風速変動と,風荷重を受けたときの樹木の動揺とを動的に解析する新しい風害リスクモデルを開発した。さらに,2018年台風21号に伴って発生した風害を対象に,開発したモデルの検証を行った。その結果,被害発生の有無に関する一致率はおよそ6割であった。 本モデルは,風荷重が作用して発生する樹木の揺れ振幅を推定することにより,風害リスクを推定するものであった。樹木の揺れは風速の時間変動に大きく影響され,かつ固有振動数などの樹木自身の振動特性にも影響されていた。 また,風速は地形の影響を受けて斜面の向きや傾斜などに強く影響されると考えられた。従来の力学モデルでは,そうした風速変動は考慮されておらず,地形的な影響も十分に考慮されていない。そのため,本モデルは我が国のような複雑地形において本領を発揮できるものであると考えられた。
従来なら積雪期間であった時期の林床が,気候変動によって雪に覆われなくなった場合に,林野火災発生危険日と判定される日数がどのくらい増加するのかを予測した。予測は,林床可燃物の含水状態を予測するモデルと,皆伐地,無間伐林,間伐林,再間伐林,ヒノキ若齢林,落葉広葉樹林,アカマツ林における林床面日射量観測値,最寄りのアメダスにおける降水量観測値を用いて行った。 その結果,積雪地域にある落葉樹林や胸高断面積合計が約20m2 ha-1 以下の人工林と,東北地方の太平洋側や北関東といった脊梁山脈の南東側などの,積雪地域でありながら1月~3月の降水量が少ない地域では,今後の気候変動により積雪期間が短くなった場合に林野火災発生危険日数が増加すると思われた。
強風による森林風害のリスク評価のために,格子点気象データを用いて,全国の強風発生地域や発生頻度を調べた。また,これらをもとに風害リスクの指標としての風害リスク指数を提案した。この指数と実際の風害被害面積とを比較した結果,風害リスク指数が大きくなると風害被害面積が増大する傾向が得られた。これより,この風害リスク指数の全国マップによって森林風害の被害発生リスクを広域的に評価できる可能性があると考えられる。
大規模に発生した山地や森林被害を的確に把握することは,被害地特定や復旧策の検討,被害の回避や軽減方法の検討,森林保険における被害査定などに必要である。 リモートセンシング技術を用いた森林被害の把握について,平成30(2018)年台風21号によって生じた近畿地方の大規模な風倒被害を事例に紹介した。多時期のSentinel-2画像を用い,広域の森林被害地を被害の程度を三段階で区分して推定した。森林被害地について,さらにUAV から撮影した画像と SfM 処理で得られる三次元情報を用いて精細に把握した。被害の状況に応じて様々なリモートセンシング技術を組み合わせて用いることで適切かつ効率的に森林被害を把握することができる。
森林管理者数の減少,高齢化により,森林気象害に関する知見の継承が困難になっていくと考えられることから,私達は被害状況から気象害被害種別を判定する手法を開発し,タブレットへ移植した。タブレットへの移植を契機に,タブレットに森林保険に関する契約情報を格納するとともに,GNSS(Global Navigation Satellite System)やカメラを利用することにより,システムは森林保険センターの業務を支援する端末へと発展しつつある。タブレットシステム開発の背景と経過を紹介しながら,森林保険の業務を支援する端末としての展開,および気象害リスクの情報を提供することによる森林管理への貢献が可能であると考えられた。
山地森林域での積雪・融雪過程において,融雪速度や融雪出水量の多寡に及ぼす影響因子には,「森林樹木の被覆」と「標高」が考えられる。 まちかまぶち 「森林樹木の被覆」による効果を,山形県真室川町にある釜淵森林理水試験地の1号沢と2号沢からの流出特性を比較することによって評価した。森林樹木に被覆されていない流域からの融雪出水時期に比べて森林樹木に被覆されている流域からの融雪出水時期は,開始日が遅くなることは認められたが,融雪期の終了日が遅くなることは明瞭には認められない年も多かった。森林樹木に被覆されていない流域からの融雪出水量が,森林樹木に被覆されている流域か らの融雪出水量よりも少ない年は無かった。しかし流域の周囲における樹木の取り扱いによっては,その相対的な多寡関係が異なることがあるかもしれないと考えられた。「標高」による効果を,群馬県みなかみ町にある宝川森林理水試験地の本流,初沢,2 号沢,3号沢からの流出特性を比較することによって評価した。4流域それぞれの最低標高は805~924m とその差は比較的小さいのに対し,最高標高は1,102~1,945m と大きな差がある。このような流域間では,融雪出水期の終了日は最大で81日,融雪出水量では最大で2倍以上もの違いが認められた。
岩手県は,国土交通省が発表する都道府県別土砂災害発生状況で見ると,平成21年(2009)から平成30年(2018)の10年間における平均順位は,47都道府県中21位である。しかし,歴史資料に残されるような大規模な山崩れ(土砂量が100万m3以上程度の崩壊)の事例は少ない。 本稿は,歴史資料(古文書,岩手県史,市町村誌等)調査,地元古老へのヒアリング調査,空中写真判読調査,現地調査を基に,主に江戸時代以降に岩手県で発生した大規模な土砂災害の事例を調査した結果を整理したものである。
北海道森林管理局網走西部森林管理署西紋別支署では,防災林造成事業により,海岸浸食を防ぎ防風林を保護するための防潮護岸工を施工している。平成11(1999)年度から事業を開始し,平成19(2007)年度にほぼ全線の護岸工が完成したが,その後,度重なる波浪により護岸施設が被災したため,被災防止のための検討会を立ち上げ,水理模型実験により護岸施設の被災メカニズムと補強対策を検討し,現在まで補強対策工を施工している。また,近年は防風林自体が疎林化や過密化しているため,本来の防風保安林としての機能を発揮すべく,森林整備計画について検討した。