日本水産学会賞:
松山倫也
日本水産学会功績賞:
落合芳博
水産学進歩賞:
木谷洋一郎,西堀尚良,渡邊龍一
水産学奨励賞:
谷村 文
水産学技術賞:
伊丹利明,内田圭一・萩田隆一・向井 徹・今井圭理・清水健一・八木光晴・山中有一・三橋廷央・磯辺篤彦・黒田真央,安元 剛・廣瀬美奈,山本義久
エビ類の生理生化学的研究と新養殖技術開発への応用
Physiological and Biochemical Research on Commercially-Important Shrimp Species and Applications to the Development of New Aquaculture Technology
マーシー・ニコル・ワイルダー氏は,エビ養殖産業の安定化を図るため,30年以上にわたりエビ類の生理生化学的研究と養殖技術開発へ向けた応用研究を行い,基礎研究により得られた知見を養殖産業という実用化の段階まで応用・普及させた。
(東大名誉教授 金子豊二)
漁獲量が大幅に減少しているキンメダイBeryx splendensの種苗生産を目指し,精子を冷蔵保存する溶液を開発した。塩濃度,pH等の条件を変えた種々の溶液に精子を懸濁し,一定期間冷蔵保存した精子の運動率を測定した。その結果,わずかに低張のNaCl溶液に低濃度のKClとCaCl2,さらにグルコースとグリシンを加えたpH 7.5の溶液で長期の保存効果が得られ,最長81日間,運動能を保持したまま精子を冷蔵保存することができた。この溶液で24日間冷蔵保存した精子は受精能を保持していた。
石川県の伝統食品であるふぐの子糠漬けは,一般には食用が認められていないゴマフグ卵巣を原料に,塩漬けと糠漬け工程を経て製造される。本製品の毒性検査はマウスを用いた動物試験であるが,将来的な機器分析法への移行に備え,機器分析に適した前処理法を開発し,食品としての安全性が担保できるか検討する必要がある。本研究では,活性炭カートリッジを前処理に用いて,ふぐの子糠漬けに含まれる塩類を効率よく除去し,テトロドトキシン類を高回収できる手法を開発した。本法を市販のふぐの子糠漬けに適用し,規制値との関連を調べた。
養殖ブリの血合筋を純酸素ガスまたは空気中にて10℃で3日間保存し,その褐変進行に及ぼす微細構造と細胞化学的Mg2+-ATPase活性の変化を検討した。血合筋の感覚色度a*値は保存期間を通じて酸素保存は空気より有意に高値を,b*値は保存1日目に酸素保存が空気よりも有意に高値を示した。肉眼的にも,酸素保存は空気よりも血合筋の褐変進行の遅延が認められた。血合筋の微細構造は酸素保存が空気よりも崩壊の程度が小さかった。そのMg2+-ATPase活性は酸素保存が空気よりも失活が遅い様相が観察された。
鮮魚の脱血程度を評価するための新規技術について検討した。マアジ活魚に対し異なる脱血処理を行った結果,筋肉中のヘモプロテイン含量減少には,鰓の切断が最も効果的であった。線形回帰分析の結果から,脱血による筋肉中ヘモプロテイン含量の変化は,画像解析から得られた可視血管面積比率および筋肉色調の変化と相関を示した。特に,ヘモプロテイン含量と背側体節動脈を主とした血管面積(%)の間には強い相関が成立した。本研究結果は,血管面積の変化を用いた画像解析により,マアジの脱血程度を評価可能であることを明らかにした。
日本の内水面の漁業協同組合(以降,組合)における水産資源の増殖経費の実態を理解するため,2010,2017事業年度の全国の組合の業務報告書の記載内容を解析した。総支出額に占める総増殖経費(義務増殖経費と自主増殖経費の合計)の割合の平均値は2010年に35.8%,2017年に35.2%,総支出額に占める義務増殖経費の割合の平均値は2010年に27.6%,2017年に23.6%であった。組合は平均で義務増殖量(目標増殖量)の2010年に1.8倍,2017年に1.7倍の金額分の増殖を行っていた。
様々な産地水産卸売市場から取得した取引データを統合するのは困難が伴う。本報ではいわて大漁ナビを例にとり,市場での販売形態を意味する規格を中心に探索的データ分析を実施し,その品質を検証した。規格を統一しても販売単価の分布が乖離すること,規格によっては水揚量0の状態で正の水揚金額を持つデータが多くあることが観察された。完全に統制されたデータを取得できない可能性があるという前提に立ったうえで,システム内で異常値を検出・修正する仕組みを持つこと,データの管理責任を持つ役職を作り対応すること等が望ましい。
2022年3月に閣議決定された新水産基本計画は,2018年の漁業法大改正の後,初めて策定された基本計画であり,今後数十年の我が国の水産政策の基本的な方向性を示す重要な計画でもある。よって水産政策委員会では,この新水産基本計画に着目したシンポジウムを開催した。なお,水産資源評価・管理に特化したシンポジウム等は別学会(日本学術会議,水産海洋学会等)でも企画されており,また,増殖,利用加工,環境保全,教育などについては,それぞれ水産学会内に別委員会がある。よって本シンポジウムでは,水産に関するすべての学問分野をカバーする本学会の特徴を踏まえ,新水産基本計画の全体像を意識した俯瞰的議論を行うとともに,水産の現場と研究の乖離を埋め,実効的な水産政策を実施するために水産科学はどうあるべきか,現場と協働した水産科学の可能性という観点からの発表と議論を行った。
〈プログラム〉
日時:2022年9月17日(土)9:30~17:30
場所:オンライン
趣旨説明
牧野光琢(東大大海研)
基調講演:新水産基本計画の狙いと水産業の将来像
山里直志(水産庁企画課)
Ⅰ.第一の柱 海洋環境の変化も踏まえた水産資源管理の着実な実施
1. 資源評価の最新理論と政策
北門利英(海洋大)
2. 沿岸資源の評価と管理
片山知史(東北大)
3. 沿岸漁業における「新たな資源管理」と「海洋環境変化」
三浦秀樹(全漁連)
4. 気候変動と不漁問題
中田 薫(水産機構)
5. 国際的な漁業資源の現状
西田 宏(水産機構)
Ⅱ.第二の柱 増大するリスクも踏まえた水産業の成長産業化の実現
1. 沿岸漁業の持続性確保と漁村地域の存続
板谷和彦(函館水試)
2. 成長産業化の方向性と課題
工藤貴史(海洋大)
3. 日本の養殖業における現状と成長産業化の課題
金柱 守(日本水産)
4. エコラベルと水産物輸出の促進
大石太郎(海洋大)
5. 沿岸漁業におけるDX実装に向けた課題
桑村勝士(宗像漁協組合長)
Ⅲ.第三の柱 地域を支える漁村の活性化の推進
1. 漁業関係者による浜プランの改善の仕組み「浜の道具箱」
竹村紫苑(水産機構)
2. 現場の求める事前復興 ~福島県における震災・原発事故への対応を基に~
鷹崎和義(福島県水産事務所)
3. 水産物地域流通の再評価と再構築の検討
副島久実(摂南大)
4. ブルーカーボンを活用した水産業からの気候変動対策とその社会実装
堀 正和(水産機構)
5. 洋上風力と漁業の共存の道をさぐる
塩原 泰(海産研)
Ⅳ.総合討論
森下丈二(海洋大)
閉会のあいさつ
八木信行(東大・農)