膵臓
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21 巻, 6 号
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〔特集〕「急性膵炎診療のガイドライン」をめぐって
  • 平田 公一, 木村 康利, 信岡 隆幸, 大島 秀紀, 真弓 俊彦, 吉田 雅博, 高田 忠敬
    2006 年 21 巻 6 号 p. 471-478
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/02/08
    ジャーナル フリー
    本邦の急性膵炎の診断・治療成績は国際比較において優秀とされてきたが,その基盤となる背景には重症例に対する高度集中治療法施行の普及と適切な診断のもとでの妥当な治療方針の立案とその実施が十分になされている点にある.さらなるブレイクスルーを図る目的を含めた2003年のガイドラインの発刊によって,国内の隅々までの上記医療の普及に努力が払われたことにより,均質化した医療体制の構築が図られ,さらなる治療成績の向上が伺われるに至っていると考えられる.そして間もなく,ガイドライン発刊後4年を経ようとしており,現在改訂へ向けて意見の収集や内容の充実を図る検討がなされている.本邦の現状のシステムに対し何を問いかけ,信頼の高い安定した急性膵炎医療体制作りには何が大切か,の問題点を抽出し,前向きに改訂へと尽力しており,それを支える基本理念を紹介した.
  • 関本 美穂, 今中 雄一
    2006 年 21 巻 6 号 p. 479-483
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/02/08
    ジャーナル フリー
    EBM(Evidence-based medicine)とは,「良心的・分別的・系統的に,現在用いうる最良のエビデンスを用いて,個々の患者ケアに関する意思決定を行う」ことであり,「エビデンス」とは患者集団を対象に行った研究から導き出された,疾病の頻度やリスク・治療の有効性に関する情報である.一方診療ガイドラインは,「特定の臨床状況のもとで,適切な判断や決断を下せるよう支援する目的で体系的に作成された文書」であり,医師の診療行為を改善させる手段として最もよく利用されている.最近のガイドラインは,患者アウトカムの改善を第一の目的として,エビデンスを重視して開発されている.忙しい臨床医にとってガイドラインは,最新の医学知識を手早く仕入れ自分の診療に役立てるための貴重な情報源である.ガイドラインの推奨は必ずしもすべての患者に適応できるわけではなく,個々の患者にとって最良の診療を提供するための臨床決断は,依然として医師の役割である.
  • 吉田 雅博, 高田 忠敬, 平田 公一, 真弓 俊彦, 小泉 勝, 伊佐地 秀司, 武田 和憲, 広田 昌彦, 関本 美穂, 木村 康利, ...
    2006 年 21 巻 6 号 p. 484-490
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/02/08
    ジャーナル フリー
    【目的】2003年7月に「エビデンスに基づいた急性膵炎の診療ガイドライン 第1版」が出版され,1万部余が出版された.今回,英文版を刊行する目的は,日本の実臨床を踏まえた本ガイドラインの内容を世界に向けて発信し,国際的な評価を受けることで,内容のさらなる充実を図ることである.【英文化の方法】出版責任者を高田忠敬(帝京大学主任教授),委員長を平田公一(札幌医科大学教授)とし,出版作業を行った.2005年1月~2月:日本語版の内容,表記法,推奨法の再検討会議を開催し,項目ごとの論文を作成し,投稿する形式とした.同年3月~4月:問題点改訂部位の検討およびクリニカルクエスチョン作成.同年5月~7月:英文化作業.同年8月~9月:英語版の内容,表記法,推奨法再評価会議.2006年2月:Journal of Hepato-Biliary-Pancreatic Surgeryの学術論文としてSpringer社より出版した.この論文は,フリーダウンロードとしており,全世界どこからでも自由にアクセスし,ダウンロード可能である.【期待される効果】胆膵領域の日本発国際版ガイドライン出版は初めての事業である.欧米においてはその地域独特の医療情勢に合わせて独自の急性膵炎ガイドラインが作成されているため,今回の英文化作業および出版によって,欧米のガイドラインとJPN Guidelinesの比較検討が広く世界的に行われ,さらなる内容の改良と臨床医療への効果が期待される.
  • 北川 元二
    2006 年 21 巻 6 号 p. 491-494
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/02/08
    ジャーナル フリー
    急性膵炎の診断には来院時に十分な特異度と感度をもって診断ができ,かつ簡便で短時間で結果が判明する検査法が理想とされる.血液検査では血中アミラーゼの測定はほぼ満足できる検査法であるが,その限界を補うために測定可能な施設では血中リパーゼの測定が望ましい.試験紙法による尿中トリプシノーゲン2の測定は急性腹症の鑑別診断および急性膵炎診断の迅速化に有用であり,今後期待されている検査法である.画像診断では,造影CTは膵炎の診断のみならず,重症度判定にも重要な情報を与えてくれる.しかしながら,どこの施設でもCT検査が24時間緊急で実施できるわけではない.さらに,わが国ではヨード造影剤の添付文書において急性膵炎では造影剤の使用が原則禁忌となっているので,ガイドラインでは何らかの解説を加える必要がある.
  • 武田 和憲
    2006 年 21 巻 6 号 p. 495-499
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/02/08
    ジャーナル フリー
    急性膵炎の診断・治療の進歩により,重症急性膵炎の死亡率は著しく低下している.重症度をできるだけ早期に判定し,重症急性膵炎と判定された場合には高次医療施設で適切な治療を受けることが救命率の改善に繋がるため,急性膵炎診療において重症度判定基準は不可欠である.しかし,我が国の急性膵炎重症度判定基準は18項目の予後因子からなる煩雑なもので,臨床現場ではきわめて使いにくい.また,類似の病態を示す予後因子の重複もみられ,発症早期に出現しにくい臨床徴候が含まれている.初期輸液が測定値に直接的に影響を及ぼす予後判定因子もみられる.単純CTは膵病変の評価が難しく,CT Gradeも死亡率と相関していない.また,判定基準では,軽症・中等症・重症に分類されているが,軽症・中等症は死亡率にも差がなく,治療方針が同じであり,これを分ける臨床的意義は少ない.こうした問題点をふまえて現在,改定案が作成されている.
  • 木村 康利, 平田 公一
    2006 年 21 巻 6 号 p. 500-503
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/02/08
    ジャーナル フリー
    2003年に「エビデンスに基づいた急性膵炎の診療ガイドライン」が上梓された.本ガイドラインにおいて搬送基準を設定した意図は,急性膵炎治療成績の向上と救命率の改善にある.急性膵炎は重症化するほど死亡率が高率となることから,搬送基準のコンセプトは,1)重症と判定された症例に対する迅速・確実な対応,2)重症化リスクを有する症例の拾い上げ,である.本ガイドラインでは,重症度診断をもとにした専門施設への搬送が推奨されているが,搬送基準の普及・認知度は充分とはいえない.今後の改訂を経て,実地臨床上有用で,本邦の実情に即した搬送基準へ改善していくことが重要である.さらに,臨床現場への普及・認知に関してもさらなる努力が必要である.
  • 竹山 宜典, 木原 康之, 大槻 眞
    2006 年 21 巻 6 号 p. 504-509
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/02/08
    ジャーナル フリー
    「急性膵炎の診療ガイドライン」が上梓され3年が経過し,予後改善が期待される.実際,ガイドライン発刊前でも全国調査結果の致死率には着実に改善傾向が見られており,初期治療方針の啓蒙により早期死亡が減少した結果と考えられる.しかし,感染に起因する後期死亡の比率はかえって増加している.感染と外科治療に関連するガイドラインの項目を検討すると,感染性膵壊死の診断におけるFNA,非感染性膵壊死に対する壊死部切除,膵膿瘍に対する治療方針などに検討の余地があると考えられる.そこで,2003年の症例を対象として行われた急性膵炎全国調査における重症549例の外科治療成績を,1995年から1998年に行われた調査結果の成績と比較解析した.その結果,手術施行率の低下と手術施行例の致死率の低下が確認された.さらに,外科治療における壊死部切除の比率が16%から35%に上昇しており,胆石膵炎に対するESTなどの内視鏡治療や経皮的ドレナージなどが積極的に導入された結果であると考えられた.一方,壊死部切除症例の25例中7例は術前診断が膵膿瘍であり,膵膿瘍の診断と治療に改善すべき問題があると考えられた.2003年の調査症例では,膵膿瘍と診断された症例の致命率は23%で,感染性膵壊死と診断された症例の致命率(25%)とほぼ同等で,決して低くないことが判明した.これは,膵膿瘍と診断されても,その後,壊死部切除や外科的ドレナージが必要であった症例の予後が不良で,さらに経皮的ドレナージのみで治療した症例の致死率も20%と高いことに起因していた.膵膿瘍の診断は安易につけるべきではなく,感染合併例に対しては常に感染性膵壊死を念頭に置くべきであること,経皮的ドレナージ症例でも,感染性膵壊死を疑えば手術を躊躇することなく選択すべきことを示している.現行ガイドラインにおいても,「経皮的ドレナージで改善が見られない場合の外科的ドレナージ」が推奨度Bとなっているが,ガイドライン改定に際して,このことを一層強調する必要があると考えられた.
  • 桐山 勢生
    2006 年 21 巻 6 号 p. 510-513
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/02/08
    ジャーナル フリー
    胆石性膵炎は,膵炎のみならず胆管結石,胆管炎の病態が加味されるためガイドラインにおいても他の成因による膵炎とは一律に論じられない点がある.現行のガイドラインでは画像検査と生化学検査から胆石性膵炎と診断した後に,胆管炎や胆道通過障害の有無で緊急ERC/ESを判断することが推奨されている.しかし,具体的にどのような所見をもって胆石性とし,さらに胆管炎や胆道通過障害をいかにして確認するか,十分に示されていない.今後,エビデンスに基づき胆石性膵炎の診断根拠,緊急ERC/ESTの適応基準が作成されコンセンサスが得られることが望まれる.
  • 真弓 俊彦, 高田 忠敬, 平田 公一, 吉田 雅博, 木村 康利, 関本 美穂, 和田 慶太, 武田 和憲, 伊佐治 秀司
    2006 年 21 巻 6 号 p. 514-518
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/02/08
    ジャーナル フリー
    2003年にエビデンスに基づいた急性膵炎の診療ガイドラインが作成された後,3年を経過し,日本腹部救急医学会急性膵炎診療ガイドライン再評価委員会は,関連団体に所属する医師にアンケートを実施し,ガイドライン前後での診療行為の変化などについての調査を行った.診療ガイドラインによってガイドラインに沿った診療行為の変化が多くの領域で認められた.ガイドライン前後(2002年と2004年)での重症膵炎症例数の増加(363例から524例)と死亡率の低下(10.2%から7.6%)が示唆された.しかしながら,関連領域の専門家であってもガイドラインを読んでいない医師も少なくなく,ガイドラインの普及がまだ十分でないことや,診療行為に変化をもたらしえない場合もあることが判明した.これらの結果や記述式の御提案を改訂版作成に役立てたいと考えている.また,現在,改訂作業が始まっており,フィードバックを頂き改変を行った後,2007年3月に改訂版を刊行する予定である.
症例報告
  • 御供 真吾, 佐々木 亮孝, 舩渡 治, 板橋 英教, 藤田 倫寛, 武田 雄一郎, 星川 浩一, 高橋 正浩, 新田 浩幸, 川村 英伸, ...
    2006 年 21 巻 6 号 p. 519-524
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/02/08
    ジャーナル フリー
    症例は57歳男性.平成16年3月下旬より腹痛が出現し近医を受診した.急性膵炎の診断で当院救急センターに搬送,入院となった.入院時のCT grade分類ではgrade4で,TP5.4 g/dl,PO2(room air)59.7 mmHgと重症急性膵炎と診断された.蛋白分解酵素阻害剤,抗生剤点滴等の治療を行い症状軽快し一旦退院となった.CTにて膵尾部に長径6 cm大の内部に充実成分を伴う多房性嚢胞性病変を認め,経時的に縮小傾向は認めなかった.ERCPにて主膵管の拡張と主膵管と嚢胞との交通を認め,交通した嚢胞内に粘液と思われる透亮像を認めた.MRCPでは主膵管と拡張分枝膵管(嚢胞)との交通を認めた.混合型intraductal papillary mucinous neoplasm(IPMN)と診断し,7月中旬,体尾部脾臓合併切除を施行した.腫瘍は病理診断で腺癌と診断された.重症急性膵炎の原因としてIPMNも念頭におき検索することが重要であると考えられた.
  • 石田 晶玄, 江川 新一, 坂田 直昭, 三上 幸夫, 元井 冬彦, 阿部 忠義, 福山 尚治, 安西 良一, 丹野 弘晃, 砂村 眞琴, ...
    2006 年 21 巻 6 号 p. 525-529
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/02/08
    ジャーナル フリー
    膵粘液性嚢胞腫瘍は中年女性の膵体尾部に発生することが多く,卵巣様間質の存在が特徴とされている.今回我々は,嚢胞の破裂により急性腹症にて発症した粘液性嚢胞腺腫を経験したので報告する.症例は47歳,女性.突然の上腹部痛にて発症し,膵嚢胞性腫瘍およびその破裂による急性腹膜炎の疑いにて膵体尾部切除術を施行した.腫瘍は多房性であり,腹腔内に粘液が貯留していた.病理組織学的に卵巣様間質を認め,粘液性嚢胞腺腫と診断した.術後,5年経過し,無再発生存中である.初発症状として急性腹症を呈することは極めて珍しく,文献的考察を加えて報告する.
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