日本口腔科学会雑誌
Online ISSN : 2185-0461
Print ISSN : 0029-0297
ISSN-L : 0029-0297
70 巻, 2 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
第75回NPO法人日本口腔科学会学術集会
特別講演1(video)
  • —米国における歯科臨床教育および博士教育について—
    北郷 明成
    2021 年 70 巻 2 号 p. 85
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/29
    ジャーナル 認証あり
    近年,さまざまな業界においてグローバル化は大きなうねりとなり,歯科医療・教育の分野にもその波が押し寄せてきている。実際に,外国人留学生の歯学部への受け入れ,歯学部での英語での授業,技工物の海外発注,新たな治療知識と技術習得のための海外研修,患者の多様化など,もはやどんなに高いクオリティーを有していても国内への内向きな対応のみでは難しい時代になってきた。既に約10年前の2010年に日本学術会議歯科委員会は「歯学分野の展望」において「歯学研究・教育のグローバル化を推進するには(中略)卒前・卒後を通したシームレスな歯学教育のグローバル化を実現し,国際競争に打ち勝つことのできる人材を育成することが重要である」と提言している。国際競争の相手となる他国,特に米国における歯科医療教育はどのような背景とシステムで運用されているかを知る必要がある。
    また,近年,日本人の博士課程進学者が減少する傾向が見られる。博士課程修了後の進路に困難を抱える学生が多いのが原因と言われている。こと歯学部においては教育カリキュラム更新や研修医制度導入による歯学部生の臨床志向の上昇により,歯学研究特に基礎系歯学研究に携わる人材は減少の一途を辿り,長期的展望を考えると,日本の口腔科学の衰退を招くことになる。国際競争に打ち勝つことのできる口腔科学研究者を育てることは急務であり,そのための体系作りが必須である。
    米国で13年間基礎医学研究を行う傍ら米国における歯科医学,レジデント,および博士教育に関する調査をおこない垣間見てきた実態を,私自身の体験談も含めて紹介したい。今後の日本の歯科界および博士教育に何が必要か,次世代医学のために口腔科学がなすべき事のヒントにして頂きたい。
    ■略歴
    1999年 大阪歯科大学歯学部 卒業
    2003年 大阪歯科大学大学院歯学研究科 修了 口腔外科学専攻(歯学博士)
    2003年 大阪歯科大学口腔外科学第1講座講師(非常勤)
    2004年 京都大学再生医科学研究所生体材料学分COE研究員
    2006年 日本学術振興会特別研究員
    2007年 Weintraub Center for Reconstructive Biotechnology, UCLA School of Dentistry, Postdoctoral Scholar
    2010年 Division of Plastic and Reconstructive Surgery, Department of Surgery, David Geffen School of Medicine at UCLA, Postdoctoral Fellow
    2014年 Division of Plastic and Reconstructive Surgery, Department of Surgery, David Geffen School of Medicine at UCLA, Adjunct Assistant Professor
    2014年 Regenerative Bioengineering and Repair Laboratory, Department of Surgery, David Geffen School of Medicine at UCLA, Research Director
    2020年 Division of Plastic and Reconstructive Surgery, Department of Surgery, David Geffen School of Medicine at UCLA, Adjunct Associate Professor
特別講演1(video)
  • —留学先の選び方から準備,成功への道—
    岩田 淳一
    2021 年 70 巻 2 号 p. 86
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/29
    ジャーナル 認証あり
    今現在,研究留学を検討されている方,これから検討するかもしれないという方もおられると思うので,留学先の選び方や準備についてお話しさせていただきたいと思います。何事も準備が大事です。将来の希望に向かって,留学で何を学ぶのかを考える機会になれば幸いです。それぞれの人が,ユニークなキャリアの道を歩まれることになるので,何が正解ということはありませんが,挑戦する気持ちを持って,自分の可能性を開拓していってもらえればと思います。日本の研究を支える若手研究者が挑戦するのを応援しています。
    ■略歴
    九州大学歯学部を2000年に卒業後,同校の口腔外科に大学院生として入局。大学院2年目より歯科薬理学教室に出向し,本格的に研究活動を始める。大学院4年時に日本学術振興会特別研究員に採用される。2004年に博士号を取得後,順天堂大学医学部生化学教室の助教として,オートファジー研究の第一線で働く機会を得る。2007年より南カリフォルニア大学歯学部に研究留学し,顎顔面形成の仕組みの研究を始める。2013年にテキサス大学にて独立し,口腔疾患および先天性疾患の仕組みを幅広く研究対象にする。近年は,膜形成と代謝の関わりに注目した研究を精力的に行っている。2018年より現職。
特別講演2(video)
  • Jürgen Hoffmann
    2021 年 70 巻 2 号 p. 87
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/29
    ジャーナル 認証あり
    In the last decade we did experience a tremendous evolution of techniques in Oral and Maxillofacial Surgery first of all with respect to virtual surgical planning. This opens a new avenue for patient specific treatment using minimal invasive techniques.
    With this keynote first of all an overview is given, where OMFS historically comes from in Germany, how education, training and specialization is set up and which techniques nowadays are used for different indications (congenital & acquired deformities, craniofacial and orthognathic surgery, tumor and reconstructive surgery).
    ■略歴
    Prof. Hoffmann qualified as an OMFS surgeon in 1997 at the University Hospital Tübingen and finished his PhD-Thesis in 1999. Working as consultant since 2000 he became Vice Chairman of the Dept. of Oral and Maxillofacial Surgery at the University Hospital Tübingen (Germany) in 2003.
    Since 2010 Prof. Hoffmann is chairing the Dept. of OMFS at the University Hospital in Heidelberg, which is one of the major units in Germany, covering a broad scope of surgical techniques.
    Prof. Hoffmann is president of the German Association of Oral and Maxillofacial surgery (DGMKG)and member of the board of the German Association of Surgery (DGCH).
    His main focus is in the field of Traumatology and Reconstructive Surgery. He has special interests in image data based planning, treatment of Vascular Anomalies, CLP and bone regeneration.
特別講演3
  • 大津 欣也
    2021 年 70 巻 2 号 p. 88
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/29
    ジャーナル 認証あり
    私は医学部を卒業し内科研修の後アメリカやカナダ,フランスに留学しました。7年後,帰国し大学で臨床,教育,研究に携わってきましたが9年前より英国キングスカレッジロンドンの循環器科教授となっています。その経緯や海外生活や研究の楽しさをお話し,皆さんの人生設計に少しでもお役に立てればと思います。
    【講演推薦文】
    第75回大会長の阪井丘芳です。
    私が研究者・臨床家として憧れる大津欣也先生をご紹介させていただきます。
    大津先生は,地元大阪のご出身で,私の高校の大先輩にあたります。
    大阪大学医学部からアメリカやカナダ,フランスにご留学され,帰国後,大阪大学で臨床,教育,研究に携わってこられました。
    NatureやNature関連誌を含めた臨床系・基礎系の論文を数多く報告されています。
    その後,米国名門大学と英国キングスカレッジロンドンからお誘いがあり,9年前より英国キングスカレッジロンドンの循環器科教授に就任されています。
    楽しいこと,辛かったこと,数々のご経験をされてきましたが,若手研究者やシニア臨床家のために,研究や臨床の楽しさをお話ししていただきます。
    先日,国立循環器病研究センター理事長に就任されました。
    皆様,是非ご参加下さい。
    ■略歴
    昭和58年 大阪大学医学部卒業
    昭和58年 医員(研修医)(大阪大学医学部附属病院)
    昭和59年 米国国立保健衛生研究所国立老化研究所訪問研究員
    昭和62年 米国国立保健衛生研究所国立老化研究所上級訪問研究員
    昭和63年 トロント大学バンティングベスト医学研究部研究員
    平成3年 ニース大学生化学センター客員研究員
    平成4年 医員(大阪大学医学部附属病院)
    平成9年 大阪大学助手医学部 (第一内科)
    平成17年 国立大学法人大阪大学助教授大学院医学系研究科(循環器内科)
    平成24年 英国キングスカレッジロンドン循環器科教授
    平成24年 英国心臓財団教授(BHF Chair of Cardiology)(兼任)
    令和3年 国立循環器病研究センター理事長
特別講演4
  • 小崎 健次郎
    2021 年 70 巻 2 号 p. 89
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/29
    ジャーナル 認証あり
    三次医療機関には原因が不明で診断がつかない「未診断疾患患者」が多く通院している。歯科・口腔外科領域も例外ではないと思われる。未診断の場合,自然歴や予後が不明で治療方針の決定も困難である。未診断疾患イニシアチブ(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases;IRUD)は,網羅的な遺伝子解析を通じて,このような未診断疾患患者の分子遺伝学的な原因を究明する目的で2015年に開始された全国プロジェクトである。5年間で4,000名以上の患者が参画し,40%で診断が確定した。30以上の新規遺伝性疾患を見出すとともに,多くの希少既知疾患患者に診断をもたらし,難病医療の質の向上に貢献している。
    患者はまず全国約40か所の拠点病院に紹介される。臨床遺伝専門医を含む各科専門医で構成される診断委員会によって病歴や身体所見の評価がなされる。検体は全国5か所の解析センターに送付され,エクソーム・全ゲノム解析等が実施される。解析センター研究者と紹介元拠点病院の医師が連携して臨床症状と解析結果が合致するかを検討する。最終結果は拠点病院の主治医を通じて患者に伝えられる。診断が確定した場合,患者・家族に結果を説明すると,診断名がついたことにより,安堵されたと話されることが多い。
    診断が得られなかった場合,患者の症状と原因候補となる遺伝子のリストをIRUD-Exchangeと呼ばれるデータベースに登録し,国内外に同じ遺伝子に変異を有して表現型が類似する患者を検索する。新規疾患が発見されたと考えられる場合,基礎研究者と連携し,モデル動物や細胞を用いて,疾患候補遺伝子の変異の病的意義について生物学的に検証する。現時点で治療法が確立している遺伝性疾患は多くはないが,未診断疾患イニシアチブの成果によりさまざまな病態・発症機序が解明し,将来的に創薬につながっていくものと期待される。本講演では未診断疾患イニシアチブについて紹介をさせていたき,医科と歯科の境界を越えた共同研究が発展することを願うものである。
    ■略歴
    1989年 慶應義塾大学医学部卒業,小児科入局
    1993年 University of California, San Diego, Department of Pediatrics Clinical Fellow
    1997年 Baylor College of Medicine, Department of Pathology, Clinical Fellow
    1999年 慶應義塾大学医学部小児科 専任講師
    2003年 慶應義塾大学医学部小児科 助教授
    2011年 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター 教授
    専門分野:臨床遺伝学,小児科学
    日本小児科学会専門医
    日本・米国臨床遺伝専門医
    日本人類遺伝学会理事長(2019年〜)
    日本先天異常学会理事長(2019年〜)
特別講演5
  • 他力野 淳
    2021 年 70 巻 2 号 p. 90
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/29
    ジャーナル 認証あり
    ■歴史的資源を活用した観光まちづくり
    バリューマネジメントは「日本の文化を紡ぐ」を理念とし,文化財をはじめとした,日本全国の歴史的資源,古い町並みや城などを活用し残していくことを事業としています。
    民間や個人,企業や行政,または神社仏閣が保有している歴史的資源は,これまで税金を活用して保全されてきましたが,限られた税収,人口減少などの課題を抱え,保全することが困難になってきました。そのため,このまま放っておけば無くなる可能性がある価値の高い歴史的資源を,保全と活用を前提とした修復し,コンテンツに仕立て,新たな価値を作ることで,民間主導の保全事業を行なっています。
    例えば,分散型ホテルという新たなモデルをまちに展開。これは,まち全体をホテルに見立て,まちにある様々な価値ある歴史的建造物をホテルの一部として修復します。ある建物は客室,ある建物はフロントやレストランというように,必要な機能を追加していきます。建物をそのまま活用するため,まち並みは保存され,「訪れるまちの暮らしに溶け込んで過ごす」ことを実現するものです。この分散型ホテルに魅力を感じていただき,旅の目的地となることで人が集まり,まちの賑わいを取り戻していきます。訪れた人がまちのファンになり,必要性が生まれることで,まちの保存だけでなく,まちの活性化に繋がる「歴史的資源を活用した観光まちづくり」へと繋がっていきます。まちの持続可能性をつくり,文化が紡がれていくことを目指しています。
    ■EOの活動について
    Entrepreneurs’ Organization「起業家機構」は,1987年にアメリカで設立された年商100万ドルを超える会社の若手起業家の世界的ネットワークであり,現在62か国10地域219チャプター,約15,000名のメンバーにより構成されています。日本はノースアジア地域に所属しており,私はノースアジア地域,日本エリアディレクターを務めています。日本エリアでは,創業者且つ年商100億円以上の起業家や,創業者且つ上場起業家が多く所属しています。
    起業家とは経営者の中でも特殊であり,一般的に経営資源は大企業が圧倒的に有利の中,一から起業し自らがリスクを背負う中で,社会的意義を見出し,新たな市場を切り開いていきます。しかし,それは言葉では表せないほど大きなリスクとの戦いでもあります。そのため,EOでは起業家同士が守秘義務ルールのもと,互いの経験シェアを行い,互いを認め成長を支援するプラットフォームが築かれています。その精神は,EOが掲げる「目的・志・価値観」にも表れています。
    また,経営ではマネジメントが非常に重要ですが,社会で価値を出すためにはリーダーシップが必要とされます。EOメンバーには上下関係がないため,利害関係の無いEOメンバーの中で組織を作り,社会への影響力を発揮することは,正に社会におけるリーダーシップを経験する場となっています。
    ■略歴
    2005年バリューマネジメント株式会社設立,代表取締役に就任。文化財など伝統的建造物,行政の遊休施設の修復運用や,ホテルや旅館,結婚式場などの施設再生を行う。「施設再生から地域を活性化に繋げ,日本独自の文化を紡ぐ」がテーマ。グローバル起業家団体 EO OSAKA(Entrepreneurs Organization)元会長。地域づくり活動支援組織 地域資産活用協議会(Opera)副会長。婚礼業界活性化組織 次世代ブライダル協議会代表理事。内閣官房観光戦略実行推進室 歴史的資源を活用した観光まちづくりユニットメンバー。
宿題報告
  • 中村 誠司
    2021 年 70 巻 2 号 p. 91
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/29
    ジャーナル 認証あり
    生体の免疫反応の中心的役割を担うT細胞は様々な口腔疾患の病態に関わり,シェーグレン症候群や口腔扁平苔癬などにおいては発症ならびに病態形成を,口腔扁平上皮癌に対しては制御を担っている。私は,平成14年に同じ
    課題名で本学会宿題報告を行ったが,今回はその後の新たな治療法の確立を目指した展開を示す。
    今回の宿題報告の中心は,新たに研究対象に加えたIgG4関連疾患に関するものである。その理由は,私がシェーグレン症候群や口腔扁平苔癬と併せて病態解析を続ける中で,より特異な病態を示したからである。IgG4関連疾患は本邦で見出された新たな疾患概念であるが,私は厚生労働省科研やAMEDのオールジャパン体制の研究班に参画し,最新の解析手法を駆使して病態解析を進めた。その結果,Th2細胞,Treg細胞,CD4陽性CTL,IL4産生Tfh細胞といった特異なT細胞サブセットが病態形成に関わり,異所性胚中心の形成を伴ったIgG4陽性形質細胞の分化・増殖,さらにはIgG4産生を誘導することを見出した。さらに,T細胞の活性化にTLR7を発現するM2マクロファージが関わっていることを見出し,ヒトTLR7を異常発現するトランスジェニック・マウスを用いて疾患モデルを作製し,新たな治療戦略を検討できる段階に至った。一方,シェーグレン症候群や口腔扁平苔癬においても同様の手法で病態解析を進めたので,その研究成果についても述べる。
    一方,癌に対する新規治療薬として抗PD-1抗体製剤などが注目されているが,私は口腔扁平上皮癌に対する抗腫瘍T細胞の制御にPD-1を介した経路が関わっていること,さらにPD-1のリガンドであるPD-L1を腫瘍随伴性マクロファージが産生していることを見出した。腫瘍随伴性マクロファージの役割やPD-1/PD-L1経路の関わりがより明確になれば,抗PD-1抗体製剤の有効性をさらに高めることが期待できる。
    ■略歴
    昭和57年3月 九州大学歯学部卒業
    昭和57年4月 九州大学大学院博士課程歯学研究科歯学臨床系入学
    昭和61年3月 九州大学大学院博士課程歯学研究科歯学臨床系満期退学
    昭和61年12月 九州大学大学院博士課程歯学研究科歯学臨床系の歯学博士号取得
    昭和61年4月 九州大学歯学部口腔外科学第二講座助手に就任
    昭和61年8月 米国オクラホマ医学研究所免疫学部門に留学
    昭和63年10月 米国バージニア大学医学部内科学教室リウマチ学部門に留学
    平成1年10月 九州大学歯学部口腔外科学第二講座助手に復職
    平成6年6月 九州大学歯学部附属病院第2口腔外科講師に就任
    平成16年12月 九州大学大学院歯学研究院口腔顎顔面病態学講座顎顔面腫瘍制御学分野教授に就任
    平成24年4月 九州大学病院副病院長(統括・歯科担当)に就任
    平成31年4月 九州大学大学院歯学研究院長・歯学府長・歯学部長に就任(現在に至る)
指名報告
  • 奥井 達雄
    2021 年 70 巻 2 号 p. 92
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/29
    ジャーナル 認証あり
    乳癌,前立腺癌などのある種の悪性腫瘍は高頻度に骨に転移する。骨転移はそれ自体が,癌患者の生存に影響することは稀であるが,骨から内臓臓器への二次転移により癌患者の死亡率を高める。また骨転移は骨痛や病的骨折などを引き起こし,癌患者のQOLを低下させる。したがって癌骨転移,骨破壊の制御は癌患者の管理において重要な項目である。
    骨転移の詳細なメカニズムはいまだ不明であるが,癌は骨微小環境の構成細胞である破骨細胞,骨芽細胞,骨細胞と互助的に悪循環を成立させ,骨恒常性を破綻しながら骨転移を進行させることが示されている。骨転移が進行すると,その刺激により骨内の知覚神経が興奮し,癌性骨痛が誘発される。近年,知覚神経は血管新生と同様に癌の増大を制御することが明らかとなりつつある。骨には密に知覚神経が分布するが骨転移の増大,あるいは骨からの二次転移に対して知覚神経がどのような影響を及ぼすかについてはいまだ検討されていない。われわれは知覚神経興奮による骨痛誘発と癌細胞の増殖,転移との関連について検討した。
    本研究を進めるためにマウス乳癌細胞株4T1の脛骨内注入モデルを樹立した。4T1は骨内で溶骨性に増大し,骨内での知覚神経の増生および骨痛を誘発し,同時に骨から肺への転移を示した。増生した知覚神経では種々の増殖因子発現が増加しており,4T1の骨内での増大,肺転移を促進することが明らかになった。また報告者らは,知覚神経の興奮が増殖因子産生を促進することを明らかにし,神経興奮つまり骨痛が4T1の骨内での増大と肺転移を促進することを明らかにした。本講演においてはこれらの研究結果について報告し,知覚神経が骨転移および骨からの二次転移の治療をめざす場合の新規の治療標的となり得ることを提唱する。
    ■略歴
    2006年3月 岡山大学歯学部卒業
    2006年4月 岡山大学医学部・歯学部附属病院 医員(研修医)
    2011年3月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 修了(歯学博士)
    2011年4月 岡山大学病院 医員 口腔外科(病態系)
    2014年4月 米国インディアナ大学血液腫瘍内科 博士研究員
    2016年4月 岡山大学病院 助教 口腔外科(病態系)
    2020年12月 島根大学医学部歯科口腔外科 准教授 現在に至る
指名報告
  • —基礎研究から臨床応用まで—
    廣田 誠
    2021 年 70 巻 2 号 p. 93
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/29
    ジャーナル 認証あり
    チタン材料の骨結合能が紫外線照射によって回復することが明らかとなり「チタンの光機能化」と提唱された。演者はこれまで歯科インプラント表面を紫外線処理することでearly failure(早期脱落)のリスクを有意に減少させること,骨結合を有意に安定させることを報告してきた。またチタンメッシュを用いた基礎的研究では,骨–インプラント接触率が約6倍,骨結合強度が約3倍となる研究成果を報告した。これより,紫外線照射がチタンインプラント表面の骨形成を活性化すると考え,その効果検証のための臨床研究として,腫瘍,顎骨骨髄炎および顔面外傷術後の顎骨欠損症例に対する紫外線照射インプラントおよびチタンメッシュと腸骨海綿骨による埋入同時骨造成術を実施した。手術はすべて2回法で実施し,埋入4か月後の2次手術時に全例顎堤形成術を行い,遊離皮弁を有する症例では粘膜移植を実施した。共振周波数を利用したオステルISQによりインプラント安定度を埋入時・2次手術時に評価した。実施症例は13症例15部位で,インプラント埋入本数は52本であった。また骨欠損が著しい3例において垂直的骨延長術を術前に実施した。ISQ値は埋入時10未満が5本,10〜30が9本,31〜59が13本,60以上が25本であったが,2次手術時はすべて60以上であった。インプラントはすべて骨結合が得られたが,3本で有意な骨吸収が認められ,1本は抜去した。経過観察期間2年におけるsuccess lateは94%であった。Failureに関わる因子としては埋入前の遊離皮弁が挙げられたが,埋入時のISQ値との相関は認めなかった。チタン表面をUV処理したインプラント埋入同時骨造成術では,埋入時の固定が著しく不安定であっても一定期間間後には咬合負荷可能となる十分な骨結合を得ることが可能であり,顎欠損症例における顎骨・咬合再建に有効であると考えられた。
    ■略歴
    1998年3月 日本大学松戸歯学部卒業
    2002年3月 横浜市立大学大学医学研究科修了
    2002年4月 横浜市立大学医学部助手
    2004年9月 同講師
    2006年10月–2007年3月 Friedrich-Alexander Universität Erlangen-Nürnberg Department of Oral and Maxillofacial Surgery 留学
    2007年4月 横浜市立大学医学部准教授
    2012年4月–2013年9月 UCLA School of Dentistry Weintraub Center for Reconstructive Biotechnology 留学
    2019年4月 横浜市立大学附属市民総合医療センター歯科・口腔外科・矯正歯科 部長/准教授
学会賞受賞講演
  • 〜亜鉛補充療法を中心に〜
    坂田 健一郎, 山崎 裕, 佐藤 淳, 榊原 典幸, 浅香 卓哉, 北川 善政
    2021 年 70 巻 2 号 p. 94
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/29
    ジャーナル 認証あり
    【背景】現在,味覚障害の主因は亜鉛欠乏とされ,亜鉛製剤の有効性は原因の種類に関わらず,約70%と報告されている。しかし,当科での亜鉛補充療法の効果は耳鼻咽喉科から報告されてきた程には多くはないことを経験してきた。そこで今回,亜鉛補充療法の効果に関して検討を行った。対象は8週間以上にわたり亜鉛製剤(ポラプレジン150mg,分2)を単独投与した40例。【方法】原因別,効果発現までの期間,血清亜鉛値などの各項目別における味覚障害の改善率を比較検討した。改善は治療前後で味覚異常のVASが50%以上減少した場合とした。血清亜鉛値の評価は,各cut off値(60,70,80μg/dl)を用いた。【結果】全体の改善率は50%(20/40)であった。血清亜鉛値別の改善率は,①60μg/dl未満(n=14)で57%,②60〜69μg/dl(n=9)で56%,③70〜79μg/dl(n=10)で60%,④80μg/dl以上(n=7)で14%であった。80μg/dl未満(57%)と80μg/dl以上(14%)の改善率を比較すると,両群間に有意差(p<0.05)を認めた。また,改善までの日数は2か月未満(n=4)が20%,2か月以上(n=16)が80%あり,両群間に有意差を認めた(p<0.05)。原因別では亜鉛欠乏性(n=16)が63%,特発性(n=13)が46%であった。【結語】血液検査で血清亜鉛値が80μg/dl未満では約60%のポラブレジンクの効果を認めたが,血清亜鉛値が80μg/dl以上の場合の有効性は認めなかった。従って,症例を選択して亜鉛補充療法を長期にわたり行うべきである。【今後の展望】現在,準備中の基礎研究とリンクした取り組みなど,継続的に歯科医師として味覚障害に深く関われる研究および診断・治療のポイントを高齢化などの社会的背景を絡めて紹介し,議論を深めたい。
    ■略歴
    2008年 昭和大学歯学部卒業
    2011年 大分大学医学部歯科口腔外科学講座前期・後期研修医終了
    2015年 北海道大学歯学部口腔診断内科(旧第一口腔外科)口腔病態学博士課程修了
    2015年 社会医療法人母恋室蘭日鋼病院歯科口腔外科 所属(2018年3月まで)
    2015年 北海道大学遺伝子病制御研究所ビジティングフェロー(2015年4月〜2016年3月)
    2018年 北海道大学歯学部口腔診断内科学講座医員(2018年4月〜2019年4月)
    2019年 北海道大学病院口腔内科助教
    歯科心身学会認定医,口腔科学会認定医,口腔外科学会認定医/専門医,口腔機能水学会認定医
学会賞受賞講演
  • —術後合併症に対する影響とリスク評価—
    葭葉 清香, 伏居 玲香, 糸瀬 昌克, 八十 篤聡, 代田 達夫
    2021 年 70 巻 2 号 p. 95
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/29
    ジャーナル 認証あり
    周術期における口腔環境に由来する全身合併症や,治療による口腔合併症の機序が明らかになってきた一方で,口腔環境を改善することで,周術期の合併症を予防できることが明らかになってきた。昭和大学横浜市北部病院では,周術期医療を安全なものとし,質の高い医療を提供することを目的として2014年9月に周術期管理チームの立ち上げが行われた。当科はその中核メンバーとして周術期における口腔管理に携わっている。今回,当院における周術期口腔機能管理ならびにその有用性について報告する。
    2014年9月から2018年3月までに周術期口腔機能管理のため歯科受診をした総患者数は4,297人であった。周術期口腔機能管理の有用性を検討するために手術部位感染,肺炎,血流感染の発症数について解析した。周術期口腔機能管理を行った歯科介入群において,歯科介入を行わなかった患者と比較した際に医療関連感染の総数に差は認められなかったが,医療関連感染のうち肺炎の発症が有意に減少していた。術後合併症と関連する高リスク患者の臨床的指標について検索を行ったところ,医療感染発症群において,術前のアルブミン値が有意に低い患者,長時間手術を行った患者が含まれる傾向にあった。また,血液透析患者,ステロイド使用患者の占める割合が高くなっていた。
    周術期口腔機能管理を導入することによって,手術時の安全性向上や術後合併症に対する予防効果を得られる可能性があることから,周術期医療における病院歯科が果たす役割は大きく,歯科医師は口腔衛生に関する専門的な知識を生かして周術期医療に積極的に貢献すべきであると思われる。
    ■略歴
    2005年3月 昭和大学歯学部卒業
    2009年3月 昭和大学大学院歯学研究科終了 博士(歯学)
    2009年4月 昭和大学歯学部口腔外科学講座 顎顔面口腔外科学部門 院外助教
    2010年4月 昭和大学歯学部口腔外科学講座 顎顔面口腔外科学部門 助教
    2010年10月 昭和大学歯学部口腔外科学講座 顎顔面口腔外科学部門 講師
    資格:
    公益社団法人日本口腔外科学会 指導医
    公益社団法人日本口腔外科学会 専門医
    日本がん治療認定医機構がん治療認定医(歯科口腔外科)
    国際口腔顎顔面外科専門医(FIBCSOMS)
シンポジウム
特別報告
第14回教育研修会
イブニングセミナー
学術セミナー
ポスター
feedback
Top