水利科学
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66 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
一般論文
  • ~総合治水からの40年の歩み~
    梶原  健嗣
    2022 年66 巻5 号 p. 1-22
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2025/07/05
    ジャーナル フリー
    1969(昭和44)年,建設省河川局治水課に都市河川対策室が設けられ,都市河川における治水対策が始まった。その政策の積み重ねのうえに,総合治水対策事業が始まっていく。その基本的な考え方は,①流域全体の考慮,②ハードとソフトの融合,③段階的な整備・安全性の向上である。全国17河川で展開された総合治水対策事業のなかで,最も有名なのが鶴見川だろう。鶴見川では,治水安全度1 / 10(50mm/ h)に対応する洪水流量を1, 260m3/ s と定め,同規模の豪雨・洪水に対応すべく,鶴見川多目的遊水地を建設した。 2003(平成15)年に成立した特定都市河川浸水被害対策法(Ⅲ章参照)は,河道整備などの従来策では効果的な浸水対策が困難であり,他方で都市機能の中枢を担う地域にあり災害時のダメージポテンシャルが大きな河川を対象に,河川管理者,下水道管理者,地方自治体が共同して治水対策を行うことを推進していくための法律だった。同法で実現した新しいスキームは総合治水対策よりも所管横断的なものといえるが,規制法的な色彩が強かったためか,現場から高い評価は受けていない。また法定の協議会が定められておらず,ガバナンスという面でも至らぬ点があった。 この特定都市河川浸水被害対策法などを改正する形で,2021(令和3 )年,流域治水関連法(Ⅳ章参照)が成立した。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の警告が強まるなかで,その警告を裏付けるように,この数年,激甚災害が相次いでいる。そうしたなかで,2020(令和2 )年7 月,気候変動を踏まえた水災害対策検討小委員会は,「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方について~あらゆる関係者が流域全体で行う持続可能な『流域治水』への転換~」を答申した。流域治水関連法は,同答申を受けて作成されたものである。 流域治水関連法では,( 1 )流域治水の計画・体制の強化,( 2 )氾濫をできるだけ防ぐための対策,( 3 )被害対象を減少させるための対策,( 4 )被害の軽減,早期復旧,復興のための対策を掲げている。特定都市河川浸水被害対策法と比べれば,各段に政策メニューは増えている。また,流域水害対策計画の作成に関し,関係者が一堂に会する法定の協議会を設けたことで,ガバナンスの面でも充実したといえる。 ただ流域治水関連法では,森林整備・保全などはカバーされていない。また,違法性・管理瑕か 疵し とはいえずとも発生する水害被害に対して,その経済的被害をどう救済するかという部分にも,課題を残している。その意味では,あるべき「流域治水」としては不十分といえるかもしれない。しかしそれでも,総合治水対策,特定都市河川浸水対策法という流れのなかで捉えれば,その意義は十分に見いだせるだろう。
  • 末次 忠司
    2022 年66 巻5 号 p. 23-55
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2025/07/05
    ジャーナル フリー
    ダムが河川におよぼす影響に関しては,「ダム建設により河床が低下した」とか,「ダムができて河川環境が悪化した」といった誤った認識があり,これらの意見は科学的な根拠によるものではなく,感情的な思い込みから生じたものも多く,実態や現状のデータに基づいたダムの実像を示していくことが重要である。特にダム堆たい砂さ に関しては,メディアが特定の堆砂指標を用いて,危機感をあおるような見解を述べていることは懸念される。本報では,国土交通省が公表したダム堆砂調査データなどを用いて,ダム堆砂の実態(堆砂量,堆砂率,堆砂形状,堆砂性状など)とそれが河道や環境におよぼす影響について分析を行って明らかにし,誤った認識に対して警鐘を鳴らすとともに,今後の課題について記述した。
  • 松井 明
    2022 年66 巻5 号 p. 56-65
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2025/07/05
    ジャーナル フリー
    霞堤は伝統的な治水対策の一つである。北川水系(滋賀県,福井県)には霞堤が11ヶ所あり,流域治水に貢献している。近年の水災害の激甚化に伴い,たとえ霞堤を有していても平成25(2013)年台風18号の豪雨により北川の支川が決壊した。今後は洪水を閉じ込める治水ではなく,ᷓれる水に対応する治水へ今までの考え方を改め,霞堤を保全し,さらには新たに整備することが望まれる。霞堤のような氾濫受容型の治水対策は,霞堤の近くで営農する農業者にとって大雨の度に湛水被害が生じる可能性があり,不公平感が否めない。それに対して,国は十分に公的な補償をするべきである。今後も激甚化する水災害に対し,強く,レジリエンスのある地域社会を築くためには,流域住民の自治を復活させることが重要である。
  • ~間知石からコンクリートブロックへそして,新たな工法へ~
    菅野 紀子, 津村 直樹, 両角 和也
    2022 年66 巻5 号 p. 66-78
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2025/07/05
    ジャーナル フリー
    近年,建設業就業者の高齢化と減少により,山腹工(基礎工)の主要資材であるコンクリートブロックを扱うことができる技能者(石工)が減っている。そこで,これに替わりうるものとして,既に渓間工等で普及している残存型枠工(間伐材・軽量鋼製枠複合式〈以下,「軽量フレーム」という〉)を使用した等厚コンクリート擁壁を考案し,民有林直轄治山事業地(鳶巣崩壊地)において2 年間の試験施工を実施した。
「後世に伝えるべき治山」60選シリーズ
  • 中島 浩德
    2022 年66 巻5 号 p. 79-88
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2025/07/05
    ジャーナル フリー
    アイオン沢は,岩手県にある北上高地の主峰早池峰山の北斜面に位置している。元々は石いし合あい沢さわと呼ばれていたが,昭和23(1948)年9 月に東北地方を襲ったアイオン台風によって土石流が発生し,下流の宮古市(旧川井村,新にい里さと村むら含む)に甚大な被害を及ぼしたことから,この大災害をきっかけに石合沢上流部を「アイオン沢」と呼ぶようになったと言われている。 現地では,昭和25(1950)年から本格的な復旧工事として治山事業が開始され,このとき施工された御山川1 号堰堤は,長さ103m,高さ12m,体積5,908m3と完成当時では国内最大級の規模を誇る堰堤であった。 事業期間中に当たる昭和55(1980)年には,台風による豪雨が原因でアイオン沢左岸側約1. 5ha が崩落し,約2 万5 千m3もの土砂が流出したものの,それまでに施工した治山ダムが土石流の勢いを弱めたことにより,下流にある国道106号や鉄道への被害を最小限に抑えることができ,治山事業の効果が示された。以降も平成17(2005)年までの55年間で渓間工,土留工合わせて47基,山腹工11. 26ha を施工したことにより,現在では植生が回復して森林への復旧が進んでいる。
シリーズ:全国47都道府県土砂災害の歴史
  • 今村 隆正
    2022 年66 巻5 号 p. 89-107
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2025/07/05
    ジャーナル フリー
    香川県は,国土交通省が発表する都道府県別土砂災害発生状況で見ると,平成21年(2009)から平成30年(2018)の過去10年間における平均順位は,47都道府県中31位であり,四国4 県の中では最も土砂災害の少ない県である。 本稿は,歴史資料(古文書,香川県史,市町村誌等)調査,空中写真判読調査,ヒアリング調査,石碑調査,現地調査を基に,主に江戸時代以降に香川県で発生した,歴史に記録され,語り継がれる土砂災害の事例を調査した結果を整理したものである。
連載論文
  • 山口 晴幸, 岡山 伸吾
    2022 年66 巻5 号 p. 108-170
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2025/07/05
    ジャーナル フリー
    近年,魚類や貝類などの海洋生物の体内からマイクロプラスチックと呼ばれる大きさ5mm 以下の微小プラスチックの検出報告が増えつつある。微小な大きさ故に,一旦,自然界に流出したマイクロプラスチックの回収・除去は絶望的であると同時に,有害化学物質を含有・吸着していることで,海洋生物の摂食による海洋生態系への汚染リスクが拡大し,最終的には,食物連鎖を介してブーメランのように我々に戻ってくる危険性を孕んでいる(筆者はこれをブーメラン汚染と称す)。そのためマイクロプラスチックなどの微小プラスチックは海洋生態系にとって深刻なダメージをもたらす脅威となることから,世界的に甚大な海洋・沿岸水域の汚染因子として警告が発せられている。 本稿では,まず,マイクロプラスチックの供給源である海洋廃プラスチックの海岸・沿岸水域での漂着実態やその特徴などについてグローバル・広域的に解説し,世界的に問われているプラスチック廃棄物の軽減・削減対策等の現状・動向や廃プラスチックによる海洋・沿岸水域への汚染対策に関する取り組み・課題などについて論究している。 特に,20年以上に亘る長年の沖縄島嶼での調査・研究成果を踏まえ,下記の事項等について詳述している。 ①表示されている文字等から中国,韓国,台湾など近隣アジア諸国からとみられる越境ゴミを含む海洋ゴミの大量漂着が海岸・沿岸水域の甚大な自然破壊をもたらしている実態を明らかにし,深刻度を増す外来廃プラスチック等の越境ゴミに対する海岸・沿岸水域への国策的対応強化の重要性について。 ②廃プラスチックに加え,医療ゴミや管球類(電球・蛍光灯管・水銀ランプ)ゴミをはじめ,廃油ボール,有毒液体の残存する廃ポリタンク,ドラム缶や電化品(冷蔵庫・テレビなど)などの危険で有害な海洋ゴミが大量に漂着を繰り返している実態を明らかにし,海岸・沿岸水域の自然環境に及ぼす有害リスクの甚大性について。 ③沖縄島嶼の中でも最も野趣豊かな島嶼とされる西表島(2021年7月26日世界自然遺産登録)のマングローブ湿地水域を埋め尽くす海洋ゴミの深刻な汚染実態と,棲息・繁茂する海浜動植物生態系に与えるダメージリスクについて。 ④蓄積・山積する海洋ゴミによる防潮・防風林等の海岸樹木の折損・立ち枯れと,大型流木の大量漂着による海岸・沿岸植生域の衰退・荒廃リスクについて。 ⑤太平洋岸から流出漂流した我が国の海洋漂着ゴミによる太平洋上の他国の島嶼海岸への影響リスクの実態把握と軽減・抑制対策の検討について。 上述したように,近年では,廃プラスチックによる海洋・沿岸水域汚染の深刻化に伴い,劣化・破砕したマイクロプラスチックなどの微小プラスチックの海洋生物による摂食が鮮明化しつつある。食物連鎖を介した海洋生態系への影響リスクが危惧されていることから,海岸・沿岸水域に漂着した国籍(生産国)・タイプ(種類等)の異なる,様々な漁具類・容器類などの海洋廃プラスチックを対象に主要化学成分についての種々の成分分析を試みることで,重金属類等の有害元素の含有・溶出性に関して定量的に明らかにするとともに,摂食による微小プラスチックの有害リスクについて科学的に検証している。 さらに,筆者はこれまで長年,深刻化する廃プラスチックによる海洋・沿岸水域汚染の地球規模的な実情に危機感を抱き,マイクロプラスチックを含む微小プラスチックの砂浜海岸での漂着・混在状況を定量的に把握評価するための全国的な実態調査にも取り組んできた。 ここでは,2016年10月から2018年6 月にかけて,相模湾,東京湾,南外房沿岸の54か所の砂浜海岸(神奈川県37か所,東京都2 か所,千葉県15か所)で調査を実施し,関東沿岸水域の砂浜海岸に漂着・混在している大きさ5 mm以下の微小プラスチック「海岸マイクロプラスチック」の現存量の実態や,それを構成している主要な素材の特徴・状況などについて詳細に解説している。 また,海岸マイクロプラスチックの緻密な実態分析や,関東沿岸水域とは異なり,近隣アジア諸国からのものを含む廃プラスチックの大量漂着が長年繰り返されている沖縄島嶼での調査データとの比較検証を通して,マイクロプラスチックの主要な素材はレジンペレット樹脂粒子,プラスチック微細片,発泡スチロール微細片の3 素材で構成されていることを明らかにしている。だが,それらの素材の構成割合には海岸・沿岸水域間で偏重・特異性が認められることから,検出マイクロプラスチックの詳細な素材分析は,マイクロプラスチックの素である廃プラスチックの発生・排出源の解明や軽減・防止対策に有益な示唆を与えることを指摘している。 なお,洋上漂流や海底沈積したマイクロプラスチックはいうまでもないことであるが,海岸・沿岸水域に漂着・混在したマイクロプラスチックを含めた微小プラスチックの回収・除去すら,殆ど絶望的で不可能に近い作業となる。廃プラスチックを含めた海洋漂着ゴミの水際対策としては,何よりも海岸放置・停滞を許さない迅速,且つ持続的な清掃活動に基づいた海岸・沿岸水域の管理保全システムを,島嶼・過疎地を問わず全国津々浦々に如何に構築するかということが,マイクロプラスチックを含めた海洋漂着ゴミの軽減・抑制対策にとって最も重要で効果的な施策であることを,長年の調査成果から得られた最大の教訓として強調している。 そのためにも沖縄島嶼をはじめ日本海沿岸・離島などのように,大量漂着を繰り返す海洋ゴミが島嶼・沿岸水域の行政組織・住民など(NGO,NPO,学校,個人など)による清掃活動の限界を遥かに超え,放置・停滞を余儀なくされ,深刻な海岸・沿岸水系破壊がもたらされている地域においては,“特定監視海岸域の設定”や“海洋漂着ゴミ対策を主眼とした専属組織の立ち上げ”など,国策として積極的に対応・支援するための強化策の必要性について提言している。
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