水利科学
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68 巻, 3 号
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一般論文
  • ~沖縄宮古・八重山諸島での現況調査~
    山口 晴幸
    2024 年68 巻3 号 p. 1-34
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2025/09/04
    ジャーナル フリー
    2021年8 月13日,小笠原諸島南硫黄島付近の海底火山「福徳岡ノ場ば」の噴火で放出された膨大な量の火山噴出物(主に軽石)の漂流・漂着が,日本列島の多くの沿岸水域や海浜環境に与えた深刻な影響の実態を取り上げて報告している。 本稿では,2022年春季,沖縄宮古・八重山諸島の広範な海岸・沿岸水域で実施した漂着軽石の現況調査に基づき,特に,サンゴ白砂浜,干潟・湿地水域等の海浜土壌における漂着的特徴や現存状況などについて論じている。さらに,貴重な観光資源である海岸線への景観的なリスクに加え,大量漂着した軽石が野趣豊かな動植物生態系を育む沿岸水域の水質・土壌等の自然環境に与える影響,リスクなどに関する考察を通し,主に下記の事項について言及している。 ①東京都小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」周辺の地勢状況を概説し,海底に没する「福徳岡ノ場」と,火山列島(硫黄列島)を形成している近接する硫黄島での火山地形や噴火活動・痕跡等の事例を提示し,海底火山「福徳岡ノ場」一円の活発な火山活動の実態などについて概説している。 ②海底火山「福徳岡ノ場」の爆発的な噴火によって噴出した膨大な量の軽石が,約1, 300km 遠方の琉球列島をはじめ,奄美諸島や伊豆諸島,相模湾・南房総半島などの関東沿岸域に漂流・漂着した時期・経緯について概説している。 ③沖縄宮古・八重山諸島(港内調査9 島20港,海岸調査10島89海岸,他に西表島の砂浜,マングローブ干潟・湿地,河川下流・河岸域など)で実施した主要な港湾や沿岸水域での現況調査を通し,踏査時点での沿岸水域での漂流・浮遊軽石や海岸域への漂着軽石の現存状況について詳述している。特に,砂浜海岸域では,漂着軽石の現存状況を「大量(ランクⅠ)」~「無い(ランクⅤ)」の5 段階に区分して評価し,サンゴ白砂浜を形成する海浜域の景観や自然環境に与える影響などについて論述している。 ④野趣豊かな西表島でのマングローブ干潟・湿地水域や河川の下流・河岸域の踏査を通し,水域・流域を覆い尽くす漂流・漂着軽石による水質・土壌環境や棲息・繁茂する稀少な動植物生態系への影響,リスクについて考察している。 ⑤回収・除去された大量の軽石の適切な保全管理や迅速な処理処分の重要性,沖合海域に沈降・沈積していると指摘される軽石や,干潟・湿地水域に漂流・漂着した軽石の自然環境に与える影響把握のための継続的なモニタリング調査の必要性など,沖縄島嶼沿岸水域の自然回復に向けて,早期に取り組むべき方策や検討事項,今後の課題などについて解説している。
  • 饗庭 靖之
    2024 年68 巻3 号 p. 35-66
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2025/09/04
    ジャーナル フリー
    人が居住する空間としての街づくりから見たとき,土地所有権に基づく土地利用の第一の問題は,人間と森林で形成される生物の土地利用は,互いを排除し合うことであり,人間が有意義に利用している程度が低い土地については,人間以外の生命体によって成立する生態系のために,人間の利用の対象から自然に還すことが必要である。 第二の問題は,個々人が土地の利用,収益,処分を追求する結果,全体の土地利用として,人が居住する空間として不適合を起こすことであり,都市においては人の活動を放置すると,都市がスラム化することによって,個々の生活のための土地建物の利用が互いの土地建物の利用を妨害し,互いの生活に危険をもたらす。 以上の解決のためには,利用度の低い土地を森林に還していくシステムを作るとともに,自然保護と防災を実現する街づくりをするために,密集住宅地域を,緑地と高層住宅に改変する市街地再開発組合の活動が必要である。
  • ―上下流対立とは何か―
    中川 晃成
    2024 年68 巻3 号 p. 67-99
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2025/09/04
    ジャーナル フリー
    琵琶湖の水位変動の水理や瀬田川洗堰の治水有効性などに関する従来の認識に,科学的合理性の欠く点の種々あることを指摘する。瀬田川洗堰の設置以前,瀬田川流量は湖水位に応じて定まり,当時の平水位である+0.8m のときに150㎥/ s,+2.0mの洪水水位のときでも450㎥/ s 程度であった。現在の洗堰の全開放流量は約800㎥/ s である。対して,琵琶湖への流入河川には計画流量4,500㎥/ s の野洲川など瀬田川をはるかに上回る河積を持つ河川はいくつかあり,琵琶湖はそもそも「溢れる湖」である。出水時においては,淀川本川(河道目標流量10,800㎥/ s)へと流下する河水は,主に木津川(5,500㎥/ s),従に桂川(4,300㎥/ s)によるもので,瀬田川を通した湖水の流下による下流出水への寄与は通常1 割にも満たない。こうして,瀬田川の河水はそもそも淀川本川の水位上昇や三川合流部での背水の発生の主因とはなり得ず,それゆえ,瀬田川洗堰の操作にかかわる上下流対立も本来存在し得ないはずのものである。治水についても,琵琶湖や三川合流部の「溢れる水域」としての自然の摂理に適合した考えに基づき,これら水域が風土や自然景観の構成要素として有するそれぞれの固有性を尊重したものであることが望まれる。
  • -鬼怒川瀬替えから常総水害まで-
    梶原 健嗣
    2024 年68 巻3 号 p. 100-129
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2025/09/04
    ジャーナル フリー
    利根川の最大支流・鬼怒川は,全長176.7km,流域面積1,760. 6㎢の一級河川で,全国の一級水系・本川と比べても遜色がない規模である。それでも支流であることに変わりはないため,その歴史が独自に検討されることは少ない。しかし鬼怒川はいち早くダムによる洪水調節が治水計画に取り入れられたという歴史があり,また2015(平成27)年に大きな水害(常総水害)があったことに照らせば,その歴史を振り返ることには,大きな意義がある。 鬼怒川が国の直轄改修事業の対象となったのは,1926(大正15)年である。この時内務省は,五十里ダムの建設等を柱とする改修事業を計画した。五十里ダムの建設は1933(昭和8 )年に一度頓挫するが,昭和13年水害を経て復活した。その後も戦争による中断を余儀なくされたが,遂に1956(昭和31)年に完成した。以後,鬼怒川では川俣ダム,川治ダム,湯西川ダムが建設されていった。 治水計画どおりのダム建設が完了していない河川が少なくないなかで,鬼怒川は計画どおりのダム建設が果たされた河川である。そうした鬼怒川で2015(平成27)年9 月,水害が発生した。茨城県常総市を中心とするこの水害に対し,2018(平成30)年8 月,被害者30名(法人1 を含む)が水害訴訟を提訴した。そして2022(令和4 )年7 月,水戸地方裁判所は若宮戸地区のᷓ水につき,国の管理瑕疵を認めた。水害訴訟では,久しぶりの原告勝訴判決である。 判決が認めた管理瑕疵は,河川区域の選定を不適切とするものである。気候変動等により豪雨の激化が予想されるなかで,今後も大きな水害が発生することはあるだろう。重要なのは,なぜ水害が起きたのか,それを多角的に検討することである。水害訴訟のような「現代型訴訟」は,そうした問題をあぶりだし,開かれた形でその検証を行う場となりうることに,被害者救済を超えた公益的な意義がある。
「雪の研究」シリーズ
  • 竹内 由香里, 勝島 隆史, 勝山 祐太
    2024 年68 巻3 号 p. 130-147
    発行日: 2024/08/01
    公開日: 2025/09/04
    ジャーナル フリー
    融雪水や雨水は積雪内を流下して積雪底面から流出し土壌へ浸透する。そのため積雪底面流出量の把握は雪氷災害や土砂災害の防災上,また流域水収支において重要である。本研究では,温暖多雪地において積雪期を通して積雪底面流出量を調べ,時期による融雪量,降雨量の違いや積雪状態の変化との関係を明らかにした。積雪への流入量に対する流出量の応答には時期により明瞭な差異があった。積雪初期と厳冬期には流入した水の一部が積雪内に保持されたため,流出率が1.0未満になったことが積雪断面観測の結果から裏付けられた。 雪面融雪量が増加し積雪全層がざらめ雪に変化した融雪初期には,積雪底面流出が早まり,流入した水がその日のうちに流出するようになった。この時期に流出率は1.0未満から1.0以上へ上昇した。積雪深の低下が著しい融雪最盛期には積雪内に保持されていた水も流出し,流出率が1.0以上になった。
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