琵琶湖の水位変動の水理や瀬田川洗堰の治水有効性などに関する従来の認識に,科学的合理性の欠く点の種々あることを指摘する。瀬田川洗堰の設置以前,瀬田川流量は湖水位に応じて定まり,当時の平水位である+0.8m のときに150㎥/ s,+2.0mの洪水水位のときでも450㎥/ s 程度であった。現在の洗堰の全開放流量は約800㎥/ s である。対して,琵琶湖への流入河川には計画流量4,500㎥/ s の野洲川など瀬田川をはるかに上回る河積を持つ河川はいくつかあり,琵琶湖はそもそも「溢れる湖」である。出水時においては,淀川本川(河道目標流量10,800㎥/ s)へと流下する河水は,主に木津川(5,500㎥/ s),従に桂川(4,300㎥/ s)によるもので,瀬田川を通した湖水の流下による下流出水への寄与は通常1 割にも満たない。こうして,瀬田川の河水はそもそも淀川本川の水位上昇や三川合流部での背水の発生の主因とはなり得ず,それゆえ,瀬田川洗堰の操作にかかわる上下流対立も本来存在し得ないはずのものである。治水についても,琵琶湖や三川合流部の「溢れる水域」としての自然の摂理に適合した考えに基づき,これら水域が風土や自然景観の構成要素として有するそれぞれの固有性を尊重したものであることが望まれる。
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