個々の林分ごとに林野火災発生危険度の時間変化を評価することが可能になれば,林野火災を予防するために,森林公園などの公共性の高い森林域における人間活動の利用制限を判断するのに役立つ。さらに火災を予防するための森林管理にも有用な情報を提供することになる。そこで個々の林分における林床可燃物含水比を予測するモデルを開発するために,林床面日射量などに基づいて落葉層からの蒸発量を計算する数式を実験的に求めた。モデルの検証を 2 つの事例について行った。ひとつはモデルパラメータが同じでありながら,気象環境が大きく異なる事例。もうひとつは隣接した観測プロットながら,モデルパラメータが異なる事例である。 前者では,落葉樹林と常緑・落葉樹混交林において観測を行い,落葉層含水比の予測計算の結果を比較した。含水比が20%以下となった日の多寡は,周辺域において実際に発生した林野火災件数の多寡と一致した。含水比が20%以下となった時期は,常緑・落葉樹混交林よりも落葉樹林のほうが多かった。落葉期には落葉樹林における開空度が高く,林床面に到達する日射量が多く,林床面からの蒸発量が多いためと考えられる。 後者では,京都府木津川市にある落葉樹林に設置した,常緑樹の多いプロットと少ないプロットにおいて観測を行い,落葉層含水比の予測計算の結果を比較した。それぞれのプロットにおける林床可燃物含水比と日射量,降水量の観測値に基づいてパラメータの同定を行ったところ,2 つのプロットに対するパラメータは大きく異なった。しかし異なったパラメータセットを用いて同じプロットの含水比を予測した結果に大きな違いはなかった。 この 2 つの事例の結果,モデルパラメータよりも光環境のほうが,可燃物の乾燥により大きな影響を及ぼすものと考察された。 本モデルの公共性の高い森林域への適用例として,岡山市竜ノ口山グリーンシャワー公園の一部(約40ha)を樹種・樹高・斜面方位によって 9 つの林分にわけ,それぞれの林床可燃物含水比をモデルにより算定した。落葉層の乾燥速度は林分によって異なった。落葉期の 3 月 2 日において 9 林分のうち 7 林分で,含水比が20%以下となり「林野火災発生の危険有り」と判定された。このことは落葉層の乾燥速度や林野火災発生危険度は個々の林分によって異なることを示唆している。したがって個々の林分ごとに林野火災発生危険度を評価するシステムを構築し,公共性の高い森林域における人間活動を管理することを目的とした本モデルは,林野火災を予防するための有効な手段であるといえる。