膵臓
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22 巻, 5 号
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総説
  • 柳澤 昭夫
    2007 年 22 巻 5 号 p. 529-533
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/09
    ジャーナル フリー
    膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary-mucinous neoplasms:IPMNs)は,1982年大橋らが主膵管内の多量の粘液貯留に起因する主膵管拡張と十二指腸乳頭口開大などの臨床的特徴を示す予後の良い膵癌として「粘液産生膵癌」と命名し報告して以来,四半世紀の25年が経過した.四半世紀過ぎたことにより"IPMNs由来の浸潤癌"も多く報告がなされており,これらの報告をもとに特徴をまとめると以下のようになる.平均年齢は65歳前後,性差は男性に多い.好発部位は頭部で,60%以上同部がしめる.浸潤部の組織型はほとんど(90%以上)が粘液癌と管状腺癌である.両者の比率はほぼ同様であり,通常の浸潤性膵管癌組織型における粘液癌のしめる頻度から考えると粘液癌の比率が非常に高い.予後は通常型の浸潤性膵管癌と比較して良い.特に粘液癌の予後は良い.以上が報告のまとめである.これらの結果は必ずしも厳密な"IPMNs由来の浸潤癌"の組織学的定義に基づいた報告の集積結果ではないが,いずれの国の報告も同様の結果であり"IPMNs由来の浸潤癌"の特徴を表しているものと考える.しかし,真のこの腫瘍の生物学的悪性度を知るためには,厳密な組織学的診断のもとでの症例集積によるさらなる分析が必要と考える.
  • 西森 功
    2007 年 22 巻 5 号 p. 534-546
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/09
    ジャーナル フリー
    炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase;CA)は二酸化炭素の水和反応を可逆的に触媒する亜鉛要求性の酵素であり,酸塩基平衡,pH調節,CO2輸送など基本的な生理機能において中心的な役割を担っている.これまで12種類のヒト活性型CAアイソザイムが知られているが,各アイソザイムは種々の附加的な分子構造を有し,様々な細胞内局在を示す.ヒト膵管細胞ではCA II, IV, IX, XIIがHCO3-輸送体と共に"bicarbonate transport metabolon"を形成し,効率良くHCO3-を分泌している.また,ランゲルハンス島β細胞のミトコンドリア内にはCA VBが存在し,インスリン分泌に関与している.一方,膵癌細胞では膜貫通型アイソザイムCA IX, XIIの発現増強が見られ,癌細胞の増殖や浸潤能を増強している.また,自己免疫性膵炎を含む多発性外分泌腺炎の免疫病態において,CA II, IVが標的抗原としての役割を持つ可能性が示されている.
原著
  • 武田 和憲, 木村 憲治, 佐藤 明弘
    2007 年 22 巻 5 号 p. 547-555
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/09
    ジャーナル フリー
    我々は,multi-detector row CT(MDCT)を用いた膵のperfusion CTによる膵血流の評価を行い,急性膵炎早期の膵病変診断とくに壊死性膵炎診断における有用性を検討した.健常人10例,急性浮腫性膵炎7例,急性壊死性膵炎5例についてperfusion CTを行い,perfusion, peak enhancement intensity(PEI),time to peak(TTP),blood volume(BV)について検討した.急性膵炎では,健常人と比較して,perfusion, PEI, BVのいずれも有意に低下し,TTPの延長が認められた.急性膵炎での比較では,壊死性膵炎の造影不良域は,浮腫性膵炎に比較して,perfusion, PEI, BVのいずれにおいても明らかな低下が認められた.2週間後のfollow-up perfusion CTでは,浮腫性膵炎は明らかにperfusionが回復したのに対して,壊死性膵炎ではさらにperfusionの低下がみられた.急性膵炎発症早期にMDCTを用いたperfusion CTを行うことで,膵の灌流状態を評価することが可能であり,膵壊死の診断精度が飛躍的に向上するものと考えられた.
症例報告
  • 旭吉 雅秀, 千々岩 一男, 大内田 次郎, 今村 直哉, 永野 元章, 内山 周一郎, 甲斐 真弘, 近藤 千博
    2007 年 22 巻 5 号 p. 556-562
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/09
    ジャーナル フリー
    症例は62歳の男性で,便秘に対する精査で行われた腹部CTで膵腫瘍を指摘され,当科に紹介となった.腹部超音波検査では,膵尾部に約3cm大の低エコー性腫瘤を認めた.腹部単純CTでは,低吸収腫瘤として描出され,造影CTでは動脈相で強い造影効果を示した.血管造影でもhypervascularなtumorで,超音波内視鏡検査では嚢胞の存在は認めなかった.血液検査では内分泌学的なホルモンの異常は認めなかった.非機能性の膵内分泌腫瘍の術前診断で脾温存膵尾部切除術を施行した.切除標本は被膜を有する弾性硬な充実性の腫瘍であり,肉眼的には嚢胞成分は認めなかった.病理組織学的には,無数の小嚢胞が繊維性間質を伴って増生しており,その内面は透明な細胞質を持つ立方上皮で構成され,PAS染色陽性でグリコーゲンが豊富であり漿液性嚢胞腺腫(solid variant)と診断した.膵内分泌腫瘍との鑑別を要した稀なsolid variant typeの膵漿液性嚢胞腺腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
  • 杉本 克己, 唐木 洋一, 鈴木 弘文, 林 伸一, 山本 和夫, 山森 秀夫, 隆 元英, 菅野 勇
    2007 年 22 巻 5 号 p. 563-567
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/09
    ジャーナル フリー
    急速な経過を示した膵腺扁平上皮癌の2剖検例を経験したので報告する.症例1は83歳の女性で,主訴は食欲不振.エコー·CTで肝転移をともなう,胃前庭部から十二指腸下行脚にかけての腫瘤を認めた.病状の進行が早く,初診より1ヶ月半,入院より1ヶ月で死亡した.剖検では,十二指腸浸潤を示す膵頭部癌を認めた.組織像では約3/4が低分化型の扁平上皮癌,1/4が中分化型の管状腺癌からなり,腺扁平上皮癌と診断された.症例2は75歳の女性で,自己免疫性肝炎の既往あり加療中であった.主訴は全身衰弱.エコー·CTで肝転移·副腎転移·左腎浸潤をともなう後腹膜腫瘤を認めた.全身状態が悪く,入院より1ヶ月で死亡した.剖検では,胃後壁,横行結腸,空腸起始部,脾臓,左腎へ浸潤を示す15cm大の膵尾部腫瘤を認めた.組織像では索状,充実性増殖を示す扁平上皮癌が主体で,脾門部では中分化型の管状腺癌からなり,腺扁平上皮癌と診断された.
  • 長見 晴彦, 織田 偵二, 仁尾 義則, 矢野 誠司, 板倉 正幸, 野坂 誠士, 佐藤 仁俊, 小池 誠, 大森 浩志, 西 健, 川畑 ...
    2007 年 22 巻 5 号 p. 568-575
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/09
    ジャーナル フリー
    42歳,男性の膵未分化癌の1例を経験した.主訴は左腰背部痛,腹部膨満感であった.血液学的検査ではDupan II, Span I, エラスターゼIが上昇していた.上腹部Computed Tomography(CT)像にて膵尾部に低吸収域な腫瘍を,上腹部エコーにて低エコー性腫瘍を認め,また内視鏡的逆行性胆道膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography;ERCP)では膵管の狭窄,不整は認めず,腹部血管造影では腫瘍は脾動脈,中結腸動脈,下結腸動脈から栄養されていた.以上の画像診断,血液検査から通常の浸潤性膵管癌とは異なる疾患と推測された.手術時所見では胃背側部,横行結腸に浸潤する巨大腫瘍を認め,血性腹水を伴った腹膜播種が存在し切除不能であった.
    術中に摘出した転移リンパ節の病理組織学的検査により膵由来の低分化型腺癌と診断し,また免疫組織化学的検索ではcytokeratin 7,20,epithelial membrane antigen(EMA),vimentin,M-actin,S-100は陽性であった.以上の所見より本腫瘍は膵原発未分化癌と診断した.なお自験例は術後化学療法を施行したが術後23日目に肝不全にて死亡した.本疾患は膵腫瘍の中では比較的稀であるが,腫瘍径が小さければ外科的切除を施行し,放射線療法,化学療法を積極的に行うべきである.今回のように巨大な腫瘍では切除不能例が多く,放射線治療,化学療法を含めた治療が必要と考えられた.
  • 多田 正晴, 土井 隆一郎, 上 和広, 小川 晃平, 川口 義弥, 江川 裕人, 上本 伸二
    2007 年 22 巻 5 号 p. 576-581
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/09
    ジャーナル フリー
    患者は62歳,男性.肝両葉に転移を伴う膵頭部癌に対して,tegafur, gimeracil, oteracil potassium(S-1)と塩酸gemcitabine(GEM)併用全身投与化学療法(S-1,80mg/body:day1-14の2週間連日投与,GEM,1200mg/body:day1, 8に投与,1週休薬:day15-21で1クール)を開始.原発,転移巣ともにPRが得られ継続されていた.6クール終了時より,食後の心窩部痛と発熱,下血を認めたため入院精査したところ,急速な腫瘍壊死によると考えられる膵頭部腫瘍の十二指腸への穿通を認めた.保存的治療では軽快せず,バイパス術を施行し軽快退院した.膵癌に対し,S-1とGEMの併用化学療法は有効な治療選択の一つとして期待されるが,急速な腫瘍壊死,縮小効果をきたした場合,本症例のような周囲臓器への穿通といった合併症がおこる可能性があることに留意する必要がある.
  • 宮田 英樹, 佐藤 一弘, 岩尾 年康, 吉田 浩司, 長田 祐輝, 河瀬 智哉, 野村 佳克, 高森 繁, 味岡 詠生弌
    2007 年 22 巻 5 号 p. 582-590
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/09
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,女性,スクリーニングで行った腹部超音波検査にて膵管拡張を指摘され,精査加療を目的に入院となった.CT,超音波内視鏡(EUS)では明らかな腫瘤像を描出できなかったが,内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)にて頭部主膵管に限局性の狭窄を認め,その近傍の分枝膵管にも狭窄や不整拡張所見を認めた.同時に施行した膵液洗浄細胞診にてclass IIIbを認め,膵管癌と診断し,幽門輪温存膵頭十二指腸切除を施行した.病理組織学的には,癌は分枝膵管の上皮から発生して,長軸方向に約7mm長に表層を発育し一部主膵管上皮にまで進展していた.さらに癌は分枝膵管上皮を越えて,ごくわずかに間質に及ぶ微小浸潤の所見を示した.組織学的な浸潤の範囲も併せると3mmほどの微小な膵癌と診断された.微小浸潤膵管癌の診断にERCPと膵液洗浄細胞診の組み合わせが有用であったため,報告する.
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