余剰生産モデルを用いてとも補償による減船の経済効果を理論的に調べた。1)減船開始時の資源量が動態最大純経済生産量における最適資源量より小さいときに経済効果があること,2)減船開始時の資源量が自由競争均衡点における資源量に近いとき5-20%の減船でも経済効果が大きいこと,3)その効果の程度は自由競争均衡点における資源量が環境収容力の0.1-0.3倍くらいのときに大きいことなどがわかった。コスト削減の動機の欠如などの解決すべき課題等について議論した。
青森県周辺海域におけるキアンコウの背鰭第一棘による年齢査定法を検証した。背鰭第一棘の付け根付近の横断面をエッチング処理した後,メチレンブルーで染色し,実体顕微鏡下で落射光と透過光の両者による比較観察した結果,不透明帯数の読み取り精度が向上した。同横断面には,1年に2本の不透明帯(主に6月と11-12月)が形成されていた。背鰭第一棘による年齢査定は脊椎骨によるものよりも読み取り誤差が小さく,標識放流魚の成長追跡結果と類似したことから,優れた年齢査定法と判定した。
2014年4月から2015年3月に茨城県北浦において採集した侵略的外来種のチャネルキャットフィッシュ計937個体の耳石を解析し,本種の年齢と成長について調べた。耳石縁辺部の不透明帯は1年に1本,5-6月に形成され,この時期は産卵盛期と一致していた。von Bertalanffyの成長式は雌雄間で有意に異なり,雄が雌よりも成長速度が速い傾向が認められた。最高年齢は雄で14歳,雌で13歳と推定された。さらに,本種の個体群構造の推定や防除計画の立案に有用な年齢-体長換算表を作成した。
我が国5海域における珪藻Skeletonema属の種組成を,遺伝子解析(LSU rDNA D1-D3)と微細形態の特徴から種を同定し,明らかにした。亜熱帯域の沖縄海域ではS. grevillei,温帯域の有明海,富山湾,女川湾および亜寒帯域の噴火湾ではS. dohrniiが優占し,S. japonicumが混在した。高水温期に塩分の低かった有明海や富山湾ではS. costatumが,塩分30以上の女川湾や噴火湾では順にS. grevilleiとS. pseudocostatumが出現した。
瀬戸内海燧灘周辺海域におけるタチウオの食性について,2011年から2013年にかけての各月標本採集により調査した。確認された餌生物のうち,カタクチイワシ,イカナゴ,ソコシラエビの餌生物重要度指数(%IRI)がそれぞれ10%以上と高い値を示した。カタクチイワシとソコシラエビはほぼ周年,イカナゴは3-4月に多く出現した。タチウオの成長に伴い,魚類の重要度は増加し,甲殻類では低下した。タチウオによるイカナゴの高頻度での利用は,本海域の特徴であると考えられた。
対馬沿岸海域でCochlodinium polykrikoides赤潮と濁水の発生時に養殖クロマグロが大量斃死した。斃死が発生した養殖漁場周辺での赤潮発生状況と水質環境を調査することにより斃死要因の究明を試みた。斃死漁場では,C. polykrikoidesが172-795 cells mL−1の細胞密度で出現しており,濁度3.8-7.6 FTUの濁水が確認された。クロマグロの斃死は,C. polykrikoides赤潮水塊と濁水の曝露によって引き起こされた可能性が示唆された。
ツノナシオキアミの新規有効利用法の開発を目的とし,食品添加物を用いた等電点利用分画法によるタンパク質の回収を検討した。タンパク質回収率は炭酸カリウムで可溶化させたタンパク質をクエン酸で沈殿させた場合が最も高かった(58.8%)。回収したタンパク質のSDS-PAGEパターン,一般成分,ミネラル組成およびタンパク質構成アミノ酸組成をNaOHおよびHClを用いた場合と比較したところ,顕著な差はみられなかった。以上より,本方法で本種タンパク質を効率的に回収できることが示唆された。
本研究では三重県神前浦地区を事例に企業の養殖業新規参入と漁業者の意識の関係を二種類のアンケート調査から調べた。因子分析の結果,漁業者は6つの評価軸で養殖業の新規企業参入を評価していた。因子分析の結果から6つの参入条件を選び,選択実験を行った結果,神前浦地区の漁業者は基本的に企業参入には反対の姿勢を持っており,参入の条件として「地元住民の優先雇用」,「生餌の使用制限」,「社長・担当者の出身地」,「魚種」,「会社の規模」の順で重視していることがわかった。
いわし棒受網漁業では,操業時に集魚した魚群を水中集魚灯周辺に滞留させる必要がある。本研究では,カタクチイワシ魚群が水中集魚灯(ハロゲン灯,LED灯)周辺の滞留時の分布位置を音響機器で計測した。さらに,本研究で定義したカタクチイワシの視感度に基づいた照度を用い,それぞれの灯具の海中の照度分布を算出した。魚群の分布位置と灯具の照度分布とを照合した結果,滞留時の魚群はそれぞれの灯具の等照度線に沿い,かつ,灯具が異なってもほぼ同じ照度域に分布した。この現象は本種の好適照度の存在を示唆するものと考えられる。
東シナ海の音響トロール調査により底魚資源の漁獲と音響反射の対応を検討した。音響反射への影響が大きいと考えられる種・分類群(音響重要種)の総漁獲個体数密度と底層の平均体積後方散乱強度(平均SV)に正の相関がみられた。調査点間で1個体あたり反射強度(TS)の違いも小さく,調査海域では平均SVが漁獲個体数の有効な指標となると考えられた。また,音響重要種のうち多獲種の間で漁獲水深帯に相違がみられた。今後分布特性による種判別に加え,各種の音響特性も解明することで,底魚資源の音響資源調査の高度化が期待される。
ノトイスズミの消波ブロックへの蝟集実態を把握するため,壱岐市和歌漁港で2010年4月から2015年2月にかけて潜水調査を実施した。消波ブロックでは1月から4月に200個体以上の大規模な蝟集が頻繁に観察された。大規模な蝟集の出現と水温の間には有意な相関があり,水温16.9℃以下の期間に蝟集が確認される傾向があった。また,長崎県と宮崎県の4地点でも調査を行い,冬から春に本種の消波ブロックでの蝟集を確認した。本研究は九州西部及び南東部の各地で冬から春に本種が消波ブロックに蝟集する可能性を示唆する。
外傷のある海水魚を6-100%の20段階に希釈した海水で48時間飼育して死亡率を調べた。オニオコゼは18-67%海水,アカメバルは23-50%海水,カサゴは21-92%海水およびマダイは36-92%海水の範囲で低い死亡率が認められた。また,外傷魚を33%海水と100%海水で8日間飼育して死亡率を比較すると,マダイ以外の3魚種では33%海水の方が100%海水よりも延命して累積死亡率も低かったが,マダイの33%海水区では,体色変化や遊泳異常が観察され,試験区間の死亡率に差が見られなかった。