膵臓
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24 巻, 4 号
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総説
  • 能登原 憲司
    2009 年 24 巻 4 号 p. 479-484
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/02
    ジャーナル フリー
    自己免疫性膵炎(AIP)の臨床病理像は,本邦と欧米で異なることが指摘されている.本邦では,病理学的にlymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(LPSP)と呼ばれる病変がAIPと報告され,AIP/LPSPが臨床病理学的概念として確立されてきた.さらに今日では,LPSPはIgG4の異常を有することが明らかになり,IgG4関連硬化性疾患の膵病変と位置づけられている.一方欧米にはLPSPに加えて,idiopathic duct-centric chronic pancreatitisやAIP with granulocytic epithelial lesionと呼ばれる,本邦ではまれな病変が存在し,多くの報告でAIPに含められてきた.このことが,本邦と欧米の間でAIPの臨床病理像の違いを生む原因になったと考えられる.
原著
  • 廣岡 智, 里井 壯平, 柳本 泰明, 豊川 秀吉, 山本 智久, 山尾 順, 金 成泰, 松井 陽一, 權 雅憲
    2009 年 24 巻 4 号 p. 485-492
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/02
    ジャーナル フリー
    2002年9月より悪性腫瘍に対する(全胃温存)膵頭十二指腸切除術(以下,PD)に際して一定の条件化で自己血輸血を導入したのでその影響について検討した.2000年1月∼2007年4月までのPD連続135例の内,自己血導入前の38例を導入前群,その後の97例を導入後群とした.2群間で背景因子,輸血率,合併症率を比較検討し,さらに導入後群内で同種輸血を要する危険因子の同定を行った.2群間の比較にて,出血量のみ導入後群で有意に減少していた.術中同種輸血率は61%から35%へと有意に減少した(p<0.0001).導入後群内での比較検討にて,同種輸血群に比し自己血群と無輸血群では出血量は有意に少なく(p<0.0001),手術時間は有意に短かった(p=0.048).多重回帰分析を行った結果,同種輸血を要する危険因子は,術前Hb低値(Hb<11g/dl)と術中出血量過多(>1270ml)と同定された.
  • 池浦 司, 高岡 亮, 島谷 昌明, 内田 一茂, 岡崎 和一
    2009 年 24 巻 4 号 p. 493-499
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/02
    ジャーナル フリー
    本邦の急性膵炎の重症度判定基準は改訂され,従来の重症度判定基準(旧基準)に比べ簡便で分かり易い新しい重症度判定基準(新基準)が策定された.本稿では臨床経過の観点から新基準の妥当性について検証を行った.対象症例を旧基準と新基準の両方で重症と診断される重症群,旧基準でのみ重症と診断される旧重症群,新基準でのみ重症と診断される新重症群,旧基準と新基準の両方で重症と診断されない軽症群に分類し,臨床改善経過(CRP陰性化までの日数,経口摂取開始までの日数,入院日数)について各群間で比較·検討を行った.その結果,旧重症群は軽症群と比べ臨床改善経過に有意差が認められないのに対し,重症群との比較では有意差がみられた.一方,新重症群は重症群と比べ臨床改善経過に有意差が認められないのに対し,軽症群との比較では有意差がみられた.以上より,新基準は旧基準に比べ臨床経過の観点からより適切に重症度の判定ができていることが示唆された.
症例報告
  • 村岡 孝幸, 泉 貞言, 岡 智, 塩田 邦彦, 中村 聡子, 間野 正平, 桜井 淳, 赤木 史郎
    2009 年 24 巻 4 号 p. 500-506
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/02
    ジャーナル フリー
    症例は78歳女性で嘔吐,腹痛のため近医を受診し,腸閉塞を指摘され当院に紹介された.結腸脾彎曲部の狭窄部に連続した径8cmの嚢胞性腫瘤を膵尾部に認めた.膵癌の結腸浸潤に伴う腸閉塞と診断し,経肛門的減圧後に膵体尾部,脾,結腸,胃局所,左副腎合併切除を施行した.嚢胞壁には腺腫と上皮内癌が混在していた.上皮内癌から浸潤癌への移行像を呈し,さらに腺癌からの扁平上皮癌化を認めた.腫瘍は7割が腺癌で3割が扁平上皮癌であった.粘液産生性嚢胞性膵腫瘍由来の腺扁平上皮癌と最終診断した.大腸イレウスを初発症状とする膵癌及び粘液産生性嚢胞性膵腫瘍由来の膵腺扁平上皮癌はともに非常に稀である.患者は再発により手術から5カ月半後に癌死した.
  • 清水 泰博, 安藤 公隆, 佐野 力, 千田 嘉毅, 二村 雄次, 水野 伸匡, 高木 忠之, 原 和生, 谷田部 恭, 細田 和貴, 山雄 ...
    2009 年 24 巻 4 号 p. 507-512
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/02
    ジャーナル フリー
    症例は50歳代,女性.糖尿病と体重減少で2007年9月に前医を受診,膵尾部に嚢胞性腫瘍を指摘され精査加療目的で当院紹介.US,CT,EUSで膵尾部から腹側に突出する径8cm,比較的厚い被膜を有する嚢胞を認めた.嚢胞と膵の境界部には2cm大の充実性腫瘤が存在し,脾静脈は閉塞し,膵後面結合織への浸潤が疑われた.以上の所見から,浸潤性粘液性嚢胞腺癌を第一に考え,10月膵体尾部·脾切除,横行結腸切除,左腎部分切除を施行した.切除割面で嚢胞は単房性で,嚢胞壁に連続して3.5cmの結節が存在した.病理所見では充実性部分は管状腺癌の所見で,癌は3/4周にわたり嚢胞壁に沿って浸潤,また脾静脈,横行結腸,腎被膜にも浸潤していた.嚢胞上皮は腺腫∼癌の所見を認めたがovarian-like stromaは認めなかった.本例の病態としては浸潤性粘液性嚢胞腺癌,膵管内腫瘍由来浸潤癌,通常型膵癌+貯留嚢胞の可能性が考えられたが,いずれかに決定できる所見は得られなかった.
  • 岡本 豊, 丹藤 雄介, 高杉 かおり, 鈴木 一広, 佐藤 和則, 千葉 裕樹, 相澤 秀, 齋藤 正人, 鈴木 英章, 八森 久, 川部 ...
    2009 年 24 巻 4 号 p. 513-520
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/02
    ジャーナル フリー
    症例は59歳の男性,平成18年9月上旬から,心窩部痛が出現し,9月23日当科を受診した.血液検査で血清AMYの高値,CTで膵臓のびまん性腫大を認め,急性膵炎と診断され,入院となった.保存的治療を開始したが,症状,血液検査の改善を認めなかった.MRCPで総胆管下部に狭窄像を認め,内視鏡的逆行性胆膵管造影(ERCP)を施行したところ肝内胆管のびまん性狭窄像,総胆管下部の辺縁平滑な狭窄像ならびに膵頭部から膵体部にかけての主膵管狭細像を認めた.追加の血液検査では高γグロブリン血症,高IgG4血症を認め,胆管狭窄を伴った自己免疫性膵炎と診断した.入院経過中,硬化性胆管炎を併発したが,ステロイド投与により,膵炎,胆管炎のすみやかな改善を認め退院となった.退院後,ステロイドを漸減中であったが,平成19年9月上旬に硬化性胆管炎の再燃を認め,再入院となった.ERCでは前回とは異なる部位の肝門部胆管から上部胆管にかけて高度の胆管狭窄を認めた.内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(ENBD)を施行し,ステロイドを増量し,胆管炎の改善を認め,退院となった.以降外来でステロイドを維持投与中(プレドニゾロン7.5mg/日)である.
  • 田島 佳奈, 川口 義明, 藤澤 美亜, 大北 一郎, 峯 徹哉, 平林 健一
    2009 年 24 巻 4 号 p. 521-526
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/02
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.上腹部不快感にて当科受診.血液検査所見上,肝胆道系酵素上昇,CA19-9高値.US,CT上,膵尾部に40mm大の乏血性,脾動静脈浸潤疑われる腫瘍と多発肝腫瘍が認められた.ERP上主膵管は体尾部で狭窄しており,膵尾部癌,多発肝転移の診断となった.右外眼角皮膚腫瘍(腺癌),大腸癌,前立腺癌の既往があり,いずれも切除されている.右外眼角皮膚腫瘍は病理組織上,大腸癌,前立腺癌との類似性は少なく,経皮的肝腫瘍生検の組織と類似性を有しており,免疫組織化学染色の結果も合わせ,膵癌の皮膚転移と考えられた.膵癌,多発肝転移に対しては,gemcitabineによる化学療法を開始した.内臓癌の皮膚転移は比較的稀であり,膵癌からの皮膚転移の報告は少ない.多発肝転移を伴う膵癌皮膚転移と考えられた一例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
  • 伊藤 達雄, 中山 昇, 菊山 正隆, 梶原 建熈, 吉澤 明彦, 真鍋 俊明
    2009 年 24 巻 4 号 p. 527-531
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/02
    ジャーナル フリー
    症例は68歳女性.黄疸の精査のため,当院紹介となった.CT上膵頭部に造影効果を受ける径4cm大の腫瘍を認め,内視鏡では十二指腸乳頭部の開口部より腫瘍が突出しているのが観察された.この部分を内視鏡下に生検することにより,術前に病理学的に非機能性膵内分泌腫瘍の診断を得た.
    膵頭部の腫瘍に対して,膵頭十二指腸切除術を行った.病理組織診断では主膵管内に腫瘍が充満し,十二指腸乳頭部の開口部より突出するように進展した,非機能性膵内分泌腫瘍と診断された.
    膵内分泌腫瘍は,一般的には膨張発育形式を示すものが多いとされている.膵管内に腫瘍を認めた報告もあるが,主膵管内に充満し,十二指腸乳頭部の開口部より十二指腸内に突出するように進展するものはまれであると考えられるため,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 宮谷 博幸, 吉田 行雄
    2009 年 24 巻 4 号 p. 532-536
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/02
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性.心窩部痛を主訴に近医に入院.入院時,腹部CT検査でGrade IVの重症急性壊死性膵炎と診断され,保存的治療が施行されたが,食事開始とともに腹痛,発熱が再燃したため,当センターに転院となった.発症1か月後の腹部CTでは膵体部を中心に仮性膵嚢胞を認めたが,保存的加療で改善したため,第82病日に退院した.退院2か月後,膵嚢胞の増大を認めたため,開腹下に膵嚢胞胃吻合術が施行された.腹部CT検査およびEUSでは膵頭部に異常を認めなかった.術後6か月後の腹部CT検査で膵頭体部に40mm大の腫瘤および肝に多発転移を認めた.術後9か月後に吻合部への腫瘍浸潤による消化管出血あり,4日後に死亡した.膵癌に急性膵炎を合併することは時に認められるが,重症化し,巨大な仮性嚢胞を生じることはまれである.自験例では経過中に画像上で膵癌の存在を確認できず,進行した状態で発見された.膵癌が重症膵炎の原因になりうることを念頭におく必要があると考え報告する.
  • 江藤 和範, 河上 洋, 桑谷 将城, 羽場 真, 平野 聡, 近藤 哲, 久保田 佳奈子, 松野 吉宏, 平山 敦, 後藤田 裕子, 浅香 ...
    2009 年 24 巻 4 号 p. 537-547
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/02
    ジャーナル フリー
    症例は70代,女性.虚血性大腸炎で入院した際に施行したCTで膵尾部に脾臓への直接浸潤を伴う腫瘤性病変を認めた.EUSでは膵尾部から膵体部へと連続する腫瘤性病変がみられた.ERPで膵頭体移行部にカニ爪様の膵管閉塞像を認め,同部位からの生検でchromograninA陽性,synaptophysin陽性の軽度異型を伴う類円形腫瘍細胞を確認した.以上の所見より主膵管内進展および脾浸潤を伴った膵尾部内分泌腫瘍と診断し,膵体尾部脾合併切除術を施行した.病理組織学的検査では,広範な脾静脈腫瘍栓が逆行性に脾臓内にまで進展していた.また,主膵管内腔に腫瘍細胞の増殖がみられ,主膵管内進展を呈していた.核分裂像は10強拡大視野で10個未満であったが,脾臓への肉眼的進展がみられたことから悪性膵内分泌腫瘍と診断した.術後補助化学療法は未施行であり,11ヵ月間が経過したが,現在無再発生存中である.
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