水利科学
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67 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
一般論文
  • ~総合治水からの40年の歩み~
    梶原 健嗣
    2023 年67 巻1 号 p. 1-34
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    1969(昭和44)年,建設省河川局治水課に都市河川対策室が設けられ,都市河川における治水対策が始まった。その政策の積み重ねのうえに,総合治水対策事業が始まっていく。その基本的な考え方は,①流域全体の考慮,②ハードとソフトの融合,③段階的な整備・安全性の向上である。全国17河川で展開された総合治水対策事業のなかで,最も有名なのが鶴見川だろう。鶴見川では,治水安全度1 / 10(50mm/ h)に対応する洪水流量を1, 260m3/ s と定め,同規模の豪雨・洪水に対応すべく,鶴見川多目的遊水地を建設した。 2003(平成15)年に成立した特定都市河川浸水被害対策法(Ⅲ章参照)は,河道整備などの従来策では効果的な浸水対策が困難であり,他方で都市機能の中枢を担う地域にあり災害時のダメージポテンシャルが大きな河川を対象に,河川管理者,下水道管理者,地方自治体が共同して治水対策を行うことを推進していくための法律だった。同法で実現した新しいスキームは総合治水対策よりも所管横断的なものといえるが,規制法的な色彩が強かったためか,現場から高い評価は受けていない。また法定の協議会が定められておらず,ガバナンスという面でも至らぬ点があった。 この特定都市河川浸水被害対策法などを改正する形で,2021(令和3 )年,流域治水関連法(Ⅳ章参照)が成立した。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の警告が強まるなかで,その警告を裏付けるように,この数年,激甚災害が相次いでいる。そうしたなかで,2020(令和2 )年7 月,気候変動を踏まえた水災害対策検討小委員会は,「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方について~あらゆる関係者が流域全体で行う持続可能な『流域治水』への転換~」を答申した。流域治水関連法は,同答申を受けて作成されたものである。 流域治水関連法では,( 1 )流域治水の計画・体制の強化,( 2 )氾濫をできるだけ防ぐための対策,( 3 )被害対象を減少させるための対策,( 4 )被害の軽減,早期復旧,復興のための対策を掲げている。特定都市河川浸水被害対策法と比べれば,各段に政策メニューは増えている。また,流域水害対策計画の作成に関し,関係者が一堂に会する法定の協議会を設けたことで,ガバナンスの面でも充実したといえる。 ただ流域治水関連法では,森林整備・保全などはカバーされていない。また,違法性・管理瑕か 疵しとはいえずとも発生する水害被害に対して,その経済的被害をどう救済するかという部分にも,課題を残している。その意味では,あるべき「流域治水」としては不十分といえるかもしれない。しかしそれでも,総合治水対策,特定都市河川浸水対策法という流れのなかで捉えれば,その意義は十分に見いだせるだろう。
  • 中川  晃成
    2023 年67 巻1 号 p. 35-62
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    琵琶湖で近代的な手法による継続的な水位観測のはじまった明治初頭以降,その記録上の最高水位は,未曾有の湖水大増水となった1896(明治29)年9 月12日に鳥居川量水標で計測された+3. 76m とされる。この当時,琵琶湖岸には湖を取り巻く30地点以上の量水標が滋賀県により運用されており,その記録原簿のほとんどを今も県立公文書館が所蔵する。これら半ば忘れ去られていた 記録を蘇生させ,その性格や信頼性の検討を行うとともに,それら計測値に適切な0 点高補正を施すことにより,当時の湖水位の時系列の精度の良い再構成が可能であることを示した。これにより,明治大増水の際の湖水位は上記の鳥居川記録より15cm 程度高く,また,9 月12日午後から13日午後までの間,ほぼこの最高水位の水準に留まっていたことが示唆される。この琵琶湖大増水の全体像を明らかにし,それによる被災やその要因をよりよく理解するためにも,湖水位の最高値のみに着目するだけでなく,その時系列なども含めより正確な姿を適切に把握しておくことが望まれる。
  • 末次  忠司
    2023 年67 巻1 号 p. 63-88
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    洪水又は水害発生時に住民が避難活動等の減災活動を行うのに洪水ハザードマップは有益である。しかし,洪水ハザードマップには浸水深などの静的情報は掲載されているが,氾濫流の流速や浸水深の時間的変化などの動的な情報は少なく,危機回避を行うには情報は必ずしも十分ではない。特に最近タイムラインを重要な減災手法と位置付けている自治体や団体があるが,氾濫現象を十分理解せずにタイムラインで防災行動を想定しても,実践的で効果的な行動とはならないので,計画策定前に必ず各地域における時間的な氾濫現象の推移について考察しておく必要がある。そこで,本報では降雨→洪水→越水→破堤→氾濫という水害発生に至る一連のプロセスに関する時間特性を整理し,あらゆる地域や状況に対応できる訳ではないが,代表的な洪水・水害発生シナリオを示し,その危険性を回避するノウハウを明らかにするためのデータ分析を試みた。特に浸水深や流体力の時間的変化を示した図7 ,図10,図11は水害発生前や水害時の危機回避にとって重要なグラフである。加えて,降雨から時間差を伴って発生する土砂災害や地下鉄・地下室における地下水害についても,その危険性に関する時間特性を整理・分析した。
  • 池末  啓一
    2023 年67 巻1 号 p. 89-94
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    民俗学の祖・柳田國男も興味を持った有名な実在する川に「大根川」がある。この川には類似する弘法大師(空海)の伝説がある。小論では「大根」と「川」と「弘法大師」の関係やその意味を民俗学や宗教的に明らかにすると共に水文学からも検討した。民俗学的には,大根川伝説の内容とその河川ごとの類似性,大根の食物としての特徴や儀礼性,重要性を明らかにした。宗教的には,大根の「布施」としての性格や宗教儀礼上の意味も検討した。水文学的観点からは,大根川が水文地形学的には水無川と暴れ川の特徴を示すこと,さらにその流況が秋季から冬季にかけて渇水を示す水文気候学的性質を明らかにした。これらの水文学的性格が相まって大根川の自然科学的な環境を作り出していると考えられる。この環境を基礎として大根川の伝説は生まれ,民俗宗教的な儀礼や意味をもつようになった。これらは大根川が抱く日本人の河川観の一つを表しているものといえよう。
  • 川上  吉伸, 橋本  徹
    2023 年67 巻1 号 p. 95-110
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    保安林機能を回復させるために,過密化した林分について本数調整伐や丸太筋工を実施している。 丸太筋工の材料は,伐倒木と鉄線であり,伐倒木は現地で横木と杭木に加工して利用しているが,横木と杭木を固定するために使用する鉄線は林道下車地点から人力で作設現場まで運搬する必要がある。 森林整備に従事する作業員が高齢化する中で,重い鉄線の運搬には大変な労力を要している。 また,丸太は腐朽し林地に還元されるが,鉄線は長期間林地に残存したままとなることから環境負荷にもなるし,後々の造林作業での支障にもなる。これらのことから,現在採用している丸太筋工を,運搬労力の軽減,施工のしやすさ,現地伐倒木の使用の3 つの観点から構造の検討を試みたところ,目標とした一定の改良効果が確認できた。
近年の土砂災害シリーズ
  • 佐藤 博文
    2023 年67 巻1 号 p. 111-124
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    近年,豪雨や地震による災害が同時多発的かつ大規模になる中,災害発生時には,被害状況の把握と対策方針の検討等にかかる初動対応を迅速かつ適切に行うことが求められる。特に山地災害の発生状況の把握は,対象とする面積が広大であるため,効率的に災害調査を行い,早期に復旧計画の立案に繫げていくことが重要である。 平成28(2016)年に発生した熊本地震では,県の北東部に位置する阿蘇地域において,山地災害が集中して発生し,被害の全容把握が急務となった。そこで,阿蘇地域を所管する熊本県県北広域本部阿蘇地域振興局林務課(現在の山地災害対策課)では,フリーソフトのGoogle Maps を活用して,既存の施設情報等を共有するとともに,災害情報も随時共有する取組みを行った。 また,地震災害は,大雨による災害と異なり,箇所ごとの崩壊規模が甚大で,大量の崩壊土砂が崩壊地下部に堆積するなどの特徴があったため,それら災害の特徴に応じた復旧計画の立案のため,それぞれの職員が専門性をもって業務を進める取組みを行った。
連載論文
  • 山口  晴幸, 岡山  伸吾
    2023 年67 巻1 号 p. 125-151
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    近年,魚類や貝類などの海洋生物の体内からマイクロプラスチックと呼ばれる大きさ5 mm 以下の微小プラスチックの検出報告が増えつつある。微小な大きさ故に,一旦,自然界に流出したマイクロプラスチックの回収・除去は絶望的であると同時に,有害化学物質を含有・吸着していることで,海洋生物の摂食による海洋生態系への汚染リスクが拡大し,最終的には,食物連鎖を介してブーメランのように我々に戻ってくる危険性を孕んでいる(筆者はこれをブーメラン汚染と称す)。そのためマイクロプラスチックなどの微小プラスチックは海洋生態系にとって深刻なダメージをもたらす脅威となることから,世界的に甚大な海洋・沿岸水域の汚染因子として警告が発せられている。 本稿では,まず,マイクロプラスチックの供給源である海洋廃プラスチックの海岸・沿岸水域での漂着実態やその特徴などについてグローバル・広域的に解説し,世界的に問われているプラスチック廃棄物の軽減・削減対策等の現状・動向や廃プラスチックによる海洋・沿岸水域への汚染対策に関する取り組み・課題などについて論究している。 特に,20年以上に亘る長年の沖縄島嶼での調査・研究成果を踏まえ,下記の事項等について詳述している。 ①表示されている文字等から中国,韓国,台湾など近隣アジア諸国からとみられる越境ゴミを含む海洋ゴミの大量漂着が海岸・沿岸水域の甚大な自然破壊をもたらしている実態を明らかにし,深刻度を増す外来廃プラスチック等の越境ゴミに対する海岸・沿岸水域への国策的対応強化の重要性について。 ②廃プラスチックに加え,医療ゴミや管球類(電球・蛍光灯管・水銀ランプ)ゴミをはじめ,廃油ボール,有毒液体の残存する廃ポリタンク,ドラム缶や電化品(冷蔵庫・テレビなど)などの危険で有害な海洋ゴミが大量に漂着を繰り返している実態を明らかにし,海岸・沿岸水域の自然環境に及ぼす有害リスクの甚大性について。 ③沖縄島嶼の中でも最も野趣豊かな島嶼とされる西表島(2021年7 月26日世界自然遺産登録)のマングローブ湿地水域を埋め尽くす海洋ゴミの深刻な汚染実態と,棲息・繁茂する海浜動植物生態系に与えるダメージリスクについて。 ④蓄積・山積する海洋ゴミによる防潮・防風林等の海岸樹木の折損・立ち枯れと,大型流木の大量漂着による海岸・沿岸植生域の衰退・荒廃リスクについて。 ⑤太平洋岸から流出漂流した我が国の海洋漂着ゴミによる太平洋上の他国の島嶼海岸への影響リスクの実態把握と軽減・抑制対策の検討について。 上述したように,近年では,廃プラスチックによる海洋・沿岸水域汚染の深刻化に伴い,劣化・破砕したマイクロプラスチックなどの微小プラスチックの海洋生物による摂食が鮮明化しつつある。食物連鎖を介した海洋生態系への影響リスクが危惧されていることから,海岸・沿岸水域に漂着した国籍(生産国)・タイプ(種類等)の異なる,様々な漁具類・容器類などの海洋廃プラスチックを対象に主要化学成分についての種々の成分分析を試みることで,重金属類等の有害元素の含有・溶出性に関して定量的に明らかにするとともに,摂食による微小プラスチックの有害リスクについて科学的に検証している。 さらに,筆者はこれまで長年,深刻化する廃プラスチックによる海洋・沿岸水域汚染の地球規模的な実情に危機感を抱き,マイクロプラスチックを含む微小プラスチックの砂浜海岸での漂着・混在状況を定量的に把握評価するための全国的な実態調査にも取り組んできた。 ここでは,2016年10月から2018年6 月にかけて,相模湾,東京湾,南外房沿岸の54か所の砂浜海岸(神奈川県37か所,東京都2 か所,千葉県15か所)で調査を実施し,関東沿岸水域の砂浜海岸に漂着・混在している大きさ5 mm 以下の微小プラスチック「海岸マイクロプラスチック」の現存量の実態や,それを構成している主要な素材の特徴・状況などについて詳細に解説している。 また,海岸マイクロプラスチックの緻密な実態分析や,関東沿岸水域とは異なり,近隣アジア諸国からのものを含む廃プラスチックの大量漂着が長年繰り返されている沖縄島嶼での調査データとの比較検証を通して,マイクロプラスチックの主要な素材はレジンペレット樹脂粒子,プラスチック微細片,発泡スチロール微細片の3 素材で構成されていることを明らかにしている。だが,それらの素材の構成割合には海岸・沿岸水域間で偏重・特異性が認められることから,検出マイクロプラスチックの詳細な素材分析は,マイクロプラスチックの素である廃プラスチックの発生・排出源の解明や軽減・防止対策に有益な示唆を与えることを指摘している。 なお,洋上漂流や海底沈積したマイクロプラスチックはいうまでもないことであるが,海岸・沿岸水域に漂着・混在したマイクロプラスチックを含めた微小プラスチックの回収・除去すら,殆ど絶望的で不可能に近い作業となる。廃プラスチックを含めた海洋漂着ゴミの水際対策としては,何よりも海岸放置・停滞を許さない迅速,且つ持続的な清掃活動に基づいた海岸・沿岸水域の管理保全システムを,島嶼・過疎地を問わず全国津々浦々に如何に構築するかということが,マイクロプラスチックを含めた海洋漂着ゴミの軽減・抑制対策にとって最も重要で効果的な施策であることを,長年の調査成果から得られた最大の教訓として強調している。 そのためにも沖縄島嶼をはじめ日本海沿岸・離島などのように,大量漂着を繰り返す海洋ゴミが島嶼・沿岸水域の行政組織・住民など(NGO,NPO,学校,個人など)による清掃活動の限界を遥かに超え,放置・停滞を余儀なくされ,深刻な海岸・沿岸水系破壊がもたらされている地域においては,“特定監視海岸域の設定”や“海洋漂着ゴミ対策を主眼とした専属組織の立ち上げ”など,国策として積極的に対応・支援するための強化策の必要性について提言している。
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