我が国の水管理技術は時代とともに変遷してきた。こうした水管理技術について,これまで江戸時代から平成時代に至るまでの経過や動向を,5 回(水利科学No.358,359,361,370,371)にわたって時系列的に考察してきた。その結果,当時すぐれた様々な水管理技術があり,現代でも有効な考え方や技術があったことが分かった。これらを受けて,今後社会・経済情勢や技術の変化に対して,水管理技術はどうあるべきかについて述べていきたい。特に,本報では近年各地で台風などによる激甚な水害被害が頻発していることに鑑み,水害被害の特徴,治水技術(施設対応,ソフト対策)の方向性について考察してゆく。
日本では,経済成長の弊害として,都市部への人口や産業の集中,産業構造の変化に加え,地球温暖化に伴う気候変動等の様々な要因が水循環に変化を生じさせ,それに伴い,洪水,渇水,水質汚濁,生態系への影響など,水循環にかかる様々な問題が顕在化しており,こうした課題の解決を目指す水循環の健全化に向けた活動が,全国各地で展開されている。 本稿では,総合治水対策に端を発し,その後,水に関する様々な流域課題の解決を図るため,全国に先駆け,「総合水マネジメント」の手法を取り入れ,流域単位で実践,持続的な活動を続けている「鶴見川流域」における取り組み事例を検証することをはじめ,「水循環基本法」成立に至る全国の水政策の歴史的な流れや,全国の「流域水循環計画等」を分析することで,持続可能な活動に不可欠な視点や機能を明らかにする。さらに,これらから得られた知見を踏まえ,条例の制定をはじめ,徳島県において実践した取り組みを通じて,「健全な水循環」を持続的に実現するために必要な事項について明らかにする。
秋田県の割山海岸林と海岸林に接する砂草帯の飛砂抑止機能を現地調査結果から評価した。海岸林の林内風速は林外に比較して2割~4割に抑えられ,観測期間中は飛砂が発生するとされる地上高1m で5.5m/s以上の風速は認められなかった。林床面は落葉落枝に覆われ湿った状態であり,海岸林内から飛砂の発生は生じない状況と考えられた。汀線側の砂草帯から内陸側の海岸林内へ侵入する飛砂は,林帯前縁から内陸方向20mまでにほとんどが捕捉され,それ以遠の林内に到達した飛砂量は微量で問題ない程度と考えられた。一方,砂草帯に捕捉された飛砂量は,汀線側の砂草帯前縁を基準にして内陸側の後縁では幅11mの間に75%以上減少した。砂草帯と海岸林が連続して存在することで砂浜からの飛砂を効果的に捕捉でき,内陸への飛砂移動を抑止していた。この状況は海岸林の植栽時から調査時点まで約15年間は継続していたと考えられ,砂草や海岸林の生育状況も飛砂による荒廃や劣化は認められなかったことから,飛砂抑止機能は今後も継続するものと推測する。
東日本大震災により壊滅的被害を被った約100haの宮城県名取市海岸林の再生に協力するため,(公財)オイスカと名取市海岸林再生の会は,平成24年(2012)からクロマツ苗木の育成を始め,平成26(2014)年4月から海岸林再生植林を開始,植林は平成30年(2018)で完了。現在は下刈,除伐・つる切等の保育事業及び排水路の改修・作設を主体に実行している。 これまでの苗木作りから植林,保育までの海岸林再生活動に当たっての考え方,具体の実行方法について記述するとともに,平成26(2014)年度植栽箇所の盛土土質,酸性値,苗木の種類別等の生育状況について,これまでの調査結果を用い比較検討を試みた。 土壌の酸性度が強いところや透水性の低い土壌については生育が遅れている場所もあるが,全体的には良好な生育をしており,早い時期に本数調整伐が必要になってくると考えている。 今後も本数調整伐等保育活動を継続できるよう,後継者育成と技術の向上に努める考えである。
平成30(2018)年4月11日に大分県中津市耶馬溪町金吉梶ヶ原地区において,先行降雨がない中で突然大規模な地すべり災害が発生した。地すべりの再滑動防止と安全な本復旧工事着手のためにも,早急な応急工事完了が求められていた。 大規模な応急工事を実施し,検証した結果,応急対応の現場マニュアル,大規模災害応急対策時の事前準備リスト,緊急時に使用できる土場マップ,他部局との情報共有のフォーマット等,大規模災害に対する体制の整備が必要であることが浮き彫りになった。
2013年6月にインド北西部・ウッタラカンド州で発生した豪雨は,州内4,200村落で死者・行方不明者が6,000人以上の被害をもたらした。これら被害の多くは州北部に集中し,土砂崩壊と地すべりの多くが州政府森林局管理下にある森林域で洪水と同時に発生したものである。 国際協力機構(JICA)による技術協力プロジェクト「ウッタラカンド州山地災害対策プロジェクト」は,このような状況にあった州森林局による斜面災害防止対策能力を向上させるとともに,州森林局のみならず,関連他部局,さらにはヒマラヤ地域他州(ヒマチャル・プラデシュ州,西ベンガル州,シッキム州)における山地災害対策に係る技術・知識の普及を併せて図ることをも期待されて2017年3月に発足した。 本稿では,同プロジェクトの概要及び現時点での課題について紹介する。