和歌山県沿岸の表層型浮魚礁周辺で漁獲されたカツオの移動,食性,肥満度および成熟を調べた。浮魚礁での標識放流後に再捕された39個体のうち,25個体が放流元の浮魚礁での再捕であった。胃内容物分析では,各漁獲日における餌生物の摂餌個体率は0-28.6%であった。卵巣の観察では,未熟段階が全体の76.9%と多く,産卵可能な状態の個体は少なかった。以上より,浮魚礁は高い集魚効果が示唆されたが,その周辺は必ずしも摂餌場となっているとは限らず,産卵規模は小さいと考えられた。
イサザの資源変動要因に関する基礎的な知見を得るため,水深別の曳網調査を行ってイサザ仔魚の鉛直分布を把握した。また,仔魚の初期餌料ならびに成長に伴う食性の変化を調査した。イサザ仔魚の分布は前屈曲期仔魚では深度に関係なく低水温帯(10-15℃)に分布したが,屈曲期以降の仔魚は水温躍層の下部に分布していた。イサザ仔魚の初期餌料はこれまで報告があったノープリウス期のカイアシ類のほか,ハネウデワムシが確認された。成長した屈曲期以降の仔魚は主にヤマトヒゲナガケンミジンコを捕食していた。
鹿児島産の一年生アマモを用い,本種の光合成に対する温度の影響や光と温度の複合応答,生育環境中の個体群での光合成の日周変化を明らかにした。実効量子収率の温度への応答は8-28℃で高かったが,より高温で低下した。光と温度の複合応答では,低温強光条件で顕著に低下し,その後の暗馴致でも初期値まで回復しなかった。光合成・温度曲線は,総光合成速度が31℃で最大となったが,より高温で低下し,実効量子収率と似た傾向を示した。群落での水中測定では,実効量子収率が光に対して負の応答を示し,正中前後で最低となった。
クエ6歳魚に対して,17α-メチルテストステロン(MT)のコレステロールペレット処理を行い,雌から雄への性転換を誘導した。試験区はMTペレットを2月に処理するA区(MT 1 mg/kg BW)とB区(MT 2 mg/kg BW)および4月に処理するC区(MT 2 mg/kg BW)とした。A区およびB区ではMT処理から4か月後において,雄の割合が67%であった。一方,C区では2か月後に全ての個体が雄となるとともに,14か月後においても雄の状態を維持していた。このように,クエ6歳魚に対して,4月にMTのペレット処理(MT 2 mg/kg BW)を行うことで,確実に雄を確保できることが明らかとなった。
ユズ搾汁後の残滓の活用を目的に,ユズ果皮粉末(YP)を3%添加した飼料でキジハタを4週間飼育し,成長および脂質酸化に与える影響を評価した。YPは抗酸化活性を示し,抗酸化活性に関与する4つのフラボノイドを同定した。YP添加区と無添加区のキジハタの成長・生化学マーカーに差は見られなかった。一方,脂質酸化の指標であるTBARS値はYP添加区の血清・肝臓で低値を示し,4℃で24時間保存した魚肉でTBARS値の上昇が抑制された。YPの給餌はキジハタの成長に影響を与えず脂質酸化を抑制することが示唆された。
マダイの熟成(0℃)が呈味性に及ぼす影響を,塩締めおよび脱水シートの有無,熟成期間の違いによって調べた。また,熟成によるエキス成分の抽出性の変化も調べた。脱水シートはエキス成分の抽出性を低下させ,塩化ナトリウムはドリップ量を増大させ,うま味成分の抽出性を低下させた。イノシン酸(IMP)は熟成3日以降低下するのに対して,グルタミン酸(Glu)は熟成14日まで増加した。IMPとGluの濃度から算出されるうま味強度は,熟成1日がピークとはならず,少なくとも熟成5日まで高い値を維持することが確認された。
イムノクロマト法を用いたテトロドトキシン(TTX)検査キットの有効性について検討した。マトリックス非存在下では,0.0125-0.2マウス単位 (MU)/mLの濃度範囲で,テストプレートに形成されるCラインとTラインの強度比(T/C)とTTX濃度の対数の間に強い負の相関が認められ,終濃度約0.06 MU/mLを検出限界として目視によりTTXの有無を判定することができた。一方,マトリックスが存在する場合,その影響を前処理で低減しても偽陽性が出やすかったが,偽陰性は全く認められなかった。
日本の漁業への先端技術の活用は2010年代から推進されてきたが,現場への普及には工夫が必要とされている。本研究は,北海道礼文町に試験的に導入された技術「ユビキタスナビ」を例に,その普及の実態と促進策を考察した。漁業者への質問紙調査と聞き取りから,対象技術は,認知度と,有益性の知覚度合いの低さのために普及が途切れているとわかった。本研究から,スマート水産業を目指す上では,導入対象者が技術の存在と利点を知覚する必要があり,技術の改良だけでなく,漁業者への適切な情報発信が重要であると示唆された。