重要な養殖対象魚種であるハタ科魚類の生殖生理機構の特性解明に取り組んだ。最初にヤイトハタ幼魚の生殖腺を形態学的に解析し,ハタ科魚類の性分化と性ステロイドホルモンの関係を調べた。次に小型のカンモンハタを対象に,性転換の生理機構を明らかにした。更に,これらの基礎知見に基づき未成魚および成魚の人為的性転換誘導技術の開発に取り組み,従来法に加えてアロマターゼインヒビターおよび生殖腺刺激ホルモンを用いた新たな性転換誘導技術を開発した。
マサバ対馬暖流系群のVPAによる資源評価では,毎年資源量推定値が下方修正されるレトロスペクティブパターンが存在した。このVPAでは年齢別漁獲尾数と資源量指標値がデータとして用いられ,自然死亡係数一定,漁具能率一定等が仮定されている。パターンが生じる原因を探るため,VPAで使用されるデータや仮定を変更してレトロスペクティブ解析を行いパターンの変化を見た。結果は,資源量指標値を用いない場合及び漁具能率の年変化を仮定した場合パターンがほぼ無くなり,漁具能率一定の仮定が原因となっている可能性が示された。
2007-2017年における豊後水道でのマサバ・ゴマサバの漁獲情報をもとに,両種の分布特性を調べた。豊後水道の北部ではマサバ,南部ではゴマサバが主体で漁獲されていた。東(愛媛県)側ではより北側にゴマサバが出現し,水温環境の水道東西での非対称性との関連性が示唆された。また,両種の当歳魚は4月から6月にかけて1歳魚以上に比べて沿岸域に分布が偏っていたが,7月には沖合にも出現するようになり,成長に伴い沿岸から沖合へ生息場所を拡げることが示唆された。
本研究では,CFD解析を用いて,エアレーションによって発生する流場を可視化した。加えて,クロマグロ仔魚を遊泳力のない粒子と仮定し,運動方程式から水槽内の軌跡をシミュレーションした。仔魚は気泡周辺の上昇流に乗って水槽内を鉛直的に循環し,壁面付近の下降流から底面へと沈降した。このとき,孵化後3日目の仔魚は2.1-2.4 mm/s,9日目の仔魚は8.0-9.0 mm/sの浮上流で沈降を防除できることが示唆された。今後は,本手法を応用することで,効率的な養殖水槽設計が可能になると考える。
ギンザケ養殖の給餌の省コスト・効率化を検討するために,従来の加水飽食給餌に対して,加水制限給餌および無加水飽食給餌で水槽飼育したギンザケの成長と増肉係数を比較した。乾燥重量ベースで飽食区の8-9割程度を与えた加水制限給餌では,終了時の平均体重が加水飽食給餌の0.95倍であったが統計学的な有意差はなかった。無加水飽食給餌区は加水飽食区と比べて摂餌量が少なく,終了時の平均体重は加水飽食給餌より有意に小さかった。
異なる重量比率で低塩分の米糠(糠)に漬け込んだへしこを1-2℃で1か月間貯蔵して脱塩した。その脱塩中のへしこと糠のawとNaCl濃度および水分含量の変化を調べた。水分移動をほぼ伴わない中で,awとNaCl濃度はへしこと糠間で平衡化した。その平衡awは脱塩前の両者のawと水分含量から予測できた。一方,乾燥固形物1 gがもたらす水100 gに対するaw低下作用の大きさを表わすaw低下係数が脱塩中に両者間で一致した時,水分含量も一致した。以上の結果は,脱塩へしこの品質制御に有益な技術情報を提供する。
水揚げ直後の滅菌海水あるいはオゾンファインバブル(OFB)曝気海水(気泡粒径;0.8-5.0 µm,粒子密度;1.6×1014個/L)での洗浄処理とその後の保存温度の違いがマボヤの品質に及ぼす影響を調べた。水揚げ直後のOFB処理と冷海水(2℃)での保存は,マボヤの生菌数の抑制や筋膜体の色調保持等に有効であり,その高品質化に繋がることが分かった。一方,海水氷への浸漬等による凍結温度前後での保存は,マボヤの組織や生理状態に大きなダメージを与え品質劣化を促すことが明らかになった。
放流効果及び遊漁釣獲量の推定法を概観し,1段クラスターサンプリングの場合の不偏推定量及び比推定量を整理した。シミュレーションによって混合比の性質を調べた。偏りは無視できる程度であったが,調査日数が少ないほど,データの変動が大きく分母分子の相関が負になるほど推定精度が低下した。既発表データを解析し,シラス水揚げ中のサワラ稚仔の混入比を0.064±0.033,サワラ稚仔の総数を14,658±7,464尾と推定した。精度は変動係数でみて0.51であった。水揚げの推定方法と精度について考察した。
令和元年9月8日∼10日に福井県立大学永平寺キャンパスで開催された令和元年度日本水産学会秋季大会では,これまでにない試みとして,学生及び若手研究者を対象としたポスターコンペティションが行われました。その結果,学生部門の最優秀賞1件,優秀賞3件,若手部門の最優秀賞1件,優秀賞1件が選出され,受賞者の表彰が行われました。そこで各受賞者に,受賞対象となった研究内容を中心に,受賞の喜び,研究・学生生活のこと,今後の抱負等を自由に書いていただきましたので,以下に掲載させていただきます。各人の今後の益々のご活躍とご発展を期待申し上げます。