水利科学
Online ISSN : 2432-4671
Print ISSN : 0039-4858
ISSN-L : 0039-4858
66 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
一般論文
  • 野田 浩二
    2022 年66 巻3 号 p. 1-23
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2025/06/09
    ジャーナル フリー
    環境再生や農業政策,水政策の観点から,オーストラリア南東部のマレー・ダーリング流域における水制度改革は世界中から注目されている。その改革の中心は地表水だが,地表水と地下水の流れは密接に関連しており,地表水の利用制限は代替資源としての地下水利用を促す可能性が強いので,本稿は地下水に関する制度改革の実態について取り上げる。地表水と同様に,地下水水利権制度の近代化が図られてきた。過剰取水地域での地下水利用制限が課せられる一方で,水市場を通じた権利取引が認められ,地下水利用の効率性の向上が目指されている。一時的な取引だけでなく半永久的な地域間取引が認められている。ただ,目に見えない地下水の場合,その権利取引の条件は地表水のそれよりも厳しい。そこで公的データを用いて,マレー・ダーリング流域における地下水の権利取引の条件やその実態を明らかにする。
  • 末次 忠司
    2022 年66 巻3 号 p. 24-43
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2025/06/09
    ジャーナル フリー
    水害に計画的に対応するのは時間的な制約が少なく,水害の実態や予測状況を十分把握していれば,それほど問題なくできる。しかし,水害が発生した時に緊急的に対応するのは,状況が時々刻々変化し,制約(人的,物的,時間的)が多く,対応に困難を伴う場合がある。こうした緊急対応は特に経験が少なかったり,行動を起こす勇気が足りない(躊躇する)場合には,机上の想定だけでは対応が十分できない場合がある。そこで,本報では実際の水害(土砂災害を含む)時に国や自治体などにより行われた緊急対応の成功事例(25事例)を整理・分析することにより,今後の水害時の緊急対応に役立てることが重要であると考え,緊急対応が成功したポイントをとりまとめた。加えて,危機回避のために行われた個人の緊急対応事例についても列挙した。
  • 末次 忠司
    2022 年66 巻3 号 p. 44-64
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2025/06/09
    ジャーナル フリー
    日本には古来より多くの偉人がいるが,後藤新平ほど多分野で業績を残した偉人は多くない。医師として,昨今の新型コロナウイルス対策に通じるコレラ対策を成功させた他,医師でありながら,台湾や満州の統治に尽力するとともに,政治家として東京の都市計画構想・震災復興などに貢献してきた。このように,様々な難題に対してリスク回避を行ったり,大都市のインフラを整備するという,異種の両事業を成し遂げた。後藤が逓てい相しょう,内相,外相,鉄道院総裁を歴任した際の数多くの功績もさることながら,関東大震災後の大規模な区画整理を伴う困難な帝都復興は特筆すべきものがある。本報では,これらの功績の解説を通じて,後藤新平がいかに課題を解決しながら都市インフラ整備を進捗させ,またリスク回避に向けてどう戦略をたて,貢献したかについて,その考え方(発想)や手法を分析したものである。
  • 長沼 俊介
    2022 年66 巻3 号 p. 65-84
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2025/06/09
    ジャーナル フリー
    岩手県八幡平市松尾寄木北ノ又山国有林内で発生した活発な地すべりに対し,現地条件等から応急対策工として強制排水工(スーパーウェルポイント工法)を導入し地すべりを沈静化させた。その後,恒久対策工の集水井工を施工し,集水井工のみで地すべりを沈静化させ強制排水工を撤去する必要があったが,撤去するにあたり明確な判断基準がなかった。 強制排水工を撤去し集水井工のみの稼働となった際に,地すべりが再活発化しないよう,調査を行って,地すべり動態や融雪水と地下水位の関係等を検証し,本地すべりが最も不安定な時期とそのときの地下水の挙動を推定することで,強制排水工の撤去判断基準を設定した。 設定した撤去判断基準を基に,強制排水工を試験停止させ,地すべりの再活発化が起きないことを確認した上で強制排水工を撤去した。
  • ──長野県長久保地すべりの事例──
    佐藤 翔汰, 山田 泰弘, 柴崎 達也, 神野 郁美
    2022 年66 巻3 号 p. 85-103
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2025/06/09
    ジャーナル フリー
    地すべり防止工法のうち,ボーリング暗渠工や集水井工といった地下水排除工は効果的かつ経済的な工法として広く用いられている。地下水排除工の長寿命化を図るうえで,種々の目詰まり物質の付着防止が課題となっている。今回紹介する長野県安曇あづみ野の 市の長久保地すべり地では,軟質もしくは硬質な目詰まり物質(スケール)による集水井工の集・排水ボーリング工の顕著な機能低下が以前から問題となっている。蛍光X 線分析やX 線回折試験,顕微鏡観察を行った結果,集水ボーリング工の軟質スケールは鉄細菌のバイオマットを主成分とし,排水ボーリング工の硬質スケールは炭酸カルシウムを主成分とすることが判明した。 対策方法を検討し,目詰まり抑制工の試験施工を行った結果,鉄細菌によるスケールには酸素供給を遮断するアタッチメントが,炭酸カルシウムスケールには流速を上げるアタッチメントなどが有効であることが明らかとなった。
連載論文
  • 山口 晴幸, 岡山  伸吾
    2022 年66 巻3 号 p. 104-170
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2025/06/09
    ジャーナル フリー
    近年,魚類や貝類などの海洋生物の体内からマイクロプラスチックと呼ばれる大きさ5 mm 以下の微小プラスチックの検出報告が増えつつある。微小な大きさ故に,一旦,自然界に流出したマイクロプラスチックの回収・除去は絶望的であると同時に,有害化学物質を含有・吸着していることで,海洋生物の摂食による海洋生態系への汚染リスクが拡大し,最終的には,食物連鎖を介してブーメランのように我々に戻ってくる危険性を孕んでいる(筆者はこれをブーメラン汚染と称す)。そのためマイクロプラスチックなどの微小プラスチックは海洋生態系にとって深刻なダメージをもたらす脅威となることから,世界的に甚大な海洋・沿岸水域の汚染因子として警告が発せられている。 本稿では,まず,マイクロプラスチックの供給源である海洋廃プラスチックの海岸・沿岸水域での漂着実態やその特徴などについてグローバル・広域的に解説し,世界的に問われているプラスチック廃棄物の軽減・削減対策等の現状・動向や廃プラスチックによる海洋・沿岸水域への汚染対策に関する取り組み・課題などについて論究している。 特に,20年以上に亘る長年の沖縄島嶼での調査・研究成果を踏まえ,下記の 事項等について詳述している。 ①表示されている文字等から中国,韓国,台湾など近隣アジア諸国からとみられる越境ゴミを含む海洋ゴミの大量漂着が海岸・沿岸水域の甚大な自然破壊をもたらしている実態を明らかにし,深刻度を増す外来廃プラスチック等の越境ゴミに対する海岸・沿岸水域への国策的対応強化の重要性について。 ②廃プラスチックに加え,医療ゴミや管球類(電球・蛍光灯管・水銀ランプ)ゴミをはじめ,廃油ボール,有毒液体の残存する廃ポリタンク,ドラム缶や電化品(冷蔵庫・テレビなど)などの危険で有害な海洋ゴミが大量に漂着を繰り返している実態を明らかにし,海岸・沿岸水域の自然環境に及ぼす有害リスクの甚大性について。 ③沖縄島嶼の中でも最も野趣豊かな島嶼とされる西表島(2021年7 月26日世界自然遺産登録)のマングローブ湿地水域を埋め尽くす海洋ゴミの深刻な汚染実態と,棲息・繁茂する海浜動植物生態系に与えるダメージリスクについて。 ④蓄積・山積する海洋ゴミによる防潮・防風林等の海岸樹木の折損・立ち枯れと,大型流木の大量漂着による海岸・沿岸植生域の衰退・荒廃リスクについて。 ⑤太平洋岸から流出漂流した我が国の海洋漂着ゴミによる太平洋上の他国の島嶼海岸への影響リスクの実態把握と軽減・抑制対策の検討について。 上述したように,近年では,廃プラスチックによる海洋・沿岸水域汚染の深刻化に伴い,劣化・破砕したマイクロプラスチックなどの微小プラスチックの海洋生物による摂食が鮮明化しつつある。食物連鎖を介した海洋生態系への影響リスクが危惧されていることから,海岸・沿岸水域に漂着した国籍(生産国)・タイプ(種類等)の異なる,様々な漁具類・容器類などの海洋廃プラスチックを対象に主要化学成分についての種々の成分分析を試みることで,重金属類等の有害元素の含有・溶出性に関して定量的に明らかにするとともに,摂食による微小プラスチックの有害リスクについて科学的に検証している。 さらに,筆者はこれまで長年,深刻化する廃プラスチックによる海洋・沿岸水域汚染の地球規模的な実情に危機感を抱き,マイクロプラスチックを含む微小プラスチックの砂浜海岸での漂着・混在状況を定量的に把握評価するための全国的な実態調査にも取り組んできた。 ここでは,2016年10月から2018年6 月にかけて,相模湾,東京湾,南外房沿岸の54か所の砂浜海岸(神奈川県37か所,東京都2 か所,千葉県15か所)で調査を実施し,関東沿岸水域の砂浜海岸に漂着・混在している大きさ5 mm 以下の微小プラスチック「海岸マイクロプラスチック」の現存量の実態や,それを構成している主要な素材の特徴・状況などについて詳細に解説している。また,海岸マイクロプラスチックの緻密な実態分析や,関東沿岸水域とは異なり,近隣アジア諸国からのものを含む廃プラスチックの大量漂着が長年繰り返されている沖縄島嶼での調査データとの比較検証を通して,マイクロプラスチックの主要な素材はレジンペレット樹脂粒子,プラスチック微細片,発泡スチロール微細片の3 素材で構成されていることを明らかにしている。だが,それらの素材の構成割合には海岸・沿岸水域間で偏重・特異性が認められることから,検出マイクロプラスチックの詳細な素材分析は,マイクロプラスチックの素である廃プラスチックの発生・排出源の解明や軽減・防止対策に有益な示唆を与えることを指摘している。 なお,洋上漂流や海底沈積したマイクロプラスチックはいうまでもないことであるが,海岸・沿岸水域に漂着・混在したマイクロプラスチックを含めた微小プラスチックの回収・除去すら,殆ど絶望的で不可能に近い作業となる。廃プラスチックを含めた海洋漂着ゴミの水際対策としては,何よりも海岸放置・停滞を許さない迅速,且つ持続的な清掃活動に基づいた海岸・沿岸水域の管理保全システムを,島嶼・過疎地を問わず全国津々浦々に如何に構築するかということが,マイクロプラスチックを含めた海洋漂着ゴミの軽減・抑制対策にとって最も重要で効果的な施策であることを,長年の調査成果から得られた最大の教訓として強調している。 そのためにも沖縄島嶼をはじめ日本海沿岸・離島などのように,大量漂着を繰り返す海洋ゴミが島嶼・沿岸水域の行政組織・住民など(NGO,NPO,学校,個人など)による清掃活動の限界を遥かに超え,放置・停滞を余儀なくされ,深刻な海岸・沿岸水系破壊がもたらされている地域においては,“特定監視海岸域の設定”や“海洋漂着ゴミ対策を主眼とした専属組織の立ち上げ”な ど,国策として積極的に対応・支援するための強化策の必要性について提言している。
feedback
Top