの関節軟骨において,対照群と比較してGRP78の発現に有意差はなく,CHOPの発現は2.2±0.32倍の増加が認められた(p<0.01)。これらの結果より,幼若ラット関節軟骨においてシプロフロキサシン投与により小胞体ストレス誘導性アポトーシスが惹起されることで,関節障害が引き起こされる可能性が示唆された。

  • 山下 佑介, 皆川 貴美乃, セドキーナ アンナ, 那和 雪乃, 松井 宏晃, 熊井 俊夫
    2017 年 45 巻 3 号 p. 199-206
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/04
    ジャーナル フリー

    統合失調症の病態発現において,酸化ストレスの関与が示されている。これまでに非定型抗精神薬は抗酸化作用を有することが報告されているが,様々な臨床症状を持つ統合失調症の病態発現機序および抗精神病薬の神経細胞に対する作用は未解明な部分が多い。本研究では,非定型抗精神病薬であるアリピプラゾールの神経細胞に対する作用を明らかにするために,ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用いて,液体クロマトグラフ質量分析法によるショットガンプロテオミクス解析を行った。その結果,アリピプラゾール添加SH-SY5Y細胞において抗酸化酵素のperoxiredoxin (Prx) 1と6が同定されたことから,アリピプラゾール添加による抗酸化酵素の発現変化を検討した。SH-SY5Y細胞においてアリピプラゾール添加によりPrx6とsuperoxide dismutase (SOD) 1の有意なタンパク質発現増加が認められた。一方で,Prx1とSOD2,カタラーゼ,グルタチオンペルオキシダーゼの発現には変化が見られなかった。
    これらのことから,アリピプラゾールは神経細胞においてPrx6とSOD1の発現増加を介した抗酸化作用を有することが示唆された。

  • 森 美佳, 秋田 美恵子, 梅沢 陽太郎, 足利 朋子, 山下 敦己, 長江 千愛, 山崎 哲, 高山 成伸, 金子 英恵, 那和 雪乃, ...
    2017 年 45 巻 3 号 p. 207-215
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/04
    ジャーナル フリー

    背景:ステロイドと血栓症の関連は未だ不明点が多い。我々は免疫性血小板減少症(ITP)におけるメチルプレドニゾロン(m-PSL)パルス療法前後での凝固因子の変化と,ヒト肝癌細胞株HepG2細胞を用いたm-PSLによる凝固因子遺伝子mRNA発現量の変化を検討し,m-PSLによる凝固亢進状態形成機序を考察した。
    方法:m-PSL(30 mg/kg/dose)を経静脈的に体内に3日間投与したITP症例(n=3)において,投与前と投与終了翌日にフィブリノゲン,プロトロンビン,凝固第V,VII,VIII,IX,X,XI,XII因子活性の変化を観察した。またm-PSL(100 μM)添加HepG2細胞における凝固因子遺伝子mRNAを定量RT-PCRにて測定した。
    結果:ITP症例ではm-PSLパルス療法後に第VIII因子活性の上昇(p=0.00064)を認めた。HepG2細胞では第XI因子遺伝子mRNAは有意に低下した(p=0.044)が,その他mRNA発現量の変化を認めた凝固因子遺伝子はなかった。
    考察:本研究結果はm-PSL投与後のFVIII: C増加が凝固亢進状態形成に関与する可能性を示唆する。しかしITP患者での凝固因子活性変化とHepG2細胞での凝固因子遺伝子mRNA発現量の変化は一致せず,m-PSLによる凝固亢進状態形成機序の解明には更なる検討を要する。

  • 阿部 恭子, 杉下 陽堂, 中嶋 真理子, 今西 博治, 西島 千絵, 五十嵐 豪, 鈴木 直
    2017 年 45 巻 3 号 p. 217-226
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/04
    ジャーナル フリー

    目的:若年がん患者に対する妊孕性温存療法の一つである,卵巣組織凍結・融解移植は20年の技術である。我々は現在新しい卵巣組織凍結デバイスとなる閉鎖型デバイスの開発に取り組んでおり,ホルモン値以外での卵巣の生理学的評価として,透過型電子顕微鏡を使用した卵巣組織評価に着目し本研究を実施した。
    方法:麻酔導入後のカニクイザルを開腹した後,両側の卵巣を切除し,閉鎖型卵巣組織凍結デバイスを用いて超急速冷凍法(vitrification法)によって3時間以上液体窒素中に凍結保存した。この組織を融解後,大網や卵管間膜へ移植した。移植後の月経周期回復を確認した後,採卵のため卵巣刺激を実施し,移植した卵巣組織(大網ならびに卵管間膜)から卵子を採取し,卵巣組織および獲得した卵子をそれぞれ電子顕微鏡にて評価をした。
    結果:透過型電子顕微鏡で卵巣融解後,大網移植後および卵管間膜移植後の卵巣組織を評価した結果,融解直後では卵巣組織の間質部分に間隙を認めた。また融解卵巣の移植後から時間が経過することで,その間隙が修復されるなどの卵巣組織の変化を確認することができた。透過型電子顕微鏡で細胞成分の確認ができなかった卵管間膜へ移植した卵巣組織からは卵子を獲得することができなかった。
    考察:透過型電子顕微鏡による卵巣組織凍結後の組織評価により,新たに開発した卵巣組織凍結閉鎖型デバイスの有効性が示唆された。

症例報告
  • 森 剛史, 慶野 大, 伴 さとみ, 都築 慶光, 勝田 友博, 曽根田 瞬, 山本 仁
    2017 年 45 巻 3 号 p. 227-232
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/04
    ジャーナル フリー

    急性副鼻腔炎の合併症には頭蓋内合併症 (硬膜下膿瘍,硬膜外膿瘍,髄膜炎,脳膿瘍,海綿静脈洞血栓症) と眼窩内合併症 (眼窩蜂窩織炎,眼窩骨膜下膿瘍) が知られている。今回,われわれは前頭洞炎から細菌性髄膜炎を発症した症例を経験したので報告する。症例は13歳の女子。発熱を伴う頭痛,複視を主訴に前医を受診し,血液検査で炎症反応の上昇を認めたため,当科に紹介となった。軽度の項部硬直を認め,頭部CT 検査と髄液検査から細菌性髄膜炎,硬膜下膿瘍と診断した。髄液のグラム染色でグラム陽性球菌を認めたため,セフトリアキソンとバンコマイシンを開始し,第3病日に髄液と血液培養から肺炎球菌が分離されたため,感受性をもとにアンピシリンに変更した。第21病日に頭部MRI 検査で円蓋部に半円形の硬膜下膿瘍を認め,同部位の圧迫による右上肢のしびれが出現したため,第23病日に穿頭膿瘍ドレナージ術を行った。抗菌薬は計6週間投与し,神経学的後遺症なく退院した。最終培養にて肺炎球菌の血清型は20型と報告された。急性副鼻腔炎の頭蓋内合併症は神経学的後遺症を残す恐れや致死的になる可能性があり,早期の診断と治療が必要である。

  • 井田 圭亮, 小林 慎二郎, 大坪 毅人, 星野 博之, 瀬上 航平, 片山 真史, 小泉 哲, 福永 哲, 平 泰彦
    2017 年 45 巻 3 号 p. 233-238
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/04
    ジャーナル フリー

    In recent years, narrowing of the root of the celiac artery has drawn attention as a cause of pancreaticoduodenal artery aneurysm. The median arcuate ligament (MAL) is formed by connecting the left crus of the diaphragm and the right crus anterior to the vertebral body, and vascular compression at this level can alter the hemodynamics of the celiac artery root resulting in aneurysms. We present the case of a 61-year-old man, who presented with abdominal pain. Abdominal aneurysms were found by CT, and transcatheter arterial embolization (TAE) was performed in the emergency department. The patient’s post-TAE course was uneventful and he was subsequently referred to our hospital for a surgical cure. We performed laparoscopic median arcuate ligamentectomy. Intraoperatively, strong binding connective tissue was found on the anterior surface of the celiac artery, which was dissected away. Antegrade hemodynamic flow was observed in the common hepatic artery on the CT image obtained on the seventh postoperative day. Anterior hemodynamic flow was also observed in the common hepatic artery, and the narrowing at the root of the celiac artery improved as well. In cases where selective TAE is successful, laparoscopic MAL resection may be an effective radical procedure.

  • 藏薗 侑人, 岩本 拓
    2017 年 45 巻 3 号 p. 239-244
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/12/04
    ジャーナル フリー

    セメント質形成性線維腫は比較的まれな良性腫瘍である。この疾患の発生率は,歯原性腫瘍全体の約2%であると推定されている。我々は全歯牙喪失後の55歳女性の下顎に発生したセメント形成性線維腫を報告する。右の下顎の歯肉腫脹を自覚し,2014年7月に紹介受診となった。精査CTでは,右下顎骨内部に腫瘤が存在したため,切除目的に全身麻酔下で腫瘍切除をおこなった。組織病理検査では,セメント質形成性線維腫の診断であり手術1年後において,再発の徴候は認めていない。

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