水利科学
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65 巻, 6 号
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  • ──台風21号が地上に残した根鉢の解体──
    谷川 東子, 池野 英利, 藤堂 千景, 山瀬 敬太郎, 大橋 瑞江, 岡本 透, 溝口 岳男, 中尾 勝洋, 金子 真司, 鳥居 厚志, ...
    2022 年 65 巻 6 号 p. 1-14
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー
    根鉢は,根返りに抵抗する根系の強度(root anchorage)に重要な役割を果たしているが,その質量の実測値は世界でも稀少である。また,樹木地上部との相対成長指標を用いて根鉢の質量を推定することが多いが,その妥当性を確認した研究はほとんどない。本稿は,樹木の根が自身のバイオマスよりも劇的に重い土壌を保持していることを初めて定量的に示した研究であるʠA quantitative evaluation of soil mass held by tree rootsʡ(Tanikawa et al. , 2021)を解説する。  本研究では,2018年の台風21号が残したスギ倒木の根鉢7 枚を根と土壌に分け,その質量を直接測定した。根鉢の乾重は251~3, 070kg であり,そのうち8 %を根が,92%を土壌が占めていた。根鉢に保持された土壌の質量は,地下部も考慮した樹木個体バイオマスの2. 8倍に相当した。地下部/地上部のバイオマス比は0. 26であったのに対し,地下部に根鉢土壌を加算した地下部重量は地上部重量に比べはるかに大きく,3. 9倍に相当した。根系には,その質量の13倍に相当する土壌が保持されていた。このように高い土壌の質量は,樹木地上部の重みを支え,根返りを防ぐために機能していると推察された。胸高直径(DBH)などの地上部の相対成長指標は,根鉢質量をよく表わしていること,樹木の成長に伴う根系発達により,根は効率よく土壌を保持できるようになることも示された。
  • 佐藤 貴紀, 田中 延亮, ナイナール アナン, 蔵治 光一郎, 五名 美江, 鈴木 春彦
    2022 年 65 巻 6 号 p. 15-35
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー
    本研究は愛知県豊田市にある間伐遅れのヒノキ人工林を対象として,土壌侵食と表面流を同時に観測できる小型トラップ(受け口幅が0. 25m)を用いて,斜面スケールの土壌侵食と表面流の空間分布を把握し,最適なトラップ数についての検討を行った。小型トラップによって捕捉された土砂量と表面流量は15個のトラップごとに大きなばらつきがあり,そのばらつき方は土壌が乾燥している冬から春にかけて大きかった。ランダムサンプリング解析によって最適なトラップ数を検討した結果,トラップ数は少なくとも5 個あれば十分であり,それ以上増やしても空間的ばらつきの影響を小さくする効果が小さくなってゆくことが明らかとなった。これは,本研究で設定した観測プロットの総斜面幅である15m に対しておよそ8 %の斜面幅に相当する。
  • 宮﨑 徳生, 坂口 隆紀
    2022 年 65 巻 6 号 p. 36-57
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー
    紀伊半島南部に位置する和歌山県那智勝浦町の那智山周辺は,2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産(文化遺産)に登録された熊野那智大社や那智の滝などの観光資源を有し,古来より多くの人々の信仰を集めている。また,那智の滝上流域は,那智原始林を始めスギ,ヒノキを中心とした人工林が広がり貴重な自然環境が保護されているとともに熊野那智大社の神域として信仰され,人の立ち入りが制限されている。このように人の立ち入りが困難な場所において,豊かな自然が育む水資源の確保を目的とした効果的な方策を検討するためには,森林の状況を把握することが重要である。そのため,広域の森林状況を効率的かつ定期的に観測が行える人工衛星データの活用を検討した。  今回,流域スケールという広域なエリアでも観測可能な衛星画像を用いたリモートセンシングにより森林活性度や森林の水分状態を把握する手法を研究した。本稿では,那智の滝上流域における森林活性度と蒸発散量を算出しその関係を検討したので紹介する。
  • 東畑 郁生
    2022 年 65 巻 6 号 p. 58-77
    発行日: 2022/02/02
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー
    近年,気候変動にともなって集中豪雨の頻度が高まっているが,これは洪水災害の危険の高まりを意味する,そのような議論がしばしば行われている。しかし議論をよく見ると,集中豪雨の生起確率の部分には,観測データの裏付けがあるが,増加した集中豪雨が洪水の発生増大に直結しているのかどうかは,データの裏付けがない。防災への努力が考慮されていないことは,論理の欠陥にも見える。また1950年代,60年代にも激甚な洪水災害が多く発生していたにもかかわらず,その記憶が消え,近年の災害の印象に基づいて感覚的に危機が主張されているようにも感じられる。実際にはどうなのか,戦後の多くの災害の規模を被災家屋数や浸水面積によって定量表現し,分析を試みた。その結果,災害の危険は21世紀の初頭まで一貫して減少していたこと,2010年代に入って危険は極小期に入ったことがわかった。そして2015年以降,危険が増大し始めたとも思えるデータが現れ始めたが,結論を下すには時期尚早である。
  • 野田 龍
    2022 年 65 巻 6 号 p. 78-90
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー
    秋田県で開発されたオールウッド型木製治山ダムを対象に,土圧や水圧等の外力が構造体へどのように作用するかを把握するため,2002年度に建設したオールウッド型木製治山ダムを皮切りにモニタリングデータが収集されている。収集項目は雨量,温度,湿度,土圧,間隙水圧,堤体内・外水位である。これらモニタリングデータを解析したところ,降雨によって堤体に作用する土圧には,すべての土圧値が低くなる場合と,下流基礎部の値は低くなり上流基礎部の値は高くなる場合の2 パターンの現象が確認された。前者は比較的弱い雨が長時間に亘って降り続くような場合に,後者は比較的短時間に大量の降雨が発生したときに起こる現象と考えられた。また,積雪期の土圧は春~秋期の土圧よりも大きく,堤体に作用する外力は降雨よりも積雪の方が大きいことが示唆された。そこで,従来想定していなかった雪荷重を考慮して構造安定性を検討 したところ,構造体としての安定性を十分に満たしていることが分かった。
  • 渡部 一二
    2022 年 65 巻 6 号 p. 91-128
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー
    国内の城下町や農村集落の伝統的な水路は石,木,土といった素材の特性を活かして護岸をつくり,自然流下方式によって水田へ通水させるととともに,集落の生活用,防火用,親水用,環境保全など,要約していえば,「多面的に利用する空間構造」が成立している。 貴重な水の多面的な空間で反復利用は,国民が考え出した集住地の景観美となって表れたものである。  しかし,高度経済成長時代に入ると,これらの水利空間にもさまざまな影響が及んだ。 これまで存在してきた伝統的水利空間の価値が充分には評価されないうちに,多面的機能をもっていた水利空間は各地で壊れていった。  筆者は,この状況を放置できないと考え,現在でも「伝統的な水利空間」の調査活動を全国規模で続けている。1980年になり,農村環境整備センターから「水利遺構」調査委員の依頼があった。この委員会では,全国的な規模のアンケート/調査がなされ,500件を超える情報を収集ができた。その後,「水利遺構の調査報告書」(1988年)となってまとめられた。  本文では,この報告書に掲載された各地の農業水利空間の事例のうち,筆者が関心あるものから現地調査を行い,本文に加えさせていただいた。この間,玉川上水の水利調査に取りくんでいた。2016年に「玉川上水・分水路網の活用プロジェクト」が日本ユネスコ協会の「未来遺産」に登録され,「登録証」が「玉川上水ネット」(玉川上水の水利遺構や保全活動を進めている市民運動グループ)に渡された。  筆者は,この「玉川上水ネット」がうけた活動をはじめ,国内の伝統的な城下町を取りまく通水網,水圏・山地が一体となった「水利空間」が残存し,各地にいまも点在している地域など「日本遺産」として登録される価値があると考えている。  本文では,この国内の伝統的な水利空間(多面的利用を含む)を守り,継承・活用している様子を探り出し,紹介させていただいた。
  • 中田 康隆, 速水 将人, 柳井 清治, 鳥田 宏行
    2022 年 65 巻 6 号 p. 129-145
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー
    本研究は,測量精度が高いRTK(Real-Time Kinematic)-UAV(Unmanned Aerial Vehicle)を用いて,胆振東部地震により発生した崩壊地斜面の表面侵食を面的かつ非破壊でその侵食実態を明らかにすることを目的とした。また,気温や風速といった気象データ,表面侵食の影響を受ける表層土の厚さを測定し,その侵食要因を検討した。その結果,厚あつ真ま 町ちょうの北部地区では,南部地区よりも崩壊地斜面の表層土が厚く,地震後半年から1 年の表面侵食量は2. 3倍であることが分かった。また,表面侵食は雨裂や崩壊地辺縁で多く発生していることも定量的に示された。さらに,本地域における表面侵食は,晩秋から早春の凍結融解作用や,これによりほぐされた土壌に雨・風が作用することで,促進されている可能性が示唆された。本研究により,崩壊地斜面の表面侵食の地域間差が観測されただけでなく,高い頻度で地表面が変化する地形の観測において,RTK-UAV を用いた手法が有効であることが示された。
  • 橋本 直子
    2022 年 65 巻 6 号 p. 146-151
    発行日: 2022/02/01
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー
     関東平野において利根川に次ぐ河川である荒川は,埼玉県域の3 分の2 を占める流域面積を持つ「母なる川」である。著者は大学院修士論文のフィールドが荒川であり,以降「地域社会と河川の関わり」をテーマに,多くの著書・論考を出してきた。
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