以東水域の底魚類(魚類)全体の持続生産量曲線,漁業センサス及び漁業経済調査等を利用し,1973-2013年の最適生産量(OY)を推定した。OYは底魚類全体の最大純経済生産量と定義した。収入曲線に対する支出曲線の位置が下がったことにより,OYは1973年の400億円から2013年には1,960億円に増加した。2013年の魚価と支出曲線を用いて計算したOYを達成するための漁獲係数は同年の推定値の84%である。
外洋域に分布するヒラマサ3種(Seriola lalandi, S. dorsalis, S. aureovittata)の遺伝的差異から集団構造を明らかにするため,北西太平洋(日本沿岸,北西太平洋外洋,天皇海山)およびタスマン海で漁獲された個体を用いて,mtDNAのND4,CRおよびCOI領域の塩基配列を分析した。その結果,北西太平洋の4つの漁獲地点の個体間に遺伝的な差はなく,これらの北太平洋と南太平洋のタスマン海の集団間には有意な差があることがわかった。
日本におけるニホンウナギの自然分布域を明らかにするために,文献調査からシラスウナギの来遊記録をまとめ,耳石安定同位体比分析に基づく判別手法から全国の河川・湖沼から収集した個体を天然加入個体と放流個体に判別した。その結果,九州一帯,瀬戸内海沿岸,青森県以南の太平洋沿岸,京都府以南の日本海沿岸は自然分布域の主要部,福井県から青森県までの日本海沿岸は自然分布域の縁辺部と推定された。しかし,主要部であっても天然加入個体の割合が3割程度以下の場合もあり,資源が放流個体に依存している状況がうかがえた。
2016年夏季に八代海で発生したChattonella赤潮について,モニタリングデータを統合し,発生要因ならびに養殖ブリ斃死との関係を解析した。Chattonella赤潮は,気象擾乱に伴う表層栄養塩濃度の上昇後,再び成層化した9月上中旬に中部から南部で急速に発達した。養殖ブリの斃死率は漁場ごとの成層強度を反映したChattonella細胞密度の高低や増加のタイミングと対応しており,各漁場での海洋環境のリアルタイム監視が適切な時期に餌止め等の被害軽減策を行うために重要であることが示唆された。
海亀脱出装置から漁獲対象種が逸出する可能性を検討するために,海亀9頭の背甲に前・後方向に向けてビデオカメラ2台を装着して箱網内を遊泳させ,漁獲対象種の海亀からの逃避と海亀への追従遊泳の有無を調べた。また,脱出装置付近への出現種をタイムラプスカメラにより調べた。接近する海亀からすべての種が逃避した。一方,ブリ,カンパチ,ツムブリ,イシダイによる追従遊泳が観察された。脱出装置付近では33種の漁獲対象種が確認された。漁獲対象種の逸出を防止するためには,脱出装置の脱出部の確実な閉鎖が重要である。
降海型アメマスとサクラマスを狙ったルアー釣り遊漁において,鈎の形状および装着方法による掛かりやすさの違いについて検討した。本研究では一般的に用いられるトリプルフックと,フッキングダメージが小さいとされるシングルフック,一か所に2本のシングルフックを装着する方法の3種類について,掛かった魚のうち釣獲に成功した割合を比較検討した。その結果,シングルフックを2本装着する方法が,掛かりやすさと鈎による損傷軽減を最もよく両立し,キャッチアンドリリースを前提とした場合に有効であると考えられた。
サワラ稚魚豊度の指標を簡便安価に得るため調査にシラス漁獲物を用いる方法を検討した。6月から7月にチリメンジャコの製造工程で除去されたチリメンモンスターをシラス4,200籠分確保し,サワラ仔稚魚の混入数を計数した。解析期間は混入が認められた期間とし,シラス総水揚げ量と加工重量を補助変量とした比推定量を用いて混入数を推定した。その結果総水揚げ12,645籠に対する混入数は41,636±2,542尾と推定された。本方法は生シラス調査に比べて費用とサンプル量を99%以上削減できる点で効率的であった。
稚魚サイズのイワナの半天然魚と養殖継代魚での移動性の違いを明らかにするため,実験水路を用いて清水時と濁水時における移動性の比較試験を行った。9区のプールに分割した清水水路と濁水水路にそれぞれ両系統のイワナを放流した。イワナが移動したプールの区に対しての実験水路の条件(清水,濁水)と系統(半天然魚,養殖継代魚)の関係を解析した結果,濁水では系統に関係なくイワナは清水よりも下流側へ移動し,また,半天然魚は濁水では養殖継代魚よりも上流への遡上性が高い傾向があることが明らかになった。