1980年代以降の我が国のアサリ漁獲量の減少について,主要5海域の実態と原因に関する議論を再点検した。減少には埋め立てと乱獲が関与した可能性があったが,貧酸素,河川出水,冬季の波浪減耗,食害生物,病虫害,餌料環境等の関与が指摘され,最終的に原因が特定されている海域はなかった。漁獲量に影響する要因は時間とともに変化しているため,過去の減少と現在の回復不全の要因は異なる可能性があり,減少時期を特定した議論が重要と思われた。原因の特定には各要因の影響を定量的に評価した上での比較検討が必要であろう。
環境収容力が周期的に変化する余剰生産モデルを用いて水産資源の経済的最適利用へのレジームシフトの影響を理論的に分析した。環境収容力の変化が大きくなると1)水産資源から得られる生産余剰と社会的余剰を最大化する2つの漁獲係数の値がともに小さくなりその差も小さくなる,2)平均漁獲量を最大化する漁獲係数との差も小さくなることなどが分かった。本モデルをマイワシとマサバの太平洋系群に応用した。結果の解釈等について議論した。
オッターボードの設計の効率化を目的として,CFD解析を用いた最適化手法を提案した。同手法は応答曲面法を基本としており,揚力を最大化,抗力を最小化する多目的最適化を行うものとした。提案した手法は複葉型オッターボードに適用し,その有効性を確認した。最適化したモデルの一つであるバランスモデルでは,流れの剥離が少なくなり,揚力を従来と同等に保ちながら,抗力は14%減少した。以上から,提案した最適化手法を用いることで,オッターボードの効率的な設計が可能になったといえる。
北西太平洋においてメカジキXiphias gladiusに装着したポップアップタグから得られた18個体分のデータを解析し,水平移動および鉛直行動を調査した。水平移動では,明確なパターンは観察されなかったが,夏の終わりから生産性の高い海域に回遊する個体が6個体観察された。鉛直行動は,明確な日周鉛直移動を示し,日中は601-700 m,夜間は混合層より浅い0-50 mに最も長く滞在した。また,日中および夜間の遊泳深度は,水温構造や光の条件により変化する可能性が示された。
アコヤガイ真珠の美しい色調に寄与する干渉色は,薄層構造を示す真珠層アラゴナイト結晶の一枚の厚み(結晶厚)で決まるため,結晶厚制御は重要な技術となる。選抜育種で作出した貝殻真珠層の結晶厚が平均300 nmと平均360 nmの2系統の移植片採取貝(ピース貝)から得た外套膜片を真珠核と共に別のアコヤガイに移植した。得られた真珠の結晶厚はピース貝の貝殻結晶厚と正の相関を示した。ピース貝の貝殻結晶厚は,真珠の結晶厚と干渉色を決定する重要な要素であることを証明し,貝の成長とともに薄く変化していくことも示した。
ピース貝貝殻真珠層の結晶層一層の厚さ(結晶層厚)が真珠の結晶層厚および品質に与える影響を調べるため,同一のアコヤガイ母貝に2つの真珠核を挿入する際に,結晶層厚の異なる2家系のピース貝から採取した外套膜小片を各々の真珠核に用いて真珠を生産し,その結晶層厚と品質を調査した。真珠生産した2地点×2試験区の4試験区全てにおいて,結晶層厚の厚いピース貝家系を用いた区で真珠の結晶層厚は有意に厚かった。各区の真珠の結晶層厚は真珠の干渉色に影響を及ぼし,また,真珠の価値に影響を与えている可能性が示唆された。
オホーツク海に生息するアカボヤ筋肉の一般成分,カロテノイド組成を調べた。夏季から秋季にかけて水分,灰分は緩やかに減少,タンパク質,脂質,グリコーゲンは緩やかに増加した。アカボヤの主要なカロテノイドはβ-carotene, alloxanthin, astaxanthin, mytiloxanthin, pectenolone, halocynthiaxanthinおよびこれらの脂肪酸エステルであった。アカボヤは有用なカロテノイドを含んでいることから,機能性食品としての利用が期待された。
2016年8月30日,台風に伴う河川増水により,岩手県の某河川沿いにある養魚場が冠水し,ギンザケ当歳魚(0+)(推定50万個体)が逸出した。このため,種間関係(競争・交雑等)を通じた生物多様性への影響が懸念され,駆除等の対策を要する。そこで,対策を講ずる基礎的知見を収集するために,ギンザケ逸出後の河川で魚類相調査を行った。ギンザケの生息個体数は6,387個体と推定され,逸出から100日後では逸出時の1.3%に減少していたが,在来種と同所的に存在し,0+で成熟する雄個体がいることが明らかになった。