実験水槽を遊泳するマサバ1個体の3次元行動軌跡を,ステレオ画像記録から自動的に計測するために状態空間モデルであるパーティクルフィルタを適用した。画像処理でセグメント化したステレオ画像に映るマサバをパーティクルフィルタで自動追跡し,DLT法で3次元位置を計算した。計算した3次元遊泳軌跡をカルマンフィルタで平滑化し,尤もらしい遊泳軌跡を推定できた。海中での計測では波浪による動揺の影響があるためすぐには適用できないが,陸上水槽では問題なく使用できる。
高知県土佐市宇佐漁港内の沖堤防にある造成カジメ海中林の魚類群集の構造を2年間にわたり毎月潜水観察で調べた。その結果,造成カジメ海中林は,メジナやブダイなどの周年定住種だけでなく,ムツなどの季節定住種やアオヤガラなどの一時来遊種にも利用されていた。また,造成カジメ海中林の魚類群集の構造を高知県幡多郡田野浦にある天然のカジメ海中林のものと比較したところ,両者に大きな違いは認められなかった。したがって造成カジメ海中林は,魚類にとって天然カジメ海中林と同様の生息場機能を果たしていると考えられた。
島根県の浜田漁港において水揚げされる3種のカレイ(ヤナギムシガレイTanakius kitaharai,ムシガレイEopsetta grigorjewi,ソウハチCleishenes pinetorum)の体成分(遊離アミノ酸,脂肪酸など)の季節変動を調査した。その結果,脂肪酸組成やタウリン含量が年間を通じて全魚種で大きく変動した。うま味成分であるイノシン酸は年間を通じて筋肉100 g当たり25 mg以上含まれていたが,グルタミン酸含量は少なく季節変動も僅かであった。一方で,粗脂肪の含量は秋季が高かった。
天然貝から栄養状態の優れたアコヤガイを選抜育種することを目的に,血清中総炭水化物含量を指標として親貝を選別し種苗生産した。高含量親貝由来の家系は低含量由来に比べ血清中総炭水化物含量が高く,血清タンパク質含量と閉殻筋グリコーゲン含量は高い傾向,閉殻筋の赤色度は低い傾向にあった。高含量由来の家系と継代された日本貝,中国貝由来の2家系を母貝に用い真珠生産試験をした結果,高含量由来の家系は日本貝家系に劣らない成績であった。この結果から血清中総炭水化物含量による天然貝からの選抜が有効であると示唆された。
短期間にヤマトシジミを高品質化する目的で,給餌条件を検討した。その結果,0.1 g/Lの可溶性糖源では効果がなかったのに対し,同濃度の米粉給餌によりグリコーゲン量が約2.2倍に増強されたことから,懸濁物食のヤマトシジミにとって不溶性餌料が効果的であること,塩分濃度0.5%から1%への高浸透圧処理と環境水中へのアミノ酸投与を併用することでグリシン,プロリン,アラニン及びグルタミン酸を増強できることが分かった。
クドアが寄生したヒラメの刺身で食中毒の発生が報告された。寄生虫対策の冷凍処理は刺身商材の商品価値を著しく損ねると考えられている。本研究ではATPのタンパク質変性抑制作用に着目しヒラメの高品質冷凍解凍刺身の製造法について検討した。ヒラメを活けしめ後,魚肉中に高濃度ATPが残った状態で急速凍結し,解凍硬直を抑制した緩慢解凍を行うことにより筋原線維タンパク質の変性が抑制され高品質刺身性状を示した。また,ヒラメミオグロビンのメト化率測定法を確立し,ATPは冷凍保存中のメト化を抑制することを明らかにした。
ホタテガイ冷凍貝柱の臭気に寄与する臭気成分を推定するため,生鮮貝柱と冷凍貝柱の臭気を官能評価およびガスクロマトグラフにより分析し,各データを多変量解析に供した。主成分分析の結果,第1主成分は生鮮貝柱と冷凍貝柱を区分する因子であり,(5Z)-octa-1,5-dien-3-ol, 1-octen-3-olは冷凍貝柱の臭気に寄与の高い成分であった。これら2成分を用いた判別式により臭気の強さを予測した結果,実測値と予測値はよく一致していたことから,冷凍貝柱の臭気を客観的に評価できる可能性が示唆された。
米糠と高濃度の食塩と共に発酵したマサバへしこの水分活性(aw)に及ぼすNaCl(Na)の寄与率を検討した。へしこやその構成素材のawは,一定水分量当たりの乾燥重量濃度の増加と共に直線的に低下する一次関数で表され,その直線の傾きをaw低下係数(C)とした。2種の素材からなる混合物のCは,素材毎のCの和となることから,へしこのawに及ぼすNaの寄与率は,へしこ全体のCに対するNaに起因したCの割合で表されることを示唆した。市販へしこのその寄与率は76.5-94.1%となり,Na濃度に依存しなかった。
適切な管理の下での希少魚を対象とした遊漁は,遊漁者の消費を通じて希少魚を保全する社会的・経済的根拠を強める。本研究では,北海道然別湖におけるミヤベイワナ遊漁と,朱鞠内湖におけるイトウ遊漁において,遊漁者の消費実態を明らかにした。どちらの湖ともに,全国各地から遊漁者が訪れていた。遊漁者がそれぞれの湖で釣りをするために消費した金額は,然別湖では年間3,328万円,朱鞠内湖では4,156万円と推定された。このうち,交通費以外はほぼすべて遊漁料や宿泊滞在費として釣り場近隣地域で消費されたと考えられた。
シンガポールにおいて好まれる料理を魚種・調理法・調味料という観点から分析した。データは,現地で2015~2016年の間に7回の試食会を実施して得られた194名の34種類の料理に対する五段階評価である。順序ロジット,一般化順序ロジット及びheterogeneous choice modelを使った分析の結果,シンガポール在住の日本人は生で提供される料理に対する評価が他の料理に比べて低いこと,また他のシンガポール住人はエビカニ類・赤身魚・白身魚が入った料理や揚げ料理を好むことが明らかとなった。