水利科学
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67 巻, 5 号
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一般論文
  • 鶴巻 和芳
    2023 年67 巻5 号 p. 1-46
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2025/07/26
    ジャーナル フリー
    明治政府が進める「富国強兵・殖産興業」を合言葉に,近代国家の道を歩み始めるため,日本一の足尾銅山は外貨獲得のため増産し,日本の近代化や産業発展に大きく貢献した。その半面,足尾鉱毒事件や大規模な荒廃地を形成し,「日本の公害の原点」と呼ばれる環境破壊を引き起こした。 荒廃した足尾の山から流出する有害な土砂により,洪水氾濫や土砂災害の原因となってきた。そのため足尾では古くから国や県により治山・砂防事業が実施されているが,失われた緑の復元には程遠い状況にある。 足尾は近年,環境問題を考える聖地として注目され,全国から多くの市民や学生などが訪れている。「見る・学ぶ・体験する」ニーズに応えるため,ボランティア団体である「NPO 法人足尾に緑を育てる会」と,国土交通省を主体とする官民協働による植樹活動が,27年間の長期間にわたり継続している。
  • ~九州における自治体調査を基に~
    渡邉 涼介, 佐藤 宣子
    2023 年67 巻5 号 p. 47-66
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2025/07/26
    ジャーナル フリー
    気候変動下で豪雨の頻度と強度が高まっており,山地被害状況の迅速な把握とともに,情報の蓄積と活用が求められる。本稿の目的は,九州7 県および平成29(2017)年7 月九州北部豪雨の被災市町村を対象に山地災害情報の把握と活用実態を明らかにすることであり,行政資料の収集と担当者へのインタビューを実施した。その結果,山腹崩壊や治山施設の被災は,県の治山担当部局と出先機関によって多くの項目が把握されているのに対して,林道被害の災害査定は林業振興部局が担当であり,主に市町村が被災箇所の特定,把握を担い,被災箇所の地理情報の把握が不十分であった。さらに作業道被災の実態はほとんど把握されていない状況にあった。将来の減災対策として,伐採ガイドラインの作成や林道・作業道の維持管理体制を見直すなどの自治体があった。しかし,把握情報の蓄積と活用,共有という面で課題があることを指摘した。
  • 末次 忠司
    2023 年67 巻5 号 p. 67-93
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2025/07/26
    ジャーナル フリー
    最近「雨の降り方が以前とは異なってきた」とか,「昔はこんな雨や洪水にはならなかった」という話をよく聞く。雨や災害に対する認識の低さからの考えの場合もあるが,実際雨の降り方が変わってきたと思える場合もある。豪雨特性で見ると,雨量強度の増加,豪雨や線状降水帯の頻発などが見られる。台風についても珍しい現象や記録が出てきている。これまで著者は降雨-洪水-氾濫のプロセスのなかでの降雨現象について言及してきたが,本報では降雨に特化して,過去からの気象データ(豪雨発生回数,記録的短時間大雨情報など)を分析し,豪雨特性が変質していることを明らかにするとともに,豪雨の時空間分布と洪水への影響,気候変動が豪雨や洪水におよぼす影響,豪雨が洪水流量や水害などにおよぼす影響について分析した結果を示した。なかには,10分間雨量の活用や観測期間が長くなることに伴う計画安全度の低下といった,これまで他研究者が言及してこなかった内容も含んでいる。
  • ~紀伊田辺地区民有林直轄治山事業(上秋津区域)~
    久積 将史, 小澤 和也, 林 幸一郎
    2023 年67 巻5 号 p. 94-108
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2025/07/26
    ジャーナル フリー
    和歌山県田辺市上秋津の民有林直轄治山事業地では,地すべりの活動に伴って末端部での崩壊が顕著に発生したことから,地盤傾斜計等の観測機器で常時監視するとともに,集水井工等の地下水排除工を中心に対策を講じている。 対策を効果的に実施するため,ボーリング調査等を進めているが,地すべりの変位速度が比較的大きいことから,設置から短期間で変形し観測不能となる観測孔が多く,地中変位の観測データを長期間連続してできるだけ多く取得できる観測体制の整備が課題となっている。 この課題解決に向けた観測手法として,水平ボーリング後,ワイヤーに接続させたアンカーを不動地盤に定着させて設置し土塊の挙動を計測する水平型孔内伸縮計を新たに導入し,連続したデータを取得するとともに伸縮変動を捕捉することができ,変位量等のデータと他の地中変位等のデータを比較分析して,地すべりブロック間における変位の連動性を明らかにすることが可能となった。
海外情勢
  • ─伝統に学ぶ灌漑水利事業─
    村上 優, 大和 則夫, 永田 謙二
    2023 年67 巻5 号 p. 109-135
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2025/07/26
    ジャーナル フリー
    戦禍や干ばつなど世界に起こる困難の縮図であるアフガニスタンに命をささげた中村哲医師の生きざまに触れ,土木・農業系技術者さらにはすべての人々の考えるべき方向性の一助になればと願い,技術報告の視点を超えてPMS(Peace Japan Medical Services)の活動を紹介した。「百の診療所よりも一本の用水路を」は土木技術者にとってはプライドを大いに刺激される言葉である。そのように中村医師は多くの言葉を残した。なぜ中村医師が水利灌漑事業に邁進したのか,土木灌漑技術者でも思いつかないような発想のもと,日本の江戸時代の伝統的な工法によりどころを求め,灌漑耕作地域の確保拡大に成功していく効果は計り知れない。あとを継いだ地元のPMS スタッフが,中村医師の灌漑方式の基本を守り事業を継承している現場を紹介した。さらに中村医師が没した後,中村医師の想いと事業普及のために後継者が完成させたPMS方式灌漑事業ガイドラインの一端を紹介し,多くの土木関係者が,そこに現れた思索と行動に触れていただくよう願う。
連載論文
  • 山口 晴幸, 岡山 伸吾
    2023 年67 巻5 号 p. 136-168
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2025/07/26
    ジャーナル フリー
    近年,魚類や貝類などの海洋生物の体内からマイクロプラスチックと呼ばれる大きさ5 mm 以下の微小プラスチックの検出報告が増えつつある。微小な大きさ故に,一旦,自然界に流出したマイクロプラスチックの回収・除去は絶望的であると同時に,有害化学物質を含有・吸着していることで,海洋生物の摂食による海洋生態系への汚染リスクが拡大し,最終的には,食物連鎖を介してブーメランのように我々に戻ってくる危険性を孕んでいる(筆者はこれをブーメラン汚染と称す)。そのためマイクロプラスチックなどの微小プラスチックは海洋生態系にとって深刻なダメージをもたらす脅威となることから,世界的に甚大な海洋・沿岸水域の汚染因子として警告が発せられている。 本稿では,まず,マイクロプラスチックの供給源である海洋廃プラスチックの海岸・沿岸水域での漂着実態やその特徴などについてグローバル・広域的に解説し,世界的に問われているプラスチック廃棄物の軽減・削減対策等の現状・動向や廃プラスチックによる海洋・沿岸水域への汚染対策に関する取り組み・課題などについて論究している。 特に,20年以上に亘る長年の沖縄島嶼での調査・研究成果を踏まえ,下記の事項等について詳述している。 ①表示されている文字等から中国,韓国,台湾など近隣アジア諸国からとみられる越境ゴミを含む海洋ゴミの大量漂着が海岸・沿岸水域の甚大な自然破壊をもたらしている実態を明らかにし,深刻度を増す外来廃プラスチック等の越境ゴミに対する海岸・沿岸水域への国策的対応強化の重要性について。 ②廃プラスチックに加え,医療ゴミや管球類(電球・蛍光灯管・水銀ランプ)ゴミをはじめ,廃油ボール,有毒液体の残存する廃ポリタンク,ドラム缶や電化品(冷蔵庫・テレビなど)などの危険で有害な海洋ゴミが大量に漂着を繰り返している実態を明らかにし,海岸・沿岸水域の自然環境に及ぼす有害リスクの甚大性について。 ③沖縄島嶼の中でも最も野趣豊かな島嶼とされる西表島(2021年7 月26日世界自然遺産登録)のマングローブ湿地水域を埋め尽くす海洋ゴミの深刻な汚染実態と,棲息・繁茂する海浜動植物生態系に与えるダメージリスクについて。 ④蓄積・山積する海洋ゴミによる防潮・防風林等の海岸樹木の折損・立ち枯れと,大型流木の大量漂着による海岸・沿岸植生域の衰退・荒廃リスクについて。 ⑤太平洋岸から流出漂流した我が国の海洋漂着ゴミによる太平洋上の他国の島嶼海岸への影響リスクの実態把握と軽減・抑制対策の検討について。 上述したように,近年では,廃プラスチックによる海洋・沿岸水域汚染の深刻化に伴い,劣化・破砕したマイクロプラスチックなどの微小プラスチックの海洋生物による摂食が鮮明化しつつある。食物連鎖を介した海洋生態系への影響リスクが危惧されていることから,海岸・沿岸水域に漂着した国籍(生産国)・タイプ(種類等)の異なる,様々な漁具類・容器類などの海洋廃プラスチックを対象に主要化学成分についての種々の成分分析を試みることで,重金属類等の有害元素の含有・溶出性に関して定量的に明らかにするとともに,摂食による微小プラスチックの有害リスクについて科学的に検証している。 さらに,筆者はこれまで長年,深刻化する廃プラスチックによる海洋・沿岸水域汚染の地球規模的な実情に危機感を抱き,マイクロプラスチックを含む微小プラスチックの砂浜海岸での漂着・混在状況を定量的に把握評価するための全国的な実態調査にも取り組んできた。 ここでは,2016年10月から2018年6 月にかけて,相模湾,東京湾,南外房沿岸の54か所の砂浜海岸(神奈川県37か所,東京都2 か所,千葉県15か所)で調査を実施し,関東沿岸水域の砂浜海岸に漂着・混在している大きさ5 mm 以下の微小プラスチック「海岸マイクロプラスチック」の現存量の実態や,それを構成している主要な素材の特徴・状況などについて詳細に解説している。 また,海岸マイクロプラスチックの緻密な実態分析や,関東沿岸水域とは異なり,近隣アジア諸国からのものを含む廃プラスチックの大量漂着が長年繰り返されている沖縄島嶼での調査データとの比較検証を通して,マイクロプラスチックの主要な素材はレジンペレット樹脂粒子,プラスチック微細片,発泡スチロール微細片の3 素材で構成されていることを明らかにしている。だが,それらの素材の構成割合には海岸・沿岸水域間で偏重・特異性が認められることから,検出マイクロプラスチックの詳細な素材分析は,マイクロプラスチックの素である廃プラスチックの発生・排出源の解明や軽減・防止対策に有益な示唆を与えることを指摘している。 なお,洋上漂流や海底沈積したマイクロプラスチックはいうまでもないことであるが,海岸・沿岸水域に漂着・混在したマイクロプラスチックを含めた微小プラスチックの回収・除去すら,殆ど絶望的で不可能に近い作業となる。廃プラスチックを含めた海洋漂着ゴミの水際対策としては,何よりも海岸放置・停滞を許さない迅速,且つ持続的な清掃活動に基づいた海岸・沿岸水域の管理保全システムを,島嶼・過疎地を問わず全国津々浦々に如何に構築するかということが,マイクロプラスチックを含めた海洋漂着ゴミの軽減・抑制対策にとって最も重要で効果的な施策であることを,長年の調査成果から得られた最大の教訓として強調している。 そのためにも沖縄島嶼をはじめ日本海沿岸・離島などのように,大量漂着を繰り返す海洋ゴミが島嶼・沿岸水域の行政組織・住民など(NGO,NPO,学校,個人など)による清掃活動の限界を遥かに超え,放置・停滞を余儀なくされ,深刻な海岸・沿岸水系破壊がもたらされている地域においては,“特定監視海岸域の設定”や“海洋漂着ゴミ対策を主眼とした専属組織の立ち上げ”など,国策として積極的に対応・支援するための強化策の必要性について提言している。
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