Fishery Performance Indicators(FPI)は,資源・経済・社会の三つの側面から包括的に漁業管理評価を行う枠組みである。本稿ではFPIを用いて北海道の太平洋沖合底曳網漁業管理を評価し,国内外の149の漁業の評価と比較した。資源スコアは4.25で150漁業中27位,社会スコアは4.31で18位と非常に高い順位となった。経済スコアは3.41で71位となり,あまり高い順位とはならなかった。この結果には,経済面よりも社会面を重視する日本型漁業管理の特徴が表れていると考えられる。
京都府宮津市養老地区のクロアワビ素潜り漁業を対象に,TAC(オリンピック方式,2021年)およびIQ(均等割当,2023年)を導入した年の漁獲効率を総量規制がなかった2019~2020,2022年と比較した。漁獲効率はDeLury法で計算し,パラメータは最尤法で推定した。漁業者による漁獲効率の差異および過分散を考慮した場合としない場合の4つのモデルをAICで比較し,漁業者毎の漁獲効率と過分散を考慮したモデルを採用した。漁獲効率は2021年で顕著に上昇しており,2023年もやや高い傾向にあった。
高知県鏡川における鏡ダム湖上流域で陸封したダム湖アユと放流した海産系統の人工アユを側線上方横列鱗数と耳石Sr:Ca比で判別し,人工アユの釣獲と繁殖の貢献を調査した。その結果,2017年5–9月に採集されたアユは8–83%が人工アユであった。次に,ダム湖アユの起源をMS-DNA多型解析で推定したところ,ダム湖アユは琵琶湖産系統と海産系統の交雑集団であった。ダム湖アユのうち,11–12月の産卵に由来する遡上群は23–27%が海産系統に帰属し,人工アユが再生産に少なからず寄与していると考えられた。
スイゼンジノリの細胞外多糖(サクラン®)は機能性高分子として需要が見込まれるが,屋外養殖場における養殖量は激減している。本藻の室内養殖を最終目的に,単藻分離株を用いた簡易小規模室内培養法を開発した。ポリエチレン製の袋を培養容器とし,培養温度22–24°C,冷陰極管光(13–15 µmol photons m-2 sec-1)12時間明12時間暗サイクルのもと4か月間の静置培養により,約3.5 kg m-2 年-1(湿重量)の藻体を得ることが可能となった。細胞外多糖含量は乾燥重量当たり> 50%であった。
タイラギの陸上養成の開始適期を把握するため,4月あるいは5月から22°Cで給餌飼育し,約1か月後の成熟,栄養,産卵の各指標を比較した。陸上養成後の内臓指数,閉殻筋指数,閉殻筋グリコーゲン濃度は,いずれも両試験区間に有意差は認められなかった。生殖巣の発達段階について,4月区の雄は成長初期から成熟期に発達したが,雌は成長初期・後期から退行した。一方,5月区は雌雄ともに成長後期から成熟期に発達し,産卵誘発による放卵放精も観察された。陸上養成の開始は,雌の殆どが成長後期に達する時期から可能と考えられた。
加重および密封によるあんじょうが,乾燥時におけるからすみの水分挙動と品質におよぼす影響を検討した。水分含量および1H T2強調画像の結果より,加重によるあんじょうが,からすみ試料の乾燥に最も効果的であった。また乾燥の進行により,試料中のヤング率上昇と褐変の促進が確認された。加重試料では,対照試料で観察された表面の凹凸や内部のひび割れが発生しなかった。したがって,からすみ製造時における加重によるあんじょう工程は,乾燥の促進に加えて成形およびひび割れ防止などの視覚特性向上に有効であると示唆された。
シマアジを神経締めと野締めで処理した際に,鮮度保持および消費者評価にどのような差が生じるかを検証した。鮮度保持効果検証のため,締め方の異なるシマアジの鮮度を約10日間測定した。消費者評価検証のため,締め方の異なるシマアジの刺身を用いた試食実験を実施した。その結果,神経締めは野締めと比較してシマアジの鮮度低下を遅らせる効果があることが判明したが,締め方の違いに対する消費者評価の主観的な違いはほぼ検出されなかった。従って,神経締めの価値は主に鮮度低下を遅らせて商品寿命を延ばすことにあると考えられる。
新規原料としてアメリカミズアブ(ミズアブ)粉末を含む飼料でトラフグの長期給餌を実施した。トラフグ幼魚(体重27.0 g)に魚粉主体の飼料を給餌するFM区と,魚粉の10%をミズアブ粉末とした飼料を給餌するBSF10区を設定し,16か月半の間飼育した。FM区と比較してBSF10区の体重,体長,肥満度のいずれも有意差は無く,飼料効率の低下も認められなかった。試験区ごとの反復を行わなかったが,幼魚から成魚までの長期間,ミズアブ粉末で魚粉を10%置換しても,トラフグの成長に顕著な悪影響は認められなかった。