環境収容力が一定期間ごとに入れ代るモデルを導入した余剰生産モデルを用い,平均漁獲量や最小漁獲量などを最大化する漁獲係数を求め,最大持続生産量を与える漁獲係数(FMSY)とともに,平均漁獲量や漁獲量の変動等を比較した。FMSYはあるパラメータを持つ一般化平均を最大化すること,平均漁獲量を最大化する漁獲係数は一般にはFMSYと一致しないことなどがわかった。このモデルをマイワシとマサバの太平洋系群の推定値に応用した。結果の解釈やモデルの拡張等について議論した。
シロウオの遡上実態と産卵場の環境特性を広島県三津大川において調査した。2016年の漁期は2月下旬~4月下旬であり,漁獲量は大潮の時期に多く小潮の時期に少ない傾向を示した。卵塊分布密度が最高となった地点は,河口から約350 m上流側であった。その地点の塩分は,小潮期には終日ほぼ0であったが,大潮期の満潮時には約25に上昇した。既往知見に比べて高い塩分にさらされる場所においても本種の産卵が確認され,一定期間は淡水及び汽水にさらされる環境であることが産卵場の形成要因として重要である可能性が示唆された。
アカガレイ卵・仔魚の輸送過程を明らかにする端緒として,飼育実験で,卵・仔稚魚の発生・発育に伴う比重変化の測定および卵発生速度と水温(1-12℃)の関係を調べた。卵の比重は,生息域である噴火湾の海水密度より常に低く,浮上したが,卵黄嚢仔魚では逆転した。屈曲前前期の仔魚の比重は海水密度とほぼ同等になり,それ以降は発育とともに再び高比重になった。水温1-12℃において,卵および卵黄嚢仔魚期の日数は高水温ほど短かった。水温や生息水深別の流向・流速の年較差が卵・仔魚の輸送過程を変化させている可能性が示唆された。
2013-2015年に麻痺性貝毒原因種の出現とアカガイ,トリガイの毒量,毒成分変化を調査した。確認有毒種はAlexandrium tamarenseとA. catenellaで,主毒化原因種は前者であった。アカガイは毒化,減毒が遅く通年毒が検出されたのに対し,トリガイは,原因種終息後は毒が検出されなくなった。毒成分は前者が強毒のGTX2, 3主体で,後半STXが増加した一方,後者はC1, C2主体であった。両種とも原因種増殖期にGTX1, 4が増加したが,トリガイでは毒が速やかに排出されたと推察された。
2010年からガンガゼ類除去による藻場再生が行われている三重県早田浦に10調査地点を設け,1999年,2004年,2014年の計3回,海藻植生を素潜りによって広域的に調査した。湾奥部は,1999年にはガンガゼ類が優占する磯焼け域であったが,ガンガゼ類除去後の2014年には磯焼けから藻場の再生が認められ,ホンダワラ類や小型海藻の種数が大きく増加した。一方,湾口部では調査期間を通して藻場ガラモ場や一年生コンブ目藻場が維持され,海藻種数に大きな変化は見られなかった。
2014年に房総半島沖で捕獲したツチクジラの食用赤肉の一般成分,無機質,脂肪酸組成を測定し,遊離アミノ酸,イミダゾールジペプチドを分析した。一般成分・脂肪酸組成に雌雄による差はなく,オレイン酸が主な脂肪酸であった。無機質のCa, Zn, Mn,遊離アミノ酸のAsp, Ser, Glu, Met, Hisはオスにメスよりも有意に多かった。バレニンは乾物100 g当りオスに3170 mg,メスに2980 mg検出された。メタノール抽出液の抗酸化性,ACE阻害活性に雌雄による差はなく,他の畜肉に比べて低かった。
若狭カレイの品質に及ぼす低温乾燥の重要性を検証する目的で,塩漬したヤナギムシガレイの乾燥歩留まりの低下に伴う筋肉中の水分と呈味成分および筋原繊維タンパク質(Mf)の変化を検討した。その結果,温度にかかわらず水分の蒸発は主に魚体表面で起こり,それに比べて筋肉中の水分の低下は非常に少なかった。また20℃以下の乾燥は筋肉中のIMPの分解とMfの変性を抑制した。さらに歩留まり85%まで乾燥した場合の筋肉の保水性は4℃乾燥が最も高く,これには食塩の浸透によるMfのNaCl溶解性の低下が寄与した。
スサビノリは食用として広く利用されており,様々な健康機能性について報告されている。本研究では,これまで検討されていない脂質吸収に及ぼす海苔の影響を海苔微粉末ならびに海苔微粉末加熱物を用いてラットで検討した。その結果,油と加熱した海苔微粉末を投与した群で有意に血中脂質濃度が高い値を示した。この作用を明らかにするために,海苔抽出物の膵リパーゼ活性への影響,海苔試料の粘性が脂質吸収に及ぼす影響,海苔試料の脂肪球サイズ比較について検討したが,作用を説明できる結果は得られなかった。
本稿の目的は,フィリピン共和国パナイ島バタン湾産水産物をめぐる流通実態および主体間関係の解明である。流通のステークホルダーに対し,調査票を用いた面接調査を行った。国内で完結する生鮮魚介類フードシステムにおける主体間関係の検討より,一部の流通業者による独占や寡占といった状態は形成されていないと判断できた。そして,流通業者の調達・販売の困難さが増しており,集荷競争が激化していた。旺盛な需要が資源減少を招き,さらに集荷競争激化により資源減少が強まる可能性が示唆された。
チャネルキャットフィッシュの日周活動性とLED照明による捕食抑制効果について調べた。本種は昼間は隠れ場からほとんど動かないが,日没後から活動を始め,夜間に活発に行動した。本種によるヤマメの捕食数の平均値は,自然日長区で3.25尾,常時LED照明点灯区で0.29尾であり,常時照明することにより捕食が抑制された。チャネルキャットフィッシュによる在来有用魚種の食害は,夜間に周囲を明るくすることで軽減できる可能性が示唆された。
日本水産学会誌第83巻3号(May 2017)419-421頁の「話題 一般社団法人日本トロール底魚協会の紹介と当協会が実施したがんばる漁業復興支援事業の結果について」(秋本)に誤りがありましたので,訂正いたします。
(421頁)
誤: 2017年に創立50周年を迎える当協会は,かつて所属漁船380隻余りを数え,世界でも冠たる団体であった。
正: 2018年に創立50周年を迎える当協会は,かつて所属漁船380隻余りを数え,世界でも冠たる団体であった。