近海かつお一本釣りにより九州周辺で漁獲されるカツオの体長,肥満度および遺伝的特性を比較した。九州西方漁場では尾叉長50-60 cm FL付近主体で肥満度の高い群が大半を占め,40-70 cm FLの複数の体長群が出現するトカラ列島漁場とは異なった。mtDNA分析では異なる集団と判断されなかった。海洋条件も考慮すると,トカラ列島周辺に分布する魚群のうち,約50-60 cm FLで肥満度が高い個体のみが黒潮流路付近の水温フロントを超えて九州西方海域に北上する,サイズスクリーニング現象が起こっていると推察された。
底魚類(魚類)全体の資源量と持続生産量の推移を推定し,過去の漁業規模の中から適正規模を推測した。動態モデルは余剰生産モデル型の近似式,データは1894-2013年の漁獲統計と近年の漁獲率のシリーズ,統計モデルは観測誤差モデルである。基本シナリオにおける推定結果では最適生産量は漁獲係数が0.21(年当たり)のときの147万トンであった。漁獲係数が0.21に最も近い1973年と2013年が適正規模となった。
トラフグはえ縄漁業における底はえ縄と浮はえ縄の釣針選択性の比較を目的に本研究を実施した。操業試験で得たデータを用いて,北原の方法により釣針幅を基準とした釣針選択性を求めた。両漁法の選択性とも,刺し網等の網目選択性に比べて非常に緩やかであった。特に浮はえ縄でその傾向が顕著で,漁具に遭遇した集団をサイズに関係なく漁獲している可能性が示唆された。また,浮はえ縄の設置水深帯には,概ね全長48 cm以下の個体しか分布していない可能性が示され,トラフグは成長に伴い分布が鉛直的に変化する可能性が強く示唆された。
人工漁礁におけるモニタリング結果をもとに,蝟集・増殖した優占3魚種の摂餌・成長・漁獲の季節変動を魚類の生理および摂餌生態から見積もった。1尾当たりの平均日間摂餌量は,メバル属の稚魚,成魚,カサゴ稚魚,成魚,クロダイで,それぞれ1.7, 4.6, 1.3, 2.1, 56.0 g day−1と計算された。魚礁造成後6か月から1年間の漁獲量は,メバル属138 kg,カサゴ11 kg,クロダイ681 kgと見積もられた。
スジエビには遺伝的に異なる2タイプ(AとB)が知られているが,簡便に判別できるマーカーがない。18S rDNAの塩基配列に基づき,これら2タイプを判別するマルチプレックスPCRアッセイを考案した。日本における本種の分布範囲を網羅する152地点で採集した422個体を分析したところ,各タイプ特有の断片を併せ持つ個体,すなわちヘテロ型は観察されず,AとBタイプは生殖隔離しているものと考えられた。両タイプとも全国的に分布するがAタイプは河川及び湖沼に分布する一方,Bタイプは河川のみで見られた。
水底放射能測定装置「みなそこ」を用いて,栃木県中禅寺湖の湖底土に吸着した放射性セシウム(137Cs)のマッピング調査を実施した。137Cs蓄積量(Bq/m2)は,水深が深い場所ほど多くなる傾向が認められた。ただし,蓄積量は水深毎に一様ではなく,とくに水深2 m以浅では場所毎の差異が大きいことが示された。化学分画分析により,湖底土の放射性セシウム蓄積量は有機物成分よりも無機物成分でより大きい値を示すことがわかった。
三重県外湾漁業協同組合所属の13漁港における2014年4月20日~8月31日のパネルデータを用いて,マトウダイの産地市場価格形成について検討する。一般的に,産地市場では供給量が価格に反応しないと考えられるので,価格と数量のデータは右下がりの需要曲線に従うことが予想される。しかし,漁獲物の品質・全国価格・代替財価格・気象条件などを考慮した回帰分析の結果,当該魚種では数量と価格の間に右上がりの関係があることが示された。このようなパターンが観察される理由に関し,本研究ではいくつかの可能性を提起する。
内水面漁協の経営改善のため,アユとイワナ,ヤマメ等の渓流魚の放流事業の採算性を検証した。アユ,渓流魚ともに,放流経費と漁業権行使料・遊漁料の受入額の間に有意な正の直線関係が認められた。回帰式の傾きはアユでは0.55,渓流魚では1.20であり,アユのほうが有意に小さかった。このように,アユでは放流経費の約半分しか漁業権行使料・遊漁料で回収できておらず,アユの放流事業の採算性は低かった。放流経費と漁業権行使料・遊漁料の受入額の関係から,アユ,渓流魚それぞれについて放流事業の収支の評価指標を作成した。
美鈴湖におけるワカサギ釣りの実態と経済波及効果を調べるため,来訪者へはアンケート,管理会社からは運営について聞き取りを行った。2016年の来訪者数は3,135-4,034人の範囲と推定した。年齢構成は30-40代が50%で,来訪者の33%は家族で訪れており,女性の割合は15%で他の内水面の釣りより多かった。県外からの来訪者は19%で,うち43%は宿泊し,主に近隣の温泉地を利用していた。釣り場の運営による経済波及効果は1,707-1,984万円の範囲と推定され,地域社会と経済への貢献が確認された。
漁業者行動は通常,合理性に基づいてモデル化される。一方,個々の漁業者は不確実性下で異なるリスク態度をとる事実も知られる。不確実性下の意思決定の観察結果は,期待効用仮説による説明としばしば異なる。過度に単純化された漁業者行動モデルは,漁業管理方策への適用にあたり注意が必要であろう。行動経済学の研究成果は,意思決定の合理性の破れがプロスペクト理論で説明できることを示したが,理論の有用性は漁業管理研究では十分に知られていない。本研究ではプロスペクト理論の可能性を概観し,漁業者の様々な性向を探究する。
尻別川水系において,河川分断化解消後の在来サケ科魚類サクラマスとイワナの生息密度に外来サケ科魚類が与える影響を調べるために野外調査を行った。サクラマスの生息密度は支流によって異なったが,外来サケ科魚類の影響は検出されなかった。イワナの生息密度は,外来サケ科魚類がいる調査区ではいない調査区よりも低くなる傾向にあったが,低下の程度は支流によって異なった。
懸賞企画による水産物の消費喚起効果を懸賞当選者へのアンケートで調べた。その結果,懸賞企画が直接的に購買行動を喚起あるいは誘客した効果(一次効果)は回答者の57.2%で認められた。また,懸賞企画の二次効果として,当選賞品の喫食後に水産物の喫食頻度が以前よりも高まったとする変化は回答者の71.0%で認められ,その程度は平均1.3倍であった。この二次効果は一次効果がなかった回答者においても認められた。以上のことから懸賞企画は短中期的に水産物の消費喚起に寄与したと考えられた。
日本水産学会誌第84号2号(March 2018) 241-253頁「北海道オホーツク海沿岸域におけるクロロフィルaと環境要因の季節変動について」に誤りがありましたので,訂正いたします。
誤: Table 1 Temperature, salinity, nutrient concentrations, chlorophyll a concentration and percentage contribution of large (>10 μm) phytoplankton to chlorophyll a concentration on June 9, 2015
正: Table 1 Temperature, salinity, nutrient concentrations, chlorophyll a concentration and percentage contribution of large (>10 μm) phytoplankton to chlorophyll a concentration on June 9, 2014