根鉢は,根返りに抵抗する根系の強度(root anchorage)に重要な役割を果たしているが,その質量の実測値は世界でも稀少である。また,樹木地上部との相対成長指標を用いて根鉢の質量を推定することが多いが,その妥当性を確認した研究はほとんどない。本稿は,樹木の根が自身のバイオマスよりも劇的に重い土壌を保持していることを初めて定量的に示した研究であるʠA quantitative evaluation of soil mass held by tree rootsʡ(Tanikawa et al. , 2021)を解説する。
本研究では,2018年の台風21号が残したスギ倒木の根鉢7 枚を根と土壌に分け,その質量を直接測定した。根鉢の乾重は251~3, 070kg であり,そのうち8 %を根が,92%を土壌が占めていた。根鉢に保持された土壌の質量は,地下部も考慮した樹木個体バイオマスの2. 8倍に相当した。地下部/地上部のバイオマス比は0. 26であったのに対し,地下部に根鉢土壌を加算した地下部重量は地上部重量に比べはるかに大きく,3. 9倍に相当した。根系には,その質量の13倍に相当する土壌が保持されていた。このように高い土壌の質量は,樹木地上部の重みを支え,根返りを防ぐために機能していると推察された。胸高直径(DBH)などの地上部の相対成長指標は,根鉢質量をよく表わしていること,樹木の成長に伴う根系発達により,根は効率よく土壌を保持できるようになることも示された。
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