水利科学
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66 巻, 4 号
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一般論文
  • 山瀬 敬太郎, 藤堂 千景, 鳥居 宣之, 谷川 東子, 山本 智究, 池野 英利, 大橋 瑞江, 檀浦 正子, 平野 恭弘
    2022 年 66 巻 4 号 p. 1-17
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
    高齢木化した里山林構成種の萌芽更新能力を調べたところ,里山林で普通にみられるコナラで特に低下しており,樹齢60年の萌芽更新の可能性は3 割程度であった。次に,大径木化したコナラ伐採後の萌芽更新過程において,伐採前から伐採3 年後までの樹木根の本数と物理的強さの変化を調べ,樹木根による土壌補強強度を計算し,斜面の安定性(安全率)を評価した。伐採直後から,伐り株からの萌芽枝は順調に成長する一方で,樹木根の本数の減少と引き抜き抵抗力の低下がみられ,地上部と地下部で異なる動態を示した。安全率は徐々に低下する傾向を示し,伐採前の安全率が1. 24に対して伐採3 年後には1. 14と有意に低下した。萌芽更新しない枯死個体ではさらに安全率が低下し,伐採3 年後には1 前後となり,降雨により地下水位が上昇すると,森林斜面は不安定となり表層崩壊が発生する可能性が示された。大径木化したコナラの伐採は,倒木による危険を回避出来る一方で,安全率を低下させる。この伐採更新時の安全率低下を防ぐため,本研究では,引き抜き抵抗力の大きい低木種を活用した森林管理を新たに提案した。
  • ──主に黎明期を回顧して──
    末次 忠司
    2022 年 66 巻 4 号 p. 18-44
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
    洪水ハザードマップが防災・減災のソフト対策として重要であることは,ニュースや天気予報の解説などにより多くの人に周知されている。また,西日本水害(2018年7月)における岡山の高梁川・小田川破堤氾濫に伴う浸水域などを見ても,その予測精度の高さは実証されている。しかし,マップ創設当初や作成に至るまでの経緯や事情などは知らない人が多い。そこで,本報ではマップの創設・作成当初から関与していた著者が,時系列的にその経緯をまとめ,特に氾濫解析モデル改良等のプロセスや検討時の着目点や工夫したことなどを示しておく必要があると思い,記憶が冷めないうちにまとめておくこととした。また,今後のマップ作成・活用の参考として,洪水ハザードマップの作成・保管・活用に関する留意点を示した他,近年著者等により行われた氾濫解析技術の氾濫原管理などへの応用についても記載した。
近年の土砂災害シリーズ
  • 黒川 潮
    2022 年 66 巻 4 号 p. 45-60
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
    令和2(2020)年7 月豪雨では,九州南部,九州北部地方の多くの地点で,24,48,72 時間降水量が観測史上1 位の値を超えた。この豪雨により多数の山地災害が発生し,最も被害の大きかった熊本県では林業関係の被害額が約465億円となっている。九州での山地災害発生状況に関して,ヘリコプターによる上空からの調査および現地調査を実施した。熊本県および大分県の一部を飛行した結果,熊本県山鹿が市,小国町,芦北町,大分県日田市,九重町において,数十ヶ所の山腹崩壊が発生しており,土砂が流動化して長距離流下している場所が多数確認できた。現地調査において針葉樹林地,広葉樹林地の双方で山腹崩壊の発生を確認した。また球磨川から流出した流木が対岸の熊本県宇城市不知火町を中心に漂着している状況を確認した。球磨川流域を対象とした森林作業道被害状況調査において,103路線における被害を確認した。
森林と放射線物質シリーズ
  • ──これまでの成果と今後の方向性──
    小川 秀樹, 熊田 淳, 木村 憲一郎
    2022 年 66 巻 4 号 p. 61-78
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
    本論文では,東京電力福島第一原子力発電所事故以降の福島県林業研究センターにおける森林放射能汚染にかかる研究を振り返り,県内の林業・林産業の動きや人々の暮らしへの影響をもとに残された課題を整理し,今後の森林放射能研究の方向性を検討することを目的とした。事故以降,当センターでは県民からの要請に応じて,森林内の空間線量率,山菜・きのこ,木材,きのこ原木生産等に関する試験研究を進めてきた。一方,山菜・きのこに関しては継続する出荷制限等により生産量は低下し,また,採取する楽しみが人々の暮らしから失われたままとなっている。加えて,きのこ原木生産の停滞も続き,原木生産に関わる人々のネットワークは喪失されつつある。これら残された課題の解決に向けて,森林内の放射性セシウム循環に関する知見をベースとして対策技術を確立するとともに,産業や社会構造の変化を考慮しつつ,多様な森林利用を進めるための技術開発を早急に進めることが当センターの今後の役割であると考えられた。
会議報告:第4回アジエ・太平洋水サミット
  • 中村 亨
    2022 年 66 巻 4 号 p. 79-99
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
    「第4 回アジア・太平洋水サミット」にて,林野庁主催のシンポジウムを開催した。谷誠京都大学名誉教授による基調講演では,長生きの樹木を主体とする森林は,短命で根の浅い草本に比べ,乾燥期間にも蒸発散を維持して成長を続け,森林の地盤となる土壌層を崩壊させずに維持する効果が大きいことや,その結果として内陸の森林は風上の森林の蒸発散による水蒸気でもたらされる降雨によって成立でき,急斜面上の森林は土壌層が崩壊せずに厚く発達することで長期間安定を保つことが示され,森林と生育環境とは「持ちつ持たれつ」の関係があることが紹介された。全登壇者によるパネルディスカッションでは,ファシリテーターである東京農工大学大学院の五味高志教授からの今後の森林管理についての問いかけに対して,若い世代も大切にして担い手の確保や地域全体で森林管理を検討することの必要性,また,海外の各地域での水資源保全にも配慮したグローバルな視点での森林の管理・利用の必要性が提示された。また,より良い施策の形成に研究は不可欠であり,科学的知見によって持続可能性が保たれることや,研究者が積極的に調査を進めて道筋を示すことが重要との意見が交わされた。
連載論文
  • 山口 晴幸, 岡山 伸吾
    2022 年 66 巻 4 号 p. 100-172
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
    近年,魚類や貝類などの海洋生物の体内からマイクロプラスチックと呼ばれる大きさ5 mm以下の微小プラスチックの検出報告が増えつつある。微小な大きさ故に,一旦,自然界に流出したマイクロプラスチックの回収・除去は絶望的であると同時に,有害化学物質を含有・吸着していることで,海洋生物の摂食による海洋生態系への汚染リスクが拡大し,最終的には,食物連鎖を介してブーメランのように我々に戻ってくる危険性を孕んでいる(筆者はこれをブーメラン汚染と称す)。そのためマイクロプラスチックなどの微小プラスチックは海洋生態系にとって深刻なダメージをもたらす脅威となることから,世界的に甚大な海洋・沿岸水域の汚染因子として警告が発せられている。 本稿では,まず,マイクロプラスチックの供給源である海洋廃プラスチックの海岸・沿岸水域での漂着実態やその特徴などについてグローバル・広域的に解説し,世界的に問われているプラスチック廃棄物の軽減・削減対策等の現状・動向や廃プラスチックによる海洋・沿岸水域への汚染対策に関する取り組み・課題などについて論究している。 特に,20年以上に亘る長年の沖縄島嶼での調査・研究成果を踏まえ,下記の 事項等について詳述している。 ①表示されている文字等から中国,韓国,台湾など近隣アジア諸国からとみられる越境ゴミを含む海洋ゴミの大量漂着が海岸・沿岸水域の甚大な自然破壊をもたらしている実態を明らかにし,深刻度を増す外来廃プラスチック等の越境ゴミに対する海岸・沿岸水域への国策的対応強化の重要性について。 ②廃プラスチックに加え,医療ゴミや管球類(電球・蛍光灯管・水銀ランプ)ゴミをはじめ,廃油ボール,有毒液体の残存する廃ポリタンク,ドラム缶や電化品(冷蔵庫・テレビなど)などの危険で有害な海洋ゴミが大量に漂着を繰り返している実態を明らかにし,海岸・沿岸水域の自然環境に及ぼす有害リスクの甚大性について。 ③沖縄島嶼の中でも最も野趣豊かな島嶼とされる西表島(2021年7 月26日世界自然遺産登録)のマングローブ湿地水域を埋め尽くす海洋ゴミの深刻な汚染実態と,棲息・繁茂する海浜動植物生態系に与えるダメージリスクについて。 ④蓄積・山積する海洋ゴミによる防潮・防風林等の海岸樹木の折損・立ち枯れと,大型流木の大量漂着による海岸・沿岸植生域の衰退・荒廃リスクについて。 ⑤太平洋岸から流出漂流した我が国の海洋漂着ゴミによる太平洋上の他国の島嶼海岸への影響リスクの実態把握と軽減・抑制対策の検討について。 上述したように,近年では,廃プラスチックによる海洋・沿岸水域汚染の深刻化に伴い,劣化・破砕したマイクロプラスチックなどの微小プラスチックの海洋生物による摂食が鮮明化しつつある。食物連鎖を介した海洋生態系への影響リスクが危惧されていることから,海岸・沿岸水域に漂着した国籍(生産国)・タイプ(種類等)の異なる,様々な漁具類・容器類などの海洋廃プラスチックを対象に主要化学成分についての種々の成分分析を試みることで,重金属類等の有害元素の含有・溶出性に関して定量的に明らかにするとともに,摂食による微小プラスチックの有害リスクについて科学的に検証している。 さらに,筆者はこれまで長年,深刻化する廃プラスチックによる海洋・沿岸水域汚染の地球規模的な実情に危機感を抱き,マイクロプラスチックを含む微小プラスチックの砂浜海岸での漂着・混在状況を定量的に把握評価するための全国的な実態調査にも取り組んできた。 ここでは,2016年10月から2018年6 月にかけて,相模湾,東京湾,南外房沿岸の54か所の砂浜海岸(神奈川県37か所,東京都2 か所,千葉県15か所)で調査を実施し,関東沿岸水域の砂浜海岸に漂着・混在している大きさ5 mm 以下の微小プラスチック「海岸マイクロプラスチック」の現存量の実態や,それを構成している主要な素材の特徴・状況などについて詳細に解説している。また,海岸マイクロプラスチックの緻密な実態分析や,関東沿岸水域とは異なり,近隣アジア諸国からのものを含む廃プラスチックの大量漂着が長年繰り返されている沖縄島嶼での調査データとの比較検証を通して,マイクロプラスチックの主要な素材はレジンペレット樹脂粒子,プラスチック微細片,発泡スチロール微細片の3 素材で構成されていることを明らかにしている。だが,それらの素材の構成割合には海岸・沿岸水域間で偏重・特異性が認められることから,検出マイクロプラスチックの詳細な素材分析は,マイクロプラスチックの素である廃プラスチックの発生・排出源の解明や軽減・防止対策に有益な示唆を与えることを指摘している。 なお,洋上漂流や海底沈積したマイクロプラスチックはいうまでもないことであるが,海岸・沿岸水域に漂着・混在したマイクロプラスチックを含めた微小プラスチックの回収・除去すら,殆ど絶望的で不可能に近い作業となる。廃プラスチックを含めた海洋漂着ゴミの水際対策としては,何よりも海岸放置・停滞を許さない迅速,且つ持続的な清掃活動に基づいた海岸・沿岸水域の管理保全システムを,島嶼・過疎地を問わず全国津々浦々に如何に構築するかということが,マイクロプラスチックを含めた海洋漂着ゴミの軽減・抑制対策にとって最も重要で効果的な施策であることを,長年の調査成果から得られた最大の教訓として強調している。 そのためにも沖縄島嶼をはじめ日本海沿岸・離島などのように,大量漂着を繰り返す海洋ゴミが島嶼・沿岸水域の行政組織・住民など(NGO,NPO,学校,個人など)による清掃活動の限界を遥かに超え,放置・停滞を余儀なくされ,深刻な海岸・沿岸水系破壊がもたらされている地域においては,“特定監視海岸域の設定”や“海洋漂着ゴミ対策を主眼とした専属組織の立ち上げ”な ど,国策として積極的に対応・支援するための強化策の必要性について提言している。
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