加入年齢をシラス期終了後とし,シラス漁獲の影響を考慮したBeverton and Holt型再生産式を導いた。1977–2019年におけるカタクチイワシ対馬暖流系群のVPAの結果を用いて,未知パラメータを推定した。その結果,シラス期に漁獲がある場合とない場合の加入量を比較すると,シラス期の平均漁獲係数を用いて計算される加入量はシラスの漁獲がない場合の70%に減少することがわかった。
重要資源である北海道南部太平洋産ソウハチの耳石薄片を用いた年齢査定法と年齢と体長の関係を検討した。表面法の年齢査定精度は低く,査定者1名による二度の年齢査定結果の一致率は58%に留まったが,薄片法では93%と大幅に改善された。雄と雌の年齢と体長の関係は,それぞれLt=232×(1-e(-0.57×(t-0.26))),Lt=299×(1-e(-0.43×(t-0.29)))と推定され,過去に表面法で推定された同海域の,また北海道西部日本海の石狩湾の報告より,成長が速いことがわかった。
1984–2021年の播磨灘南部におけるChattonella属2グループ(C. antiqua + C. marina,およびC. ovata)の出現状況と環境要因を調べた。赤潮発生頻度(>10 cells/mL)は,前者では1990年を境に低下したのに対し,後者では2002年以降上昇した。C. antiqua + C. marinaの増殖ピーク日は1997年を境にそれ以前より約1か月早期化し,7月上旬から中旬となった。この早期化には長期的な水温上昇とDIN濃度低下による影響が示唆された。
2020年の宇和島湾において,観測史上最も遅い9月上旬から11月中旬にかけて有害渦鞭毛藻Karenia mikimotoiの赤潮が発生した。本種の遺伝子は冬季から検出されていたものの,黒潮の離岸に伴う低水温や競合種の存在によって増殖が遅れ,8月中下旬に発生した急潮が,水温上昇,競合種の拡散,底層への栄養塩供給をもたらすことで増殖を促進した可能性がある。さらに,台風が西風によってプランクトンを宇和島湾奥部に集積させるとともに,日照時間を減少させたため,赤潮の発生に至ったと考えられる。
日本の水産政策改革による漁獲制限の対象魚種拡大は漁業者に経済的影響を及ぼす可能性がある。本研究では漁獲制限の経済的影響を把握するため東京都中央卸売市場の日報を用いてキンメダイの需要曲線を推定した。結果として,価格伸縮性は低く供給量が減少しても価格が上昇しにくいことが示唆された。推定値を用いて漁獲制限による影響をシミュレーションした結果,供給量が30%減少すると年間販売金額は約27–34%減少すると推定された。漁獲競争が起こるシナリオでは特に下落が大きく,効果的な漁業管理政策が重要となる。
2023年は黒潮系水の波及が強いことから,黒潮に輸送され宮城県沿岸に来遊するマアナゴ葉形仔魚の来遊量が例年よりも多いと予測されたため,2023年の葉形仔魚の採集結果を2013–2022年のデータと比較した。2023年は採集尾数,CPUE共にこれまでで最も高い値を示した。葉形仔魚の来遊期である3–6月の水温及び塩分は2023年が最も高かった。これらのことから,予測のとおり,例年よりも黒潮系水の沿岸への波及が強く,多くの葉形仔魚が宮城県沿岸に輸送されたものと考えられた。2023年の葉形仔魚の大量来遊が卓越年級群につながるかどうか継続的な調査が必要である。
カキ類の貝殻は個体毎に形が異なることから,外観から産地や銘柄を判別するのは極めて困難である。そこで本研究では,カキ類の稚貝が付着場所の表面に沿って成長する性質に着目し,凹凸により任意の文様を表面に成形した付着器上でカキ類の稚貝を育成することで,付着器に施した文様をカキの左殻に転写することが可能かどうかについて検証を行った。本研究の結果,付着器表面に凹凸で文様を成形することで,養殖カキの左殻に文字,図形または絵柄などの任意の文様を転写することが可能であることが明らかになった。
日本水産学会誌第90巻3号(May 2024)冊子の目次において著者名に誤りがありましたので,訂正いたします。
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国立研究開発法人水産研究・教育機構 第20回成果発表会を開催
誤: 荒木大介 正: 荒井大介