クロマグロの資源評価には,統合型資源評価モデルが用いられており,漁獲物を代表するサイズ組成は,重要な入力情報のひとつである。本研究では,24道県から収集した定置網漁業の漁獲量とサイズ組成データを層化し,一般化線形モデルによる基準を用いた段階的引きのばし手法により,日本沿岸で漁獲されるクロマグロのサイズ組成を推定した。結果より,定置網で漁獲されるクロマグロのおよそ60%は,秋季から冬季に漁獲される0歳魚であること,1歳魚以上は夏季から冬季の本州太平洋側北部や青森県以北で主に漁獲されることが示された。
クロマグロThunnus orientalisの資源管理が強まる中,定置網漁業では同小型魚とその他を獲り分ける技術の開発が求められている。クロマグロとその他魚種の網内の行動に違いがあれば,それを利用した獲り分けが期待できる。ここでは,クロマグロ小型魚とブリSeriola quinqueradiataの網内行動を,超音波テレメトリーでモニタリングした。その結果,クロマグロでは第2箱網と第1箱網間の行き来が,ブリでは金庫網への入網が確認された。こうした違いを利用すれば,両種の選別漁獲の可能性がある。
北太平洋中西部で1999年から2013年に行われた調査用流し網の操業回別目合別のヨシキリザメ尾鰭前長組成にSELECT法を適用し,流し網の選択性曲線を推定した。この曲線を用いて採集物尾鰭前長組成における偏りを補正して資源の尾鰭前長組成を推定した結果,採集物では大型個体の尾数が過小評価されていた。また魚体の胴周長始め各部周長を計測し,最適尾鰭前長におけるそれらを網目内周長と比較することで,ヨシキリザメは吻部から口裂までが網目内に入り,その後網糸が魚体に絡むことで漁獲されることが示唆された。
ウナギ目葉形仔魚(レプトセファルス)の餌料源を探索するため,西部北太平洋で採集した仔魚26個体の消化管内容物を観察した。いずれの消化管内容物とも,粒径2-10 μmのピコ・ナノプランクトン様の微粒子を多く含み,Alcian Blue染色される多糖類やCoomassie Brilliant Blue染色されるタンパク質で構成された無定形の凝集物であった。本調査結果は,レプトセファルスが外洋に広く存在する植物プランクトン由来のPOMを餌料源のひとつとして利用していることを示唆している。
大分県国東地域の伊呂波川と桂川に調査用石倉かごを設置し,採集されたニホンウナギと水生動物群集の関係を,ニホンウナギの食性を中心に解析した。石倉内の動物群集は,河口からの距離,底質,水温により,カニ類とウミニナ類が優占する下流グループとテナガエビとイシマキガイが優占する上流グループに分けられた。ニホンウナギの約半数が石倉で採集された水生動物を摂餌し,上流の個体はイソガニ属,下流の個体はアナジャコ類を主食した。以上の結果から,本種とその餌生物の採集調査器具としての石倉かごの特性が明らかになった。
北海道寿都町沿岸において植食性巻貝のクボガイを対象に,分布,生殖周期および食性を調査した。その結果,本種は9-11月に潮間帯から潮下帯に移動した後,5-6月に再び潮間帯に移動した。また,本種の産卵期は7-9月の年1回と推察された。さらに,本種は底生珪藻類を周年摂餌するものの,11-3月には配偶体,幼胚体および幼胞子体を含む大型海藻の摂餌量が増加した。これより,当該海域におけるクボガイは,大型海藻群落の形成に少なからず影響を及ぼしている可能性が示唆された。
水温が上昇する夏季にミズダコが浅所から深所へ移動する要因を探るために,飼育下で未成熟ミズダコの日間成長率,日間摂餌率,餌料転換効率を水温別に調べた。その結果,日間成長率は10.0℃を頂点にして水温の上昇とともに低下し,20.0℃ではマイナスとなった。日間摂餌率は15.0℃以上で低下した。餌料転換効率は2.5-5.0℃で高く,水温の上昇とともに低下し,20.0℃ではマイナスとなった。したがって,夏季から春季にかけてミズダコは水温上昇に関連した生理的変化により,次第に深所へ移動すると考えられた。
日本国内の7カ所の生産施設で生産された人工アユ集団と海産遡上アユ5集団および陸封アユ2集団の天然アユ集団の計数形質を比較したところ,胸鰭と臀鰭の鰭条数,側線上方横列鱗数,脊椎骨数に違いが認められた。人工アユと天然アユの由来判別で,簡便で有効性が高い形質は背鰭第5条を起点とした側線上方横列鱗数であった。人工アユに特異的な下顎側線孔数の欠損や耳石結晶化は発生率が高ければ由来判別に有効であると考えられた。
短期間でセタシジミを高品質化する目的で,給餌条件を検討した。その結果,5日間のブドウ糖または可溶性デンプン給餌により体内グリコーゲン量が増加すること,24時間のユーグレナ給餌によりそれを体内に取り込ませることが可能であること,24時間のグリシン,アラニン及びタウリン給餌により体内遊離アミノ酸濃度を増加できること,高浸透圧下でのグリシン給餌によりグリシンの取り込みを促進できることが確認された。以上の結果から,これらの技術を用い,短期間蓄養による二枚貝の高品質化の可能性が示唆された。
新たな輸入防疫制度の申請対象となったテナガエビ類の流通状況を,2016-2017年に神奈川県,愛知県,大阪府,広島県の釣具店で調査した。新制度施行前は,中国から輸入された外来種チュウゴクスジエビが購入個体数の83-93%を占めた。2016年7月の施行後は,国内産地から供給された在来種スジエビが83-100%を占めた。しかし,広島県や愛知県では施行後もチュウゴクスジエビが5-11%含まれ,国内産地の一つである岡山県で採集されたことから,国内に定着した本種が釣り餌として流通していることが判明した。
三陸産・鳴門産・中国産および韓国産の原藻わかめ・湯通し塩蔵わかめおよび乾わかめについて,炭素・窒素同位体比とSr濃度に対する10元素濃度(Mg, P, Ca, Mn, Fe, Zn, As, Rb, Cd, Ba)の常用対数を取った数値を組み合わせて産地判別を行った。三陸・鳴門・中国および韓国の4群を正準判別分析した結果,各判別率は,90.5% (n=169), 100% (271), 100% (252), 83.8% (74)となり,加工度によらず,わかめ加工品の産地判別の可能性が示唆された。
シラス(イワシ類稚仔魚)の冷蔵保存中に発生する自己消化について,魚体プロテアーゼ活性の経時変化やプロテアーゼの種類および漁獲時の魚体にかかる圧の影響を測定した。モデル試験で魚体に圧力を加えると冷蔵保存中の自己消化が促進した。また,冷蔵保存中には保存温度に依存してプロテアーゼ活性の上昇がみられ,その原因としてセリンプロテアーゼ(主にキモトリプシン)の酵素活性値が高くなることをプロテアーゼ阻害スペクトルから明らかにした。卵白はシラス魚体溶解の原因プロテアーゼに対して強い阻害効果を示した。
冷凍カツオ肉の解凍後の肉色保持を目的に解凍前の温度変更処理を検討した。−6℃,−8℃のNAD加水分解酵素活性を求めるとそれぞれ3.7×10−3,2.8×10−3 μmol/(g・min)であった。−6,−8℃で24時間の温度変更処理でNAD+濃度がそれぞれ3.8,5.2%にまで減少した。5℃-1日後のpHは,無処理では5.6まで低下したが,温度変更処理区は6.3以上の値を保った。5℃-1日後のメト化率は,真空包装した温度変更処理区のみ上昇が抑制され,無処理はいずれも大きく上昇した。
本研究は北海道然別湖における固有種ミヤベイワナを対象とした遊漁を事例として,遊漁者の満足度の観点から持続可能性を評価した。遊漁者への聞き取りアンケートの結果を解析した結果,遊漁者は1人1日当たり約15尾の釣果を得る事でリピーターとなりうる満足度に達し,この釣果は現状の資源水準を維持する事で期待できると考えられた。さらに,遊漁者による地域経済での消費も認められ,遊漁規則で遊漁による減耗は資源を維持できる範囲に抑えられており,ミヤベイワナ遊漁は持続可能で,本種の保全と両立していると考えられた。
キアンコウの外部形態である瘤状鼻管幅の性的二型を利用した性判別法の精度を検証した。体重1 kg以上のキアンコウの全長(TL)-瘤状鼻管幅間の雌雄別回帰式は,雄が相対的に大型の瘤状鼻管幅を示した。両回帰式の±20%の範囲で性判別した正答率は,400-499 mmTLで93.0%,500-899 mmで94.9-96.0%,≥900 mmで100%を示し,400 mmTL以上で実用的な性判別法と判断した。雄の大型の瘤状鼻管は産卵行動に関連し,雌のフェロモンを感知するのに有効と考えられた。
放流種苗に耳石温度標識魚と無標識魚が混在し,遡上期の捕獲施設が中流域にある北海道南西部のサケ増殖河川,遊楽部川において,2015年度の遡上時期に上流域および下流域で自然産卵後斃死した親魚(ホッチャレ)の耳石温度標識の割合からふ化場魚と野生魚を推定した。その結果,上流域では,期間を通じて自然産卵個体のほとんどがふ化場魚であると推定された。下流域では,標識魚は期間を通じて放流時の標識率を下回り,自然産卵由来の野生魚とふ化場魚が自然産卵していることが示された。
外来種チャネルキャットフィッシュの小河川への侵入状況を明らかにするため,茨城県北浦に流入する雁通川と蔵川の中・下流域および河口付近の湖岸において,夏季の夜間に置き針による採集調査を実施した。その結果125個体(体長21.0-60.5 cm)が採集され,両河川ともに河口から約1 kmの中流域(雁通川で垂直堰の下流側,蔵川で緩傾斜堰の上流側)まで侵入していた。本種の個体数密度と環境要因との関係を一般化線形混合モデルで解析したところ,AICを基準に選択した上位モデルでは水深と泥分が正の要因,流速が負の要因として選択された。
日本水産学会誌第83巻6号(November 2017)1025頁の「シンポジウム記録 水産資源管理の国際協力 Ⅲ-1. 日本型共同管理アプローチ」(牧野)に誤りがありましたので,訂正いたします。
(図1の見出し)
誤: 図1 水産システムの概念図(水産機構2017)
正: 図1 水産システムの概念図(水産機構http://sh-u-n.fra.go.jp/から引用)